第16話
新郎新婦のいる辺りを中心に、前の方の席の客達が吹き飛ばされた。壁など人のいない箇所に撃つものだと思っていたのに、まさか僕の身内を狙うとは。新婦は不死身で、客も作り物だが、新郎は生身の人間だ。
「人殺し」
と僕はアンドリューを責めた。
「大丈夫、あくまで爆発映像と音のショーで、本物の火薬を使ってるわけじゃない」
「そんなこと言っても、客が吹き飛んでるじゃないか」
「あの客もキズキの作り出した3D映像さ。俺は最終出力段階でその映像に修正を加えたのさ」
よくわからないが、モデリングの完成した3D空間を現実世界に転送する際に、オブジェクトの位置や表情などを修正したということに解釈しておこう。
映像にすぎない爆発のせいで、もうもうと煙が上がっている。その映像に警報機が反応した。
会場は大混乱。皆、入り口目指して殺到する。作り物にすぎない客のくせに、物理的実体があるようで、逃げる際、僕の体を押し倒してきた。
僕等は弟を連れて帰ろうと姿を探したが見つからない。
「いない。キズキに連れ去られた」
米兵は悔しそうにそう言った。
従業員専用ドアから警備員が入って来た。
「今のうちにずらかろう」
アンドリューがそう言うと、僕等は喫茶純情にいた。
僕はマスターに抗議した。
「いきなりバズーカーはまずいだろう」
「派手にぶち壊せと言ったのあなたでしょう」
「国際問題になったらどうする?」
「もうなってますよ」
入り口の横には小さなブラウン管テレビが置いてある。アトランティスの首都でテロがあったと、報道している。犯人はアメリカ兵と日本人と思われ、両国政府は対応に追われることになるそうだ。
「俺達のことだ」と言うと、マスターは、米兵に変身した。
「おかしい。いまさっき起きたばかりなのに、どうしてもう旧世界で報道されてるんだ?」
僕は米兵を睨んだ。
「俺の仕業じゃない。キズキが事を荒立てるために報道を操作してるんだ。下手すりゃ戦争だな」
「そんな、向こうが悪いのに」
「向こうの軍事力は圧倒的だ。こちらに攻め込む口実を与えてしまった」
「アンドリューが何とかしてよ」
「これは却ってチャンスだ」
「どうして?」
「旧世界がアトランティスを嫌えば、ゼウスを応援するはずだ」
「最初からそれを狙ってたってこと?」
米兵の言うようにキズキはこの事態をチャンスにとらえ、アトランティスの世界支配を進めようとしている。アンドリューはそれをわざと狙っていた。それで、キズキに心を読みとられる恐れのある僕に計画をうち明けなかったのだ。
と思ったが、
「違うよ。あんたが派手にぶちかませって言うからだよ」
成り行き上、たまたまそうなったらしい。
翌週、彼の読み通り、アトランティス軍は行動を起こした。アトランティスの西側とアメリカ東海岸は目と鼻の先だ。戦闘用ヴィークルが大挙して、東海岸の都市部に上陸した。
米国も黙ってやられているわけではない。巡航ミサイルを発射したが、ミサイルの進む方向が変わって、自国領内に着弾した。
東海岸のダメージは大きく、米国はすぐに休戦を申し出たが、アトランティス軍は進軍を続け、全米を支配下に置いた。
それを見た日本政府は戦う前から、無条件降伏を申し出た。
勢いに乗るアトランティス軍は、無関係なギリシャに進行し、占領した。
古代にアテナイと戦争を行っていて、今は休戦中というのが彼らの言い分だ。
軍事力の差を思い知った旧世界は戦う意欲を失い、アトランティスもこれ以上の戦乱を望まないということで、和平協定が結ばれた。しかし、それはアトランティス側に一方的に有利な条件で、事実上、旧世界はアトランティスの属領扱いとなった。
テロの当事者である日米と古代からの因縁があるギリシャは、正式にアトランティスの領土となり、アトランティス大陸の十カ国と合わせて、国連を牛耳るようになった。
国連を通じて、僕の存在を知ったアトランティスは、地球代表の座を譲って欲しいと要求してきたが、僕も自分の意志でなったのではないので、キズキに相談してくれと返しておいた。
そのキズキは、また例のマンションに店を復活させた。
弟もそこにいた。若い夫婦かと思いきや、ドイツ人留学生が帰国したため、代わりの従業員だった。結婚式をぶちこわされた罰で、無給かつ無休のブラック労働者としてこき使われている。
そんなむごい扱いをされても、彼女に首ったけの弟は、住み込みで働き、家にも学校にも戻らないと言う。
それでも、両親からすれば安否を確認でき、近所なので、一安心だ。僕も説得をあきらめ、アトランティス消滅に向けて、アンドリューやソラスと協議を重ねた。
アトランティスは科学が進んでいるだけでなく、最初から恵まれた土地で、食料や鉱物資源も豊かだ。何不自由なく暮らせるはずなのに、南米に進出したスペイン人も裸足で逃げ出すほど、旧世界に対し、むごい略奪と搾取を繰り広げた。
そういったアトランティス側の動きは、こちらも望んでいた。旧世界の反発が大きければ大きいほど、ゼウスに対する応援が大きくなる算段だからだ。
そして、真夏の暑さで人々が活動的になっているとき、ついに米国フロリダ州で暴動が発生した。
それを皮切りに、旧世界各地で反アトランティスデモが起き、各国政府は鎮圧に手こずる有様。
それに対しアトランティスは、支援を名目に軍隊を投入。旧世界は戦乱で疲弊。旧世界の怒りと恐怖が頂点に達したとき、それに呼応するように、絶対神ゼウスが降臨するのだ。
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