昔のお話④

Aくんが帰ってから、ひたすら震えていました。

やっと体の感覚と感情が戻ってきた感じでした。


わからない、わからない、わからない。


彼があんな行為をしたがったのは、彼が男の子だからなのか、本能だったのか、恋人だからなのか。

あんなことをしてなにが面白いのか。なんの目的であんなことをする必要があったのか。


あの行為は私が知っていた愛情表現のキスやハグじゃなかった。


考えながらずっと怖かった。

目を瞑ると彼の鋭い眼差しが私を刺していて、まるで獲物を捕らえた捕食者のようなその視線で私は声も出せなかった。

思い出すだけで気持ち悪くなりました。

押し倒されたら抵抗できない女の子の体の非力さを恨みました。すごく怖かった。私が全力で抵抗しても片手で抑えられてビクともしないんです。きっと彼からしたら私の最大限の抵抗は「もう、やめてよ💕」みたいなものだったのでしょう。

それになにより自分の体の上を這っていく他人の体温。想像もつかないふうに動く他人の手が気持ち悪くて、あれ以来素肌を触られるのがすごく嫌いになりました。(手を繋いで歩くとかはできます…)


でも、一番怖かったのは、あの行為を自分が受け入れられなかったこと。

少女マンガの中では女の子も喜んで行為を受け入れてたのに、私にはできなかった。

世界の当たり前から疎外された気分。

少女マンガなんて破り捨ててやろうかと逆恨みもしました。


当時中学三年生です。

まさか、自分に性欲がないなんて、その時は思わなかった。

たしかに、両性愛者の自覚はあったけど、性欲がないなんてそういうセクシャリティーがあるなんて思いもよらなかった。

だって性欲は人間の3大欲求に含まれるほど当たり前の欲望で、生き物として当然の繁殖行為に不可欠なものだということは知っていましたから。


だから私があの行為を受け入れられないのは、Aくんのことが本当は好きじゃなかったからじゃないか、とか。ひたすら自分を攻め続けて当たり前から外れないように自分を型に押し込めようとしていました。

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