028

「うむ。まあ、だいたいは合っているな」

 僕がバーニィから聞いたことをヨミに話すと、彼女はうなずいた。

「しかし、奴ら遅いな」

 焚き火にくべた枯れ木をヨミが動かした。炎が上がり、ぱちぱちと音を立てる。

「落ち合う場所は決めているし、焚き火の煙を見落とすことはないと思うけど」

 僕はベルトポーチから干し肉を取り出した。

「お腹減ってない?」

「減った。でも干し肉は苦手だ」

「そっか。じゃあこれは?」

 確かジェシカが持たせてくれたマシュマロがあったはずだ。僕は木の枝に差したマシュマロを焚き火であぶってヨミに渡した。ヨミがぱくっと一口かじる。

「おお。これはうまい。外がカリッとしてるのに中がとろとろだ。これは何というものなんだ」

「マシュマロ。ココアの中に入れてもおいしいよ」

「ほほぉ。これをココアに。なんとういう贅沢。ココアはないのか」

「ごめん、馬に乗せてるから今はないけど、今度やってみよう。そうだ、ペミカンもあるけど食べてみる?」

「ペミ……何だそれは」

「干し肉とドライフルーツを混ぜて固めた保存食だけど、ジェシカばあさんのは肉が少なめだから大丈夫かも」

 僕は皮の袋から棒状のペミカンを取り出して半分に割ると、ヨミに手渡した。

 ぱくりと齧りついたヨミが少し眉間にしわを寄せる。

「肉の味がする」

 やっぱりだめか。

「でも、それほど嫌な味じゃない」

 僕たちはしばらく無言でもぐもぐと口を動かした。

「あのご老人には悪いことをした」

 ヨミはぽつりとつぶやいた。

「怪我はたいしたことなかったよ。それにマッコイ爺さんはタフだからね。今度一緒に謝りに行こう」

 僕を見てヨミは何かいいかけたけど、黙ってうなずいた。

「ねぇ、ヨミ。君は何歳なの?」

 以前ジェシカが女性に年齢を訊くのは失礼だっていってたけど、思い切って訊いてみた。

「十七歳だ」

 あっさりとヨミは答えた。

「僕より年上だったのか」

 驚いた。十二、三歳にしか見えない。

「私の外見は十五歳から変わってない。私の成長は十五歳で止まってしまったんだ。もっとも、私たちの一族は君たちからすると実際の年齢よりも若く見えるそうだがな」

 成長が止まった。それはたぶんヨミのあの能力に関係があるんだろう。でも、僕はそれ以上訊けなかった。なんとなく軽々しく訊いてはいけない気がした。それと、少年と呼ばれるほど年上なわけじゃないとも思ったけど、それもいわないでおいた。

 これまで彼女はどういう人生を歩んできたんだろう。どういういきさつで『アーム』に入ったんだろう。どうやって話しを切り出そうかと思っていると、馬の足音が聞こえてきた。

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