064

 撃たれたことがない僕にも、それが通常の銃弾ではないことぐらいすぐに分かった。でも、刺すような痛みとわずかな衝撃あった。

「カカオ!」

 ヨミの声を聞きながら、僕は数歩うしろによろめいて尻餅をついた。

 とっさに左胸に当てた手のひらを見る。でも、そこにあるはずのもの――血は全く付いていない。

「ハリー! それは――」

 ガタン、と椅子を蹴ってレッドフィールドが叫びながら立ち上がった。

 全員の注意がそちらに向いた。

 直後、いろんなことが一瞬のあいだに起こった。

 父さんが銃を構えたままゆっくりとレッドフィールドのほうへ向き直る。

 レッドフィールドは、父さんに狙いをつけている少女に向って叫んだ。

「待て、撃つな――」

 僕の周囲で、みんながいっせいに動いた。このチャンスを彼らが見逃すはずがない。視界の隅で、TBがヒュッと何かを投げるのが見えた。父さんを撃とうとしていた少女が目を押さえる。そしてほぼ同時に銃声が響いた。

「父さん!」

 強力な威力を持つファントム製の銃弾を受けて、父さんがこっちに吹き飛ばされた。

 体のどこかに隠していたんだろう、TBが投げた木の楔、いつもTBが削っていた短い矢が少女の目に突き刺さり、狙いは父さんの頭からは逸れたけど、至近距離からの銃弾が腹部に命中してしまった。

 僕の背後で、人が倒れる音がする。どうやらキャットとTB、バーニィはそれぞれひとりずつ少女を倒したようだ。最後のひとりはヨミに頭からマントを被せられ、ヨミの手から生命力を奪われて、床に倒れた。

 TBが床に落ちている少女の銃を掴んで、レッドフィールドに向ける。片目から血を流しながら、レッドフィールドのそばの少女が反応した。TBが引き金を引く。少女は背後の壁に吹き飛んで動かなくなった。

「動くなよ」

 バーニィの言葉にレッドフィールドは顔を歪めたが、ゆっくりと両手を上げた。

 父さんの出血は止まりそうにない。傷口を押さえる僕の両手は血まみれになっている。

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