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「新しいエネルギーが危険なものだということは最初から分かっていたんだよね」

「もちろん。しかも、人災だけじゃなくて天災によって事故が起こった事例も過去にあった。にもかかわらず彼らはリスクのあるほうを選んだんだ。危険だけど安くて手っ取り早いほうをね。今の地球のエネルギー資源は太陽や風といった主に自然の力を利用した安全なものに完全にシフトしている。君のいいたいことは分かるよ。なぜ最初からそうしなかったのか」

 僕はうなずいた。

「地球人(テラン)は愚かだと思うかい」

 確かに、地球人(テラン)は愚かだった。愚行としかいいようがないことをしている。でも、僕は簡単にうなずけなかった。カウントがかすかに笑った。

「火星では入植以来戦争は起こっていない。国家はないけど、三つの大陸に分かれていて、それぞれに一応行政機関はある。でも、大きな争いは起きていない。なぜだか分かる?」

 食べ終わった食器を片付けながら、カウントは僕を見て続けた。

「戦争の原因なんて昔から決まっている。資源、土地、宗教、人種、圧制、そんなところだ。それらいずれかの問題が発生する前に、地球人(テラン)の火星管理官――君たちのいうファントムが芽を摘み取っているからだよ。宗教や人種差別が発生しそうになればそれをつぶしてきた。コーディネーターたちの力を借りてね」

 つまり、僕たちも場合によっては同じ道をたどる可能性があるということか。

「例えば、昔の地球では肌の色が違うだけでひどい差別が行われたりしたんだ。そんなのって想像できるかい?」

 僕は首を振った。そんなの到底理解できない。

「でも、それは別に火星人(マーシャンズ)が地球人(テラン)よりも理知的だということではないよ。地球人(テラン)とコーディネーターの管理下にあるから、そういうことが起きなかっただけでね。もちろんコーディネーターの最も重要な役割は『先祖返り』を回収することだけどね」

 そこで僕は最も訊きたかったことを尋ねた。

「地球人(テラン)はなぜ『先祖返り』を欲しがっているんだ?」

 カウントは新しいコーヒーを自分と僕のカップに注いで、自分のカップに口を付けた。

「君はなぜ生身の地球人(テラン)が火星で生きられないか知っているかな」

「それは、火星には有害物質が降り注いでいるから……」

 そこで僕はあることに気付いた。僕の表情を見て、カウントがうなずく。

「火星の有害物質と、地球を汚染している有害物質は同種のものなんだよ。つまり、火星人(マーシャンズ)には生まれながらにして有害物質への耐性ができているんだ――」

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