陽炎の森12 しばらくして柳生但馬の守から明日、家光様がお忍びで見えられるのでお越し願いたいとの事でござると、使いの者がやって来たのです、持って来た書状を読むと、


陽炎の森12


しばらくして柳生但馬の守から明日、家光様がお忍びで見えられるのでお越し願いたいとの事でござると、使いの者がやって来たのです、持って来た書状を読むと、

村上真一朗も同行せよとの上様の口上であると書いてあった、ただの浪人者が次の将軍にお目見えするなど聞いたことない、


江戸家老を呼びどうしたものか聞くと、家光様の申しつけでは断るわけにはまいりません、私が隠居しますので、真一朗殿を1000石に封じ、江戸家老にして、

お目見えするしかありませんと言うと、ばかを言うなそんな事をすれば、家中に示しがつかないだろうと利隆が言ったのです、


そうだ、蘭学者、碁打ちなら身分が低くともお目見えできるようになっている、真一朗なら蘭学にも詳しいと義清がいっておった、当家お抱えの蘭学者とすれば、

よい、真一朗をこれへと命令したのです、


真一朗が義隆の前へ行くと、明日、柳生但馬の守の屋敷にお忍びで家光様がおなりになる、そちらも同行するようにと言うと、お待ちください、ただの浪人が、

家光様にお目見えするなど、聞いた事がありませんと困った顔をすると、


しかし断るわけにはいかない、家光様の申しつけなのだ、そなたを当家の蘭学者とすれば、身分が低くともお目見えできる事になっておる、頼むとゆうので、

承知ましたと言うと、そなたの知識ならどの蘭学者もかなうまい、決して未来から来たなどとは言ってはならない、同じ村上だから義清の血縁の者とするぞと、

言ったのです、


部屋に戻るとメイがどうかなされましたかと聞くので、明日、家光様にお目見えすることになったのだ困ったと言うと、まあ、名誉な事ではありませんか、

真一朗様ならきっと、家光様に気にいられますよと笑っています、


私はこの世界の人間ではない、あまり目立つと、この時代の歴史を変えかねないのだよというと、いつそこの世界に留まりください、メイがず~と面倒みてさし、

あげますよ、それとも、あちらの世界に好きなお方がいるんですかと聞くので、いないんだよと答えると、それでは、いいではありませんかと笑っていたのです、


次の日、利隆様の供をして柳生但馬の守の屋敷に行くと、大広間に案内され、待っていると、二人の若者が入って来たのです、平伏すると、くるしゅうない、

面を上げよというので、顔を上げると、利隆久しぶりだな、そこもとのうしろに控えているのが、村上真一朗か古河藩お抱えの蘭学者だそうだなと聞くので、


そうでございますと言うと、そちは正座が苦手らしいなあ、足を崩してもよいぞと、家光もあぐらをかいた、誰が正座なんてものを作ったのかしらないが、

余も嫌いなのだ、利隆そちも足をくずせ、そちが崩さないと、真一朗もくずせぬぞと言ったので、利隆もあぐらをかいたのです、


これは弟の駿河大納言忠長だというので、村上真一朗に御座いますと挨拶すると、但馬の守によると、歯に衣を着せぬ良い性格をしていると聞いたぞ、余の家臣、

にもそうゆう者がほしいのお、兄上そう思いませんかと言うと、家光がもつともだ、そちのお陰で忠長と仲たがいをせずに済んだ礼をいうぞ、


利隆どうだな、この忠長の後見役を引き受けてくれまいか、そうすれば、お母上も喜ばれるであろう、わしが将軍職をついだとしてもそなたには何の咎めはせぬ、

宜しく頼むと、と家光が壇を降り利隆の手を握ったのです、俊隆がもったいのうございます、喜んで承りますと返事をしたのです、


忠長が利隆よろしゆうたのむぞ、いたらぬとこはどしどし諌言してくれ、お父上もお母上もお喜びになるであろう、また、そちには兄上に頼んで加増してもらうぞ、

というので、その義だけは平にご容赦くださいと利隆がいうと、どうしてだと忠長が言うので、


それを受けましては、他の大名が忠長様を守り立てれば加増されると勘違いをして、取り巻きが沢山あつまり、家光様との仲が不仲になります、後見役は私一人、

にしてくだされば、いさかいは起こらないでしょう、もし将軍家に仇なす物がいれば、私ともども改易処分になさりませと家光に言ったのです、


家光がそこまで考えての承諾か、あいわかった、忠長、取り巻きの讒言に耳を貸してはならないぞ、困ったらいつでもこの兄を頼るがよいと忠長の手を握った、

のです、しかし、真一朗はやがてこの二人は本人の気持ちとはうらはらに、仲たがいをする事となり、忠長は不幸な一生を送る事となる事を知っているのです、


余計な事をして歴史を変えてはならないのです、ただだまって、見ているしかない自分が辛くなっていきます、家光が酒肴の支度をせい、今日は足を崩してみなで、

飲もうではないかと声をかけたのです、但馬の守が手を叩くと、膳が運ばれてきて、家光と忠長のそばに腰元が座り酌をしたのです、


利隆と真一朗の傍には尚とメイが座り酌をして、但馬の守がいざと声を発し盃を重ねたのです、但馬の守が家光にそこに控えておりますのは、私の娘のゆうと、

さきに御座いますと紹介すると、利隆がここに控えおりますのは、尚とメイで御座いますと紹介したのです、


家光がこんな美形の女人に酌をしてもらうと、酒もまた格別だなあ、ゆかい、ゆかいとはしゃいでいたのです、真一朗そなたは剣も達人らしいな、柳生の手の者、

をいとも簡単に打ち据えたと但馬から聞いたぞというので、


おそれ入りますが、柳生の剣にそれがしが太刀打ちできるわけがありません、油断をついたまてです、それが証拠に柳生十兵衛殿にはていもなく、ひねられた、

のですと答えると、はははは柳生十兵衛にかなうものなどいないだろう、あれは剣の天才ゆえになと家光が笑ったのです、


酒肴も終わり、機嫌よく家光と忠長は帰っていつたのです、但馬の守が利隆殿、拙者の不徳でござった許されよと頭を下げるので、なんの、これも幕府をささえる、

為であり、但馬の守殿はご苦労の多い事と拝察つかまつりますと答えると、そういっていただくとかたじけないと礼をいい、それでは、と利隆も席を立ち、屋敷に、

もどつたのです、


屋敷に帰ると、ご苦労であった、そなたのおかげで面目をたもてたぞ、笑美にもよしなに言ってくれと奥に入ったのです、尚とメイを伴って笑美の部屋へ行くと、

ご苦労様でした、うまくいったようで、ホットしました、まあ、一服茶をたてましょうと、鉄瓶からお湯を汲み茶をたてたのです、


それがし作法を知らないのですがというと、好きなように飲めばいいのですというので、一気に飲み干し、いいお手前でしたというと、あら、少しは知っているの、

ですねと笑ったのです、


しかしこの家光との出会いが真一朗に更なる災いを降りかけようとしており、何者かによる大御所秀忠暗殺が今決行されようとしていたのです、







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