5.

「水凪さん・・・どうしたの?」

砂都貴が絨毯に跪いて、ベッドに座った僕の顔を覗き込んでいる。細い両手で僕の手をしっかりと包み込んで。

我に返ると、僕の目から溢れる涙。苦しさのない、静かな涙。体中の不安が結露して、流れ出ていくような。

砂都貴、そばにいて。きみの小さな手のぬくもりが、こんな麻薬のような妄想から、僕を正気に引き戻してくれる。

「私は、何も怖くない。水凪さんが、いつも一緒にいてくれるから。だから何も恐れずに生きられるのよ・・・」

耳元で、歌うように砂都貴がささやく。

「どんな美しい夢も必ず覚める時が来る・・・そう言うけど、私はそうは思わない。夢を見続けるその人の、想いが強いならば、夢はきっと現実になる」

彼女の謎めいた言葉は、この世でただひとつ、神聖な輝きをまとって、確かなものに聞こえて来る。

「砂都貴は、わかってるんだね、何もかも」

恐らく・・・自分自身からの逃避行に、疲れ果てた僕の言葉に・・・砂都貴は優しくほほ笑みを返してくれる。

「愛しているわ、私。この街を、この世界を、この星を・・・あなたを」

地球最後のラブ・ソングは、こんな優しい、甘いリフレインで、恐らく・・・永遠に宇宙を満たし続ける。モノトーンの街に舞う、この淡雪のように・・・。

《fin》



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WINTER WHITE RAIN(トパァズ シリーズ) 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753

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