飛行する遊覧船。


新歓の波に呑まれながら、赤羽と一緒にサークルを回った。どこも飲み会が主な活動らしく、わたしも赤羽も笑顔でそれを避けた。

天文同好会の貼り紙を掲示板で見たときから気になっていて、実験室へ行く途中でいつも視線を向けてしまう。


「その貼り紙、うちの講義室の前にもあった」


赤羽とはお昼を一緒によく食べた。天文同好会の話をすると、同じく気になっていたみたいで、今度行ってみようと話がまとまった。



黒岩は既に学部問わず友達の輪を広げていた。すごいな、と遠目にそれを見て思う。

わたしは赤羽と学科の友達と一緒にいるくらいだった。


「當金ー、お願いがある」


英語の授業終わりに後ろから黒岩の声がした。赤羽も一緒に振り向く。


「どうしたの?」

「この前の生化学の実験データもっかい送って欲しい、メールで。携帯の調子悪くてさ、表示されないんだ」

「はーい」

「同じ学科のひと?」


赤羽が肩を寄せて尋ねてくる。


「うん、黒岩くん。学科は違うけど」

「どーも、黒岩春壱です。當金にお世話になってます」

「赤羽です。銀杏と同じ高校出身です」

「なんで二人とも敬語なの?」


その会話を聞いて笑ってしまう。それもそうだ、と赤羽がぽんと手を叩いて顔を上げる。


「よろしく、黒岩」

「よろしく、赤羽」


急にフランクなんじゃない、とわたしが目を瞬かせる番だ。PCを開いてメールを送信する。


「ありがと、今度なんか奢る」

「別にこれくらい」

「そんで分析終わったら、一緒にレポート書こーぜ」

「うん。そうしよう」


黒岩が口約束をして、PCを閉じて去っていく。その背中を目で追っていると、肩を寄せたままの赤羽が口を開いた。


「銀杏が好きなのって、彼?」

「え、い……うん」

「今の間は何なの。銀杏が男子と話してるの初めて見た。予備校で出会ったの?」

「出会い……は、中学の塾で」

「え!? 何年前!?」

「五、六年前かな……」


隣で驚く気配がするけれど、わたしはそちらを向くことはできず、PCを弄った。この話を誰かにするのは初めてで、歯切れが悪くなってしまう。


「銀杏って頭良いし確かに世間を斜めに見るところあんまりないから真面目だなと思ってたけど、その純情っぽい感じがどこから来るのか漸くわかった気がする」

「何が言いたいの」

「一途なんだね」


差し出された言葉が頭に乗る。ぽん、と効果音をつけて。

……そんな聞こえの良いものになって良いのだろうか。








「お」

「あ」


見学に行った天文同好会は年に数回大学の持っている合宿所に行ったり北の方へ行ったりして天体観測をする、星座や神話について学ぶという活動内容。高校で地学を取らなかったのでこの機に触れられたら面白いと思って、入ることに決めた。赤羽も可愛い同級生を見つけたらしく、一緒に入ることにした。


「黒岩くんたちも天文同好会?」

「そ、先輩に引きずられて。當金も?」

「うん、楽しそうだったから」


新歓を行うという居酒屋で、何人もいる会員の中、黒岩が座っていた。隣に仙斎もいる。


「こっち空いてるよ」


ぽんぽんと黒岩が隣の座布団を叩く。赤羽が「じゃ、そっち行こ」と先を歩いた。




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