陽炎の森14 笑美様と一緒に奥の間にくるようにとの利隆様のお召しにございますと尚が呼びに来たので、笑美の部屋に寄ったのです、夕べの事がありギクシャクしていると、


陽炎の森14


笑美様と一緒に奥の間にくるようにとの利隆様のお召しにございますと尚が呼びに来たので、笑美の部屋に寄ったのです、夕べの事がありギクシャクしていると、

どうしたのです真一朗殿、夕べは眠れなかったのですかと笑ったのです、


なるほどこの時代の武家の娘はいつもリンとしているのだと感心したのです、二人で利隆様の御前に座ると、聞いてのとおり、夕べ秀忠公がお隠れになった、いずれ、

正式に発表されよう、それまでは屋敷の物には口止めしてあるのだが、


秀忠公がご存命生中であれば忠長様の後見役もさして難しくないが、お隠れになった今、またぞろ、忠長様の擁立をくわだてて騒がしくなるであろう、余は家光様、

との約定通りにするつもりだが、忠長様の気がかわり、次将軍を望まれると後見役のみどもがむげに反対できなくなる、何か良い手立てはないものかといった、

のです、


それは先に家光様が京都に登り朝廷より将軍宣下を賜わるしか手はございません、柳生殿が朝廷工作をおこない、忠長様を擁立する者の朝廷工作を妨害する事です、

殿は忠長様の気が変わらないように擁立しょうとする、取り巻きを、もっともらしい理由をつけて忠長様より遠ざけなければなりません、


その時、江戸家老が入って来て、殿、大変でございます、お江の方様の緊急のお召しにございますと言ったのです、もう来たのか、あい分かった登城すると伝えよ、

気の重い事だが登城せねばなるまい、そなた達も同行せい、支度が出来るまで部屋で待っているが良いと部屋を出て行ったのです、真一朗殿お手前が頼みにござる、

なにとぞ当家をよろしくと江戸家老が頭を下げたのです、


しかし、これでお殿様は後の世まで非凡の殿様であったと言われるのでありましょうなあと言うと、どういう意味でござるかと聞くので、先代様と比べられる殿は、

お気の毒と言う意味ですと答えたのです、


笑美の部屋へ戻ると、姫が先ほどのおっしゃりようではまるで殿がダメ殿と後の世まで言われると聞こえたのですがというので、家光様が将軍になられたら、忠長様、

の後見役である利隆様を今の若年寄りから老中には出来ないでしょう、もし忠長様との仲が悪くなれば、取り潰しはされなくても、二度と幕閣にに戻れますまい、

それを承知で引き受けられた利隆様がかわいそうです、


もし忠長様が将軍になれば、天下は思うがままです、先代と同じに幕閣の重臣となり、大老も夢ではないのです、しかし、利隆様は律儀な人なので、家光様との約定、

通りに決して忠長様を将軍にはしないでしょうと言ったのです、


なるほど、真一朗殿と利隆様は反対の利害があるのに、お互い協力しなければならないとは、なんと、神様の意地悪な事でしょうと、真一朗の顔を気の毒そうに、

見つめたのです、


笑美がこれから登城するが、お城の中で不穏な動きがあるやもしれない、尚とメイも同行するのだと申しつけたのです、メイはいざと言う場合の大奥に入っている、

尚の仲間との連絡役だ、真一朗殿と私と尚は殿の警護役だと言ったのです、


呼びに来たので、支度をして殿の登城に同行したのです、城に入り、お江の方の近くの控えの間に、笑美とメイと尚を残し、お江の方様の御前へ進みでたのです、

おお利隆殿、急に呼びたてて申し訳なかった、まあ、ちこう寄られよといい、そなたの後ろに控えている者はだれどえと言うので、当家お抱えの蘭学者にございます、


おお忠長に聞いた者だな、名前はなんと申したかなと聞くので、村上真一朗に御座いますと答えると、今日は蘭学の事を聞きたくて、呼びたてのではないぞと、

お江の方が言うと、それがしの警護役でござると利隆が答え、そうか、忠長の後見役であるそなたを、城内でも柳生の手の者が狙っているのか、それは難儀な事、

よのうと言ったのです、


聞いた話しではあるが、今回の当代様のお隠れは、柳生一派が、当代様が生きていては家光に将軍の座を渡さぬと思い、毒殺したとの事なのだ、本当ならこれは、

ゆいしき事である、そのような者と通じている家光を将軍にするわけにはまいらぬ、よつて忠長に将軍宣下のみことのりが下るよう、忠長の家老が京へ向かった、

そちは忠長の後見役であるので宜しくたのむぞと言ったのです、


おそれながら、根も葉もない噂話で、当代様のお決めになりました、家光様後継の義を軽々しく撤回し忠長様への将軍宣下を朝廷に働きかける等あってはならない、

事です、その疑いあらば、しつかりと詮議の上でなければなりませんと答えると、


そなたは後見役でありながら、忠長の将軍に不服を申すのかと言うので、そうではなく取り巻きの茶坊主の讒言に惑わされて、軽々しく動いてはならないと申し上

げているのです、ここで家光様と忠長様が争えば、武家は真っ二つに割れ、またもや戦国の世に逆戻りかも知れぬのですぞ、わたしが言う事をきかねばと、そこの、

襖の陰で息を潜めてるねずみどもめ、


刀を納めて早々に立ち去れ、ここに控えている村上真一朗は、柳生新陰流、師範代荒木又衛門を1太刀で打ち据えた業の者だぞ、そなた達の5人や10人などその素首、

がころがるだけだと叫ぶと、


あまりの利隆の剣幕にお江の方は許してたもれ、あの者達はただ忠長の事を思ってのことなのだと言ったのです、それではけして軽挙網胴などなされませんように、

事の真意はこの利隆におまかせあれ、それでは失礼いたすと部屋をでたのです、











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