陽炎の森16 駿府(現静岡市)は江戸から四十四里二十六丁(約180キロ)であり、約7日の道のりです、神田橋の屋敷を朝早く出立したのです、3日目に箱根に着き湯本の温泉、


陽炎の森16



駿府(現静岡市)は江戸から四十四里二十六丁(約180キロ)であり、約7日の道のりです、神田橋の屋敷を朝早く出立したのです、3日目に箱根に着き湯本の温泉、

旅籠に宿を取ったのです、疲れた顔をしていると、ほんに真一朗様は歩くのが苦手なのですねとメイが笑っています、笑美がそれでは先に温泉に入って来なさい、

ゆっくりでいいですよと言ったのです、


真一朗が温泉に行くと、先客がいたのです、体を洗いお湯に入るといい気持ちです、旅の疲れが飛んでいくような気がしたのです、先客にどこから来られたのです、

かなと聞くと、こちらを振り向き、地獄からよと飛びかかって来たのです、左に体をひねり、風呂桶を手に取り相手の手を払ったのです、


あいくちが男の手から離れ壁につき刺ったのです、ついでに相手の眉間を叩くと、ぎや~と声を出し、一目散に風呂から出ていったのです、武士でも忍びでも、

なさそうです、柳生の手の者でもなさそうだし、だれだろう、駿府の者がやくざにでも頼んだのか、面体をしたたか打つたからキズがついているだろう、会えば、

すぐわかるかと思ったのです、


ゆっくり、お湯にはいり部屋へ戻ると、随分長い風呂です事ふやけてしまいますよとメイが笑ったのです、姫、風呂場で曲者に出会いました、風呂桶でしたたか、

面体を叩いてやりましたら、一目散に逃げ出しました、気をつけてくださいというと、わかりました、懐剣は離さないようにしましょうといい、3人は温泉に行った、

のです、


しばらくして風呂から上がって来たので、曲者はいませんでしたかと聞くと、それらしき者はいませんでした、真一朗殿の腕におどろいて退散したのでしょうと笑美、

が笑ったのです、食事が運ばれて来たので、皆で夕餉を取り一服して、私は先ほどの曲者がいないか、その辺を見回ってきます、


メイ殿、尚殿、姫を頼みますと言うと、心配せずとも、私が柳生の高弟をただの一太刀で倒したのは見ていたでしょうと笑い、油断大敵ですよ、真一朗殿こそ気を、

つけてくだされ、まだ駿府での仕事は終わっていないのですよと言ったのです、分かりましたと言って旅籠をでたのです、


ああいうやからは土地のやくざの家に厄介になっているはずだと思い、露店の蕎麦屋に聞くと、黒駒の勝蔵親分です、あこぎな親分でして、ショバ代は売上げの半分、

なんですよというので、それはあこぎだなあ、役人は何やっているんだと聞くと、それが十手持ちなんですよと答えたのです、


そうか、その時代はやくざが十手をお上から預かっていて、あこぎな奴も多かったんだなと思い、場所を聞くとこの通りの真ん中くらいだというので行って見ること、

にしたのです、入り口のノレンをくぐると、目つきの悪い奴が、お侍さん何か御用ですかと聞くので、ここに面体を割られた奴が逃げ込んだろう、ここに出して、

もらおうというと、ちょっと待っておくんなさいと奥に入っていったのです、


奥から親分らしき者が子分を従えて出て来たのです、その中に先ほどの男が混じっています、とんで火に入る夏の虫とあんたの事だよ、ここから出ていけると、

思ってのかと十手を出したのです、抜く手もみせず十手を叩き落とすとイテーと声を出したので、もう5寸腕を伸ばせばその手ごとなくなっているところだぞというと、


先生方お願いしますと親分がいうと、奥から浪人が二人出て来て刀を抜いたのです、真一朗も刀を抜き構えると、一人の男が上段から刀を振りおろしたので、

下段から振り上げ刀がガキ~といってぶつかるとその男の刀が真ん中からポキリと折れたのです、すかさず刀を持ち替え刀の峰でその男の手を払うと、折れた刀を、

落としギヤーといってうずくまったのです、ハヌキをしてあるといってもさすが業物の刀です、


唖然としているもう一方の浪人の手を払うと同じくギヤーといて刀を飛ばし、そこにうずくまった、刀を上段に構えると、待ってくれと言うので、刀を鞘に収める、

と一目散に逃げ出したのです、子分がかかってこようとすると、こんどは峰打ちはないぞ、命の惜しくないものはかかって来いと言うと、躊躇しています、


入り口から、役人が入って来て、往来での喧嘩はご法度だ、そこの浪人役所まで同道して貰おうというので、若年寄、土井利隆様の家来、村上真一朗である、

利隆様の用事で駿河大納言忠長様へ会いに行く途中だ、邪魔をされると小田原藩は無事にはすまないぞと一括すると、はは~、知らない事とは申せ失礼おば、

いたしました、この者達が何か不都合をしたのですかと聞くので、


そこの面体にきずのある男を捕縛されたい、先ほどわしに匕首で切りかかったのだというと、それ捕えろと役人が命令し、親分以下20名を捕縛し番屋へ連行し、

たのです、番屋にて誰に頼まれたかすなおに白状すれば寛大な処置を小田原藩の奉行にお願いするがと言うと、へえ、身なりのいい侍から頼まれたのです、


名前は何と言っておったと聞くと、田中孫七朗と名乗り、藩名は言えぬというておりました、あの旅籠に泊まっているあんたを指さして20両だすから始末してくれ、

と頼まれたのです、その男は腰に印籠をぶら下げていなかったか、と聞くと、たしか、桐の紋章の入った印籠を下げていましたと言ったのです、


よし分かった、もう一つの事を聞いてくれたら今回の事は不問にふそう、なんでございますかと聞くので、ショバ代を売上げの一割にしてくれないかなと言うと、

そんな無体な事はというので、ならば分かった、手を下した者はここで無礼打ちにいたす、お前達は奉行に言って永代追放にしてもらおう、


役人殿よろしゆうござるなと言うと、分かり申したきっとそのように取り計らうで御座ろうというと、お待ちください、わかりましたそのようにしますと親分が、

言ったので、よしそれならと紙に誓約書を書きこれに爪印を押せと墨で爪印を押させたのです、


それでは縄目を解いて開放してもよろしゅうござるぞというと、役人が縄を解き、あの~、十手も返してもよろしいのでと言うので、返してやりなさいといい、

約定を破ったら、これを小田原藩の殿様に差し出すのでよく覚えておけ、役人にあなた達もこれを出されれば切腹間違いなしですよと言ったのです、


旅籠に帰ると姫が、先ほど尚より全てを聞きましたよ、真一朗殿は策士ですね、これでは但馬の守も顔負けですよと笑ったのです、駿河まで後3日なにが起こるやら、

分かりませんねえと真一朗は頭をかいたのです、








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