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「シル、緊急コード〇〇一を発令」
カウントの毅然とした声が響いた。
「受理しました。命令系統をカウントに限定」
「脱出ポッド一号機作動」
「了解」
そして、イルザたちにカウントは告げた。
「お前たちは脱出しろ」
「カウント!」
イルザが叫んだ。
「ポッドの定員は七名、まず、お前たちからだ」
「でも、このままだとステーションの高度が……」
「あとで私も脱出する。命令だ。行け」
しばらくためらってから、ファントムたちはカウントの命令に従って、ポッドのある緊急退避区画に移動した。
「レン、君もだ」
カウントは僕を見据えた。
「僕は残る」
なぜそんなことをいったのか、自分でもうまく説明できない。ただ、カウントだけを置いて、このままファントムたちとここを脱出したくはなかった。
「レン、時間がない。安っぽいヒロイズムなら迷惑なだけだよ」
自分の気持ちをうまく言葉で説明することができず、結局僕はこういうしかなかった。
「彼らと――ファントムたちと一緒には行けない」
僕たちはしばらく無言で向かい合った。やがて、観念したように、カウントはため息をつくとシルにいった。
「安全を確認後、ポッド射出」
「ポッド一号機、射出しました」
火星に向けて、丸い脱出ポッドが降下していくのをカウントは見届けた。
「君は馬鹿だよ」
ふたりだけになったステーションの中、カウントが慣れた動作で体の向きをふわりと変えた。
「あなたこそ。なぜいっしょに行かなかった」
「もちろんステーションをできるだけ大気圏突入時に燃焼させたうえで地上に落下させるためだよ。これだけ大きいとすべてが燃え尽きるとは限らない。どこに落ちるか軌道計算している暇もない。シルだけでは臨機応変な対応ができないからね。ぎりぎりまで粘って、あとは二号機で――」
そのとき、突然シルが告げた。
「デブリ、到達まであと十秒、九、八……」
シルのカウントダウンがゼロを告げるのと同時に、かすかな衝撃が『ノード・ワン』を襲った。でも、それほど大きな損害が出ているようには思えない。
「シル」
カウントの言葉に、すぐさまシルが反応する。
「被害はほぼ予想通りです。火星軌道周回速度が低下。軌道を逸れて落下します」
やはり被害はシルが予想した通りだった。『ノード・ワン』は火星に落ちる。シルが続ける。
「さらに、先ほどのシャトルの爆破とネットワークの障害で脱出ポッド二号機が作動しません」
「なんだって」
思わずカウントが叫ぶ。
「なんとかならないのか、シル」
シルが冷静な声で答える。
「復旧の可能性は不明です。。解決策はステーションのBブロック全体の廃棄と更新。方法は――」
「分かった、もういい」
ステーションから離脱するためのシャトルも緊急脱出用のポッドも使えない。これで僕たちはここから脱出する方法がなくなってしまった。しかもステーションは徐々に落下を続けている。
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