とかげくん【発覚】
ぼくはすいりゅうさんと別れて丘を下りた。とかげの体じゃなくなってよかったことは、寒さに強くなったことと空を飛べるようになったこと。冬にだって動き回れるし、もしすいりゅうさんの背中から落っこちちゃっても平気だよ。
空を飛んだ方が早いかな、って思ったけど、ぼくは歩いておうちに向かった。だって、みんなに見られたくないもんね。
おうちに近づいたぼくは異変に気がついた。たくさんのひとがうちに押しかけている。門の内側に立つおばさんを守るようにグレンがみんなを見つめ返していた。
「だから、具合が悪くて寝ていると言ってるだろう」
グレンの言葉に、大きな土とかげのおじさんが首を振る。いなくなったムグラのお父さんだ。
「本当は出て来れないんじゃないのか? もうそろそろ脱皮の時期だろう。夜中にうろうろ歩き回ってるのを見た奴がいるんだよ」
ぼくの噂話だ。ぼくは、体がすうっと冷えていくのを感じた。
「あの子は捨て子だったろう。なあフレア。お前はとんでもないものを拾って来たんじゃないのかい?」
水とかげのバンがおばさんを責めるように眉を
ぼくは被ったシーツをぎゅっと握りしめた。本当は、おばさんとグレンにだけ、こっそり伝えたかったんだ。他の誰にも知られたくなかった。
「毎日毎日蜥蜴が消えている。こんな異常なことがあるか? あの子が食ってるんじゃないのか? あの子は……」
ムグラのお父さんがグレンに詰め寄る。
やめてよ。
ぼくは駆け出した。解けてしまわないように、シーツをぎゅっと握りしめて。
「やめてよ! おばさんとグレンを苛めないで!」
二人の間に割って入ったぼくを見て、押しかけていたみんなが息を呑むのが聞こえた。
「フレア。これは、お前の子か?」
誰かが震える声で訊ねた。
「何故、こんなに大きい」
大きな土とかげのおじさんを見下ろすほどに、ぼくは大きくなっている。
「
誰かが言った。ぼくが、怖くて決して口に出来なかった呼び名。恐ろしい、化け物の名前。
みんながぼくに殴りかかろうとした。忌むべきもの。悪いもの。そんなものに、感情なんか心なんか、無いと思っているみたいに。ほんの何日か前まで一緒に笑っていたことなんて、もう忘れてしまったみたいに。よく見たら、みんな手に武器を持っている。
「やめて!!」
ぼくが叫ぶよりも先に、逃げるよりも先に、おばさんが飛び出した。ぼくの前に立って、小さな手を広げて、ぼくを守ろうとしてくれる。ちっちゃな頃からずっとぼくを守ってくれてたその手で。
だからぼくは決めた。決めていたけど、それでも心のどこかで踏み切れずにいたものを、ちゃんと決めた。
だけどその覚悟を嘲笑うみたいに誰かが鍬を振り上げる。グレンが飛び出したけど間に合いそうにない。
「やめてよ!!」
ぼくは叫んだ。
やめて。ぼくの大事なひとたちを傷つけないで。
ぼくの声に応えるように、空が暗く陰った。見上げると、見たこともないような怖い顔をしたすいりゅうさんが陽の光を遮って、威嚇するように呻り声を上げていた。
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