第50話 だいじなはなし
港から船に乗り込みいざ出港。
「サーバルぅ…」
「シンザキちゃん!」
「「エヘヘヘ///」」
船には既に例の若い?カップルが一組寄り添っており周りに愛を振り撒いている。
そんな幸せモードの雰囲気に悲壮感を感じずにはいられない男が一人…。
「すごい疎外感を感じますやんか?」
「なんかごめんねナカヤマさん」
「エエんや… でもあわよくば俺もジャガーさんに挟まれたい…」
そんな邪なこと考えているうちはあなたに春はこないだろう。
それはさておき、ぼさっと船で寝てるくらいなら俺にももっとやることがあるだろう。
疲れはあるが大事なことだと思い俺はクロを呼びつけた。
「クロ~?パパのとこおいで?」
「なぁにー?」
「これ… もう一回やってみようか?」
ボォウ と浮かんだサンドスターの玉をクロに差し出した。
できないよ… と言うような困った顔をしていたがそんなことはない、クロは俺よりずっとセンスがあるし頭もいい。
セルリ病がきっかけでなにか変化があったはずだ、他のフレンズと同じで知らずに本能的なサンドスターの使い方を覚えているかもしれない。
クロは俺よりもサンドスター保有量も多い、できるはずだ。
少なくとも感じとることは…。
「ほら手を出して?大丈夫、怖くないだろう?」
「うん…」
不安そうに両手を差し出している。
俺はそっとその両手にサンドスターで作り出した玉を乗せた。
「わぁ…!パパ!掴めたよ!」
「言っただろ~?大丈夫だって?どうだ?」
「なんだか暖かいよ?」
嬉しそうにサンドスターを眺めている、飛散して消える様子もない… それは即ちクロが今無意識に形を保っていることを意味する、両の手で大事そうに球体を掴んでいる。
「それじゃあ、自分の中に同じ物があるのを感じとることはできるか?目を閉じて、クロの体にあるサンドスターを探してごらん?」
「うん、やってみる!」
フレンズの肉体においてサンドスターとは…。
その姿や衣服を形作るけものプラズムの元となるもの、同時にその個体の生命活動を維持するのに必要不可欠な言わば燃料であり、フレンズがフレンズであるためのエネルギー。
例えば普通の生き物、人間も含むそれらに必要な糖分がどうとかたんぱく質がなんだとかアミノ酸が云々だとか、それらとは別系統のエネルギーだ。
逆にサンドスターさえあれば動物が通常かかるであろう病気や負ってしまうであろう怪我、それらに打ち勝つことは容易い。
怪我をしてはサンドスターが修復に回り病気になればサンドスターが抗体となる。
意識する必要はない、生き物が全身に血を送るのを意識することなどないように、フレンズ達がサンドスターの働きを意識して行うことはない。
が…。
それを意識して行うのがサンドスターコントロール。
俺がカコ先生から習ったのはそのサンドスターの働きを自分の意思で操り使うこと
その派生系としてけものプラズムによる失った腕の形成や技の数々等がある。
クロにはこれからそれを覚えてもらう、今後またあれが起きたときに自分でなんとかできるように。
少しずつでいい、まずは感じとるんだ?
自分の中の力を…。
「どうだ?」
「わかるよ!体の中を走ってる!」
「おぉ~!よくやった!それがわかれば今度は引き出せるようになろうな?それからたくさん練習すれば、パパみたいにいろんな形を作れるぞ?」
「ほんとー!?ぼくにもできるー!?」
「できるさ?だってクロはパパよりずっと器用だもの」
もちろんできる、お前ならできるさ?俺なんかあっという間に超えて、先生だって超えてしまうよ、すぐに…。
すぐにな?
…
ゴコクの港に着いた。
ここからまっすぐ先生の元へ向かうが、その時父が神妙な顔つきで俺にこそっと言ってきたのだ。
「あとで伝えなくちゃならないことがある、大事なことだ」
そんなに大事なことなら昨日のうちに先に教えてはくれなかったのだろうか?忘れてた?忘れてしまうくらいなら大事な話なんて言うだろうか…?
あまり表だって言えないことってことなのか、あるいはあのタイミングではクロの件があって言いにくかっただけなのか…。
まさか、カコ先生にも関係があって俺も決して無関係ではないようなことなのか?
…
「「カコばぁば~!」」
「あら?二人とも!はぁよかった…!クロユキくん、具合はどう?大丈夫なの?」
「元気だよー?」
「ユキもー!ユキも元気!」
「フフフそうね?二人とも元気そうね?お誕生日おめでとう!ほらおいで!」
着くなりいつものようにカコハウスに突入した子供たちを見て先生は待ってましたと言わんばかりに駆け寄っていた。
先生にもずいぶん心配を掛けたんだろう、二人を抱き締めながらも涙を浮かべているのがわかる。
血の繋がりはなくともかばんちゃんの親みたいな人だ、ならばやはり子供たちの祖母と言っても相違ないだろう
自分の孫があんなめに逢っていたら心配でいてもたってもいられないのも当然。
そう、俺やかばんちゃんが子供たちを心配したようにカコ先生も同じように子供たちが心配なのだ。
だからこそやっぱり、あれはよくない態度だったな… ちゃんと謝らないと。
「ミライ、間に合ったのね?」
「いえ… 間に合いませんでした…」
「どういうこと?だってクロユキくんは…」
「先輩… ユウキがやってくれたんだ」
「嘘…」
俺が顔を出すまでもなく、その時先生が父さん達を押し退けて俺のもとに歩いてきた。
先生、なんて顔してるんですか…?
あなたのおかげでクロは助かったんですよ?俺もこうして無事なんですよ?なのにどうしてそんなに泣きそうな顔をするんですか?先生の処置も適格でした、父さん達が来るのには間に合わなかったけど、それでも俺に策を練る時間をくれました。
あの2ヶ月がなければ無策のまま挑んで親子でセルリアンだったんです。
「ユウキくん、それはどうしたの…?」
「先日は失礼しました、でも先生のおかげでクロを助けることができました、本当にありがとうございます…」
「どうしたのかって聞いてるのよ!答えてユウキくん!」
「カコさんお願いです… どうか、どうかシロさんを責めないでください…」
“それ”とはつまり俺から消えたフレンズの特徴のことを言っているんだろうな、聞くまでもない。
代わりにかばんちゃんが話してくれた、俺がとった対策とスザク様を復活させてしまったこともすべて。
先生はなにも俺を責めたかった訳ではない、むしろ責めていたのは自分の方なんだと思う…。
俺と助手が助けを求めてここに来たとき、先生がだした答えは治療法ではなく終焉の先伸ばし。
つまり先生でもあの状態のクロを救うには奇跡に頼るしかないと判断したんだろう、実際奇跡でも起こさないと助けられない状態だった。
その結果俺は固く禁じられた方法でクロを助けることになった、でも禁じ手だろうが救える可能性があるなら俺はなんだってやるつもりだったし、事実それのおかげで助かったという結果だけが残っている。
そう、俺もクロも助かったんだ。
でもカコ先生は俺をそこまで追い詰めた自分の答えの浅はかさを責めた。
俺がこうなったのは自分の出した頼りない答えのせいだと。
「もっと… もっと私がしっかりしていればユウキくんがここまですることなんて!ごめんなさい、本当に…!」
「先生、それは違います… 先生がクロに時間をくれたから俺なりに対策を練ることができたんです?結果スザク様を復活させてパーク全体に迷惑をかけたようなものだけど、どの道クロを救えるなら俺はなんだってやったんです、自分がいくら苦しもうが責められようが息子が救えるならなんだってやりました… それだけのことです」
さぁ、辛気くさい話は終わりにしよう?子供たちは晴れて5才。
快く祝ってあげてほしい。
「なんだ、なに騒いでんのかと思ったら元に戻っただけだろこんなの?オレにはむしろこっちの姿がしっくりくるぞ?」
横から顔を出してそういったのはツチノコちゃんだ。
そうだね?始めはこうだったんだよね俺、野生解放も隠してみんなには“ヒト”だと言い張っていたんだ。
「一年なんてすぐだろ、違うか?」
「いや、その通りだね?そう、すぐだよ… ありがとうツチノコちゃん?」
「ふぅ… そうね、あなたの言うとおり、今無事にまた会えたんですもの?どうやら、お百度参りは効果抜群だったみたいねツチノコ?」
「お、おいカコ!?///」
「お百度参り?」
「それってなんですか?何をするんですか?」
お百度参りというのは…。
神仏に祈願するために同一の社寺に百度参拝すること、一度の参拝ではなく何度も参拝することにより心願が成就するようにと願ったものである。
「えっと、つまりそれは…?」
「ジャパリ神社ってゴゴクにあるじゃない?オイナリ様って神獣フレンズを祀る神社、そこにツチノコちゃんがクロのために何度も何度も助かるようにお参りしてくれたんだよ?」
「わぁ~!ツチノコさん!ありがとうございます!おかげでクロもシロさんも助かりました!」
「あ、あんなもんただの気休めだ!実際なにか起きるわけでもないし… なんもできねぇのも悔しいから仕方なく柄でもない神頼みしたんだよ!助かったのはお前たちの力だ、オレは関係ない!///」
まぁ、本当に神様に助けてはもらったんだけどね?オイナリ様じゃなくスザク様だけど。
まったく本当にやることが粋だねツチノコちゃんは?
ありがとう、本当にありがとう…。
たくさんの人達に助けられながら生かされてるんだよね、俺も子供たちも。
…
それから誕生日らしくゴコクでも二人を祝ってもらい、夜は大人達が楽しむ時間となる。
と言っても俺はてんで飲めやしないのだけど、今日は特別な日だから進められた酒は断らないでおこう。
そして、夜も更けてドンチャン騒ぎも収まってきた頃だ。
父が話したのだ、昼間耳打ちしてきた大事な話というやつを…。
「ユウキ、これから例の大事な話をするが… 酔ってないか?ちゃんと聞けよ?」
「なんとかね?だったら飲ませないでほしかったよ…」
「まぁいいだろ、たまにしか会えないんだ?息子と酒を飲むのは世の父親達の夢なんだ」
「ナリユキくん?そろそろ…」
「あぁすまないミライさん、始めよう」
父さん達の大事な話
それは所謂良いニュースと悪いニュースというやつだった
まずは良いニュース、サーバルちゃんとシンザキさんの結婚の件… これに関して父さん達側からの大事な報告があった。
「前に、いっそ常駐できれば… という話をしたよな?」
「うん、できるの?」
「いや… だが一人代表として一年間パークでの滞在許可を得たんだ、そしてその代表はもちろん彼が名乗り出てくれたよ」
「あ、はい!僕が残ろうと思いますぅ」
そうシンザキさんだ、つまりサーバルちゃんは早速シンザキさんとのわくわく新婚ライフをスタートできることになるということである、これは早々に式の準備が必要になりますな
「え!本当に!?本当にシンザキちゃんパークに住めるの!?」
「やっぱり僕もサーバルぅ… 離れているのは辛いので?一緒に入れば余裕で、心の充電もできますね」
「うみゃ~!シンザキちゃ~ん!」
サーバルちゃんがあんなに嬉しそうに男性に飛び込んでいる姿を見れるとは、なんだか彼女もやっぱり乙女になったんだなと感慨深い気持ちになるものだ。
まったくデレデレしちゃって、ご馳走さまですよ。
なんて思ってると「お前も大概だ」みたいな顔で一斉に視線を浴びてしまった…。
仕方ないね、だってこれ見てみろよ?
「ユウキさぁん?えへへ///呼んだだけでぇす♪」ベタベタ
だから妻に酒を飲ませるなとあれほd…いいぞもっとやれ。
…
というのがいいニュースだ、本題はこれから…。
だからなぜ大事な話しに酒を入れるんだ父よ?
「ユウキ、お前に関係のあることだ… ただ確定ではない、飽くまで疑惑だからその辺は注意してくれ?」
先ほどまでの雰囲気は一変… 俺はその言葉にすっかりと酔いが醒めてしまいごくりと生唾を飲んだ。
「最近例の“連中”に妙な動きがあってな?もしかしたらパークに無理矢理にでも入ってくる可能性がある…」
「連中って… 父さんそれってまさか?」
「そうだ、お前を実験動物にしたくてたまらないあの連中のことだ…」
「まさか…!」
“連中”とは…。
父が最高に嫌みを込めて呼んでいるとあるパーク復興派を称した過激派の組織である。
「俺達はミライさんのおかげで調査ついでにこうして可愛い孫の誕生日を祝ってるわけだが、調査を繰り返すうちに国の方の管理も緩くなってきてな?連中がそこに目をつけて自分たちも調査をさせろと申請を出しているらしいんだ…」
「もちろん私の方でそれを全力で阻止しています、ですが手段を選らばない連中です… まぁ、ユウキくんはよくご存知かとは思いますが」
パーク復興派にも派閥がある。
主はミライさんが管理している正攻法、フレンズと人を繋ぐ架け橋になりまた昔の楽しいジャパリパークを復興させようという理念の元に集まった人達、旧職員で主に構成されている。
過激派というのは… フレンズを調べ尽くしてさらにそれで得た情報を私利私欲のために国や組織に売りまくるクソッタレなやつらのことだ。
大義名分としてフレンズの能力を人間に付与することで体の不自由な人達を救えるなど綺麗事を表では並べる。
だがその裏では…。
例えば頑丈な体で動物の特性を持つ人間がいて、それを軍事利用すれば無敵のソルジャーになりうる… フレンズとはそういう存在だと思ってるやつらだ。
しかもそれを人類の進化、夢… とか言っているあたり本当に達が悪い。
まだフレンズの調査に踏み切れていないのが不幸中の幸いだ。
それでフレンズのハーフである俺を実験動物にするために学校にまで押し掛けてきたやつらだ、正直何をするかわからん。
「シンザキくんにはそのためにも連絡役としてここに残ってもらう必要がある、俺達はこのあと別のエリアに行かなくてはならないが、シンザキくんにはこちらとの連絡手段を渡しておく…
いいか?連中がきたら俺達で対応するから決して相手をするなユウキ、お前もかばんちゃんも子供たちも見付かるとまずい… 先輩だって見付かったらアウトだ、何をされるかわからん」
俺は言わずもがなフレンズのハーフ。
妻はヒトのフレンズ。
そして先生はサンドスターの影響でヒトを超えてしまった人間。
さらに子供たち。
それ以前フレンズ達がわんさか住んでるんだよジャパリパークというのは。
もし見付かったらと思うと。
ゾッとするな…。
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