サクラは散ったか。
桜が咲いている。
入学式が始まって、わたしは来賓紹介のときにぼんやりとあの時のことを思い出していた。
あの雪の日の翌日、何年も熱を出したことのないわたしが熱を出して風邪をひいた。酷い顔をしていたわたしを家まで連れていってくれたのは黒岩で、何故か謝っていた。お母さんも困った顔をしていたっけ。
あれから、なんとなく顔を合わせ辛くて、予備校でも徹底的に避けた。いや、避ける必要もないくらい、会うことが無くなった。
「在校生代表挨拶、當金銀杏」
新入生の宣誓が終わり、呼ばれた。立ち上がりステージの上へと上がる。原稿を淡々と読み上げる。
わたしは三年生に進級した。三年生たちが卒業し、少し物の少なくなった生徒会室を掃除していると、「寂しくなったね」と赤羽は零した。「わたし達だって来年卒業するでしょう」と言おうか考えたけれど、それを寂しく感じてくれる人がいるかどうかの方が気になって、口には出来なかった。
「――以上をもちまして、わたしからの歓迎の挨拶とさせて頂きます」
礼をして席に戻る。きちんと終えることができて、ほっとする。
明華はエスカレーターなので、殆どが内部進学。だから友達が出来ないという心配は少ないかもしれないが、外部生は入りにくい空気だろうと思う。大体二割程だという話だから、外部生は外部生で仲良くなることが多い。
そういえば、赤羽も外部生だ。でもあのさっぱりとした性格で、わたしよりも交友関係が広いのは知っている。彼女がいたという噂も手伝っているからかもしれないが。
赤羽関連で、もうひとつニュース。同じクラスになったのだ。
「銀杏の名前って目立つよね。名前の中に金銀入ってるし」
「わたしも銀杏って名前のひとに出会ったことがない」
「當金っていうのも珍しいと思うけど」
名前の五十音順というのもあって、赤羽とは結構近い席だった。わたしはロッカーから資料集を持って帰ってくると、赤羽は友人と冗談を言い合っていた。
生徒会も通常の運営に戻った。わたしも松江も何も無かった顔をして話をするし、業務を行う。周りの人間はそれを見て安堵した顔をする。
これで良いのか。
「銀杏、一年生が来てるよ」
扉近くにいたクラスメートに呼ばれて、教室を出る。「たぶらかしちゃ駄目だよ」と冗談を言われ「しないよ」と返す。
まだ袖に線のついた制服を着た一年生二人がわたしを見て、口を開く。
「あ、あの、初めまして。一年の萌黄と水縹です」
「初めまして、當金です」
「私たち、生徒会に入りたいと思っていて。當金先輩が生徒会長なんですよね、どうやったら生徒会に入れますか!?」
勢いに気圧されそうになりながらわたしはそれを受けた。
「今度部活動と委員会紹介があるから、そのときに説明あるけど、生徒会で役職に就きたいなら選挙出ないとなれないの」
「あれ、でも次の選挙で先輩は退任ですか……?」
「正式にはそうなるね」
生徒会は基本的に二学年で構成されている。前にそれに異を唱えた生徒もいるみたいだけれど、結局変わらないままだ。理由は簡単。三年に負担を掛けるなかれ。
大学まで内部進学する生徒は、結構少ない。言ったら失礼だが、本当に勉強できないか花嫁修業のためか将来は自分の親の会社で働くという人が主に行く。あとは外部受験で大学のネームバリューを使って就職するという人くらいか。
内部生はその事情を知っているので、殆どが大学は外部へいく。このまま明華に留まれば出会いもないからだ。
「先輩がいる生徒会に入りたかったです」
先程から黙っていた水縹が口を開いた。凛とした声で、思わず聞き惚れる。そういえば、中等部にいたときに合唱部にすごく上手い生徒が入部したと聞いたことがある。水縹、確かそんな名前だった。
「いちおう活動はしているから、生徒会に遊びに来てみて」
「えっ、良いんですか?」
「萌黄さんと水縹さんね。みんなに言っておくから」
ありがとうございます! と萌黄が頭を下げ、つられて水縹も下げる。一年の教室へ帰る二人の背中を見送り、わたしも教室へ戻った。
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