第64話

 その場にある部品でなんとかクラリスの右腕を修理しようとしていた明里は、散らばった部品の中から使えそうな物は拾い、奪われた左肩部分に欠けたパーツを補える部品が残っていればそれを使い、それらを繰り返しながら早いペースで黙々と作業を続けていた。

 それは隅々までクラリスの構造を記憶し、パーツの一つ一つを手に取っていた明里だからこそ出来ることだった。

 内部を剥き出しにした歪さは残るものの、クラリスは少しずつ繋がれていく右腕を見て、明里への感謝の念でいっぱいになった。


「……明里」


「…………はい、なんですか?」


「……いや、なんでもない」


 口からポロっと名前を呼んでしまったが、今集中している明里の邪魔をしてはならないと、すぐに口を閉じる。


「……そうですか」


 明里も、その意思を汲むように黙々と作業へ戻る。

 その状況と並行して、クランは傾いて大部分の機能が封じられた機械の調整と準備を、本体を通して手動で行っていた。


「思ったより機能不全起こしてる箇所が多いな。いくら対処を積んでも、動かなければ宝の持ち腐れか」


 ぐちぐちと自らへの不満と失策を呟きながら、クランは作業に集中する。

 それから暫くして、明里は精一杯の修理を終了させ、改めてクラリス本人に動作の確認をお願いする。


「ふう……どうですかクラリスさん、動きますか?」


「ん……ああ、ほんの少しだけなら……」


 クラリスの右腕は、配線等諸々の内部機構を露出しながらではあるが、なんとか再接続を行うことに成功する。

 クラリスは再び右腕の感覚を取り戻すが、普通に繋がっている時よりもかなり感覚がぼやけた状態であり、自らの意思ではまだ地面から少しだけ浮かせるか、ゆっくりと手握るまでしか出来なかった。

 さらに無理矢理繋げた影響か、クラリスの意思に反して、時折指がピクピクと誤作動を起こす様子も見られた。


「よかった……動かなかったらどうしようかと」


 明里は安堵すると同時に、両手を後ろにつき、力を抜いてぐたっとする。


「……ところで、どうして逃げなかったんだ? 私がいなくては戦えないとはいっても、こんなになった私を今更修理しても、足手まといなのでは」


 クラリスから投げられた問いに、明里は身体を起こし、クラリスの隣に寄り添うように近付いてから口を開く。


「私は皆の中で一番非力だし、一番弱いです。でも、クラリスさんと一緒なら大丈夫だって、安心出来るんです。それに……」


 クラリスの右手を優しく触り、改めて軽く姿勢を直す。


「クラリスさんを失いたくないですから。一緒にいたいから……」


「明里……」


 表情を和らげ、クラリスはそっと手を握り返す。その力はとても弱々しかった。


「よし、これで三回程度なら迎撃が出来そうだな。あとはどう攻撃を与えるかだが……」


 クランの調整が終了し、それから動けない状態でどう残り少ない攻撃を命中させるかを考え始める。

 その思考と思考の隙間、一瞬意識が外へ向いたその時、クランの視界に高速で向かってくる何かを捉える。

 その何かは、考えるまでもなくベルアであると確信する。ベルアが突撃する直線上には、明里の存在があった。

 クランは直感的に非常に不味い状況だと判断し、大声で叫ぶ。


「明里君! 逃げろ!!」


 握った明里の手を、クラリスはそっと離した。

 そして遠くから聞こえるクランの警告、しかしそれが届いた頃にはもう遅く、その刹那、クラリスの視界の中から明里が消えた。

 そして目の前に現れたのは、何もかもを壊し尽くした悪魔の姿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る