030
かつての鉱山町ブラウンストンから少し離れた場所にMAを隠した僕たちは、馬を引いて町に入った。
鉱山は鉄鉱石が採り尽くされて廃鉱になって久しいから、町はさびれていると聞いていたけど、それにしてはひっそりとしすぎていた。
通りに面した店の入り口から老人が顔を覗かせていたけど、すぐにバタンとドアを閉めてしまった。様子が変だ。
僕たちは通りの真ん中に置かれたふたつの棺に気付いた。キャットが棺の蓋を開けると、うめき声を上げた。
「マット! こっちはサイモンか……。ちくしょう、なんてこった」
「私の仲間だ」
ヨミがつぶやいて棺の中に手を伸ばした。遺体にそっと手を触れる。
そのとき、遠くから叫び声がした。
「ヨミィ」
声のするほうをふり向くと、男の子がこちらに走ってきた。
「キッド!」
「悪魔が……。黒い悪魔がこの人たちを撃った」
「ファントム」
「ほんとに悪魔なんだ。銃が効かなかった。嘘じゃないよ」
「分かってる。そいつはどっちへ行った」
「鉱山のほう」
「そうか。よく知らせてくれたな。危ないから、お母さんのところにいるんだ」
ヨミはバーニィをふり向いてうなずいた。
僕たちは襲撃を警戒して、岩場に隠れながら鉱山の入り口に近づいていった。銃弾はヨミが防げるけど、不意な狙撃には対応できない。
でも、僕らの用心は不要だった。鉱山の入り口には思いがけない人物がいた。
「遅い!」
そういってこちらに大またで近づいてくるのはフランチェスカだった。手にライフルを持っている。もうひとり、窃盗団にいたクリスという男が周囲を警戒しながらこちらに近づいてきた。
「すまん、ちょっといろいろとあってな」
バーニィが苦笑いを浮かべた。
「噂は聞いたわ。あいつら衛星からの大質量レーザーを使ったのね。天からの鉄槌だってみんな騒いでた。――あなたがヨミね」
ヨミはフランチェスカとクリスを見上げた。
「フランチェスカ・バルビ。ライフルで五百ヤード先のコインを射抜く。そちらは早撃ちのクリス・バートレット」
「光栄だわ」
フランチェスカが微笑み、クリスは帽子のつばに手を添える。フランチェスカがそんな人だったとは。
「ヨミ、中はひどいことになってる。残念だけど」
ヨミはうなずいて鉱山の中に入っていった。キャットがあとを追いかけていく。
「それじゃ、父さんも……」
フランチェスカが首を振った。
「いいえ。ドクはいなかった」
「どういうこと?」
「ファントムに連れて行かれた――恐らくね」
父さんは死んでない。でも、またふりだしに戻ってしまった。
「フランチェスカ、クリス。念のため見張りを頼む。坊やもここにいろ」
バーニィとTBは入り口へと足を向けた。ちょっと迷ってから、僕もバーニィたちのあとについていく。バーニィはちらっと僕を振り返ったけど、何もいわなかった。
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