とかげくん【ぼくの色】
「バンのところの親父さんが戻らないんだそうだ」
「またかい? こないだはムグラが行方知れずだって言ってたじゃないか」
お風呂から上がって居間に戻るとおばさんとグレンが深刻な顔でお茶を飲んでいた。
「どうしたの?」
ぼくが訊くと、この頃何人も行方不明者が出ているのだとグレンが教えてくれる。
「嫌ねえ。
グレンと話していたときとはがらりと口調を変えておばさんがぼくに向き直る。
「あなたも、一人で出掛けることが多いんだから気をつけてね」
今の話し方の方が断然女らしいのに、グレンと話しているときのちょっと乱暴な言葉遣いの方がかわいいなあ、ってぼくは思う。何だか不思議だね。
ぼくは手の甲をさすりながら頷いた。
あったかい砂で擦りすぎたかな。さっきから痛いような痒いようなへんな感じがするんだ。
「うん。気をつけるよ」
ぼくは頷いて、すやすやと眠る赤ちゃんを覗き込む。暖かい暖炉の傍のゆりかごの中で、やわらかいお布団に包まれて、とても幸せそうに寝息を立てている。
最近のぼくの日課なんだ。かわいい弟をうっとりと眺めて、幸せな気持ちのままベッドに入る。そうすると、すてきな夢が見られそうな気がしない?
今日もすごく幸せな気分になって、ぼくはおばさんたちにおやすみなさいを言った。背中に二人のおやすみなさいを聞きながら、ふわあ、と欠伸をする。
昨日夜更かしだったからかなあ。
すいりゅうさんと一緒だと、幸せすぎてついつい長くなっちゃうんだ。だから、次の日はうんと眠い。
今日も早くお布団に入ろう。お風呂であったまってぽかぽかだから、きっとあっという間に眠れちゃうよ。
予想通り、お布団に入ったぼくの瞼はすぐに仲良くくっついて。目が覚めたら忘れちゃう、すてきな夢のなかに落ちていった。
真夜中。やっぱり手が痒くってぼくは目が覚めた。知らない間に
これって、脱皮だよね。
どきどきしながらお月さまの光に手首を
水とかげ。
ぼく、水とかげなんだ。すいりゅうさんとおんなじ、水の生き物だよ。おばさんやグレンと違っちゃったのはちょっと残念だけど、嬉しい気持ちの方が大きいよ。それってダメかなあ。ぼく、悪い子かなあ。
そんなことも思ったけど、すいりゅうさんと同じみずいろのうろこになれるんだと思うと頬が弛むのを止められない。ぼくはにやにやしながらお布団に潜り込んだ。
今からちょっとずつ茶色いうろこが捲れていくよ。何だかくすぐったいけど、すごく楽しみ。明日の朝起きたら、おばさんにも見せてあげなくちゃ。
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