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二日目でようやく箸を折らずに握れるようになっていた。まだうまく使いこなせていないけど、コツはつかんだ。これは確かに体を制御する訓練になる。力の入れ具合がなんとなく分かり始めていた。
それと並行して僕は体全体の使い方を教わった。最初は目を閉じて片足立ちのままじっとしていること。次に、ラオスーが落とすボールを目を閉じて受け取ること。ボールの軌道を予測して体を動かす。
体を動かしながら僕は考え続けた。今、バーニィたちが具体的な対策を立てているはずだ。TB化した僕は必ず戦力になる。とにかく今はファントムの計画を阻止することだけを考えろ。
僕はほぼ同時に落ちてきた三つのボールを目を閉じたまま順番に受け止めた。
「それが重力を制するということじゃ。お前さんなかなか筋がいいの」
三日目。夕食を食べながら、僕はラオスーにたずねた。
「ラオスーの夢は何だったの」
「わしの夢か。わしの夢は地球へ行くことじゃ」
地球という言葉に僕はぎくっとなった。
「地球へ――」
「そうじゃ。ちなみに『何だった』じゃなくて、『何だ』じゃ。その夢はまだ捨てておらん」
「でも、火星の人間が地球へ行っても重力に耐えられなんじゃ……」
「昔のわしは無知じゃったから、体を鍛えれば何とかなると思っていたんじゃ。もちろん、今のままでは無理じゃろうな。だが、何か方法があるはずじゃ」
「どうして地球へ行きたいの」
「お前はライブラリに行ったことはないのか」
「あるけど……」
「では、地球の姿を見たじゃろ」
僕はうなずいた。
「どう思った」
「きれいだと思った」
ラオスーは満足げにあご髭をなでた。
「わしもじゃ。あんなに美しいものはこれまでも、そしてそれ以降も見たことはない。どうして地球に行きたいか? 美しいからじゃよ。それ以上の理由は無い」
ラオスー、僕は地球に行こうといわれているんだよ。
「実はな、何度かファントムの拠点、センターに潜り込んだことがあるんじゃ」
「ええっ」
驚いた。センターには宇宙ステーションまで人を運ぶシャトルの離発着施設がある重要な拠点で、セキュリティも厳しいはずなのに。
「いったい、どうやって……」
「どこにでも穴はあるもんじゃ。まあ、その度に奴らに追い返されたがの。だから結局、シャトルには乗り込めず、奴らの宇宙ステーションまではたどり着けなんだが」
「いや、それだけでもすごいんじゃ……」
「ふん。わしは本気で地球へ行くつもりじゃったからな。ライブラリでは様々なことを学んだぞ。シミュレーションでの飛行時間は百時間以上、シャトルの操縦くらいなんでもないわい」
この人、よくこれまで生きてこれたものだ。
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