陽炎の森11 その頃土井利隆は火事装束に身を固め、いつでも、出動できるように将棋に座っていた、江戸家老がたかが浪人風情の為に騒動に巻き込まれては、藩は取り潰しに、


陽炎の森11


その頃土井利隆は火事装束に身を固め、いつでも、出動できるように将棋に座っていた、江戸家老がたかが浪人風情の為に騒動に巻き込まれては、藩は取り潰しに、

なりかねない、おやめくだされと諌めたのだが、何を言うか余の為に、単身柳生屋敷に乗り込んだのだ、これを、見殺しにしたとあっては、土井家は後世の笑いもの、

になるであろう、


尚からの異変の連絡があり次第かけつけるぞ、愛宕下の柳生屋敷まではおよそ一時半だ、あの者達なら防ぎきるだろうといったのです、その時代の江戸の火消しは、

大名が順番に勤める事になっており、助っ人は自由に出す事が出来たのである、利隆は火事にかこつけて出動しょうとしていたのである、

これから後の徳川7代将軍吉宗の時代に町火消しの制度が確立される事になる、


それではと言い、二人は奥座敷に案内したのです、そこには眼光鋭い恰幅のいい男が座っていた、席を勧められ座ると、柳生但馬の守であると言うので、村上真一朗、

です以後お見知りおきをと挨拶したのです、但馬の守どのにお願いがあるのですがというと、なんでござるかと聞くので、


拙者、正座は苦手で御座る、足を崩してもよろしいかと言うと、ほう、武士からぬ物言いだな、構わぬ崩してくだされと返事したので、あぐらをかいたのです、

私に何の用かなと聞くので、将軍後継についてでござる、たかが浪人の分際でなにを言うかとお思いなれど、あえて申しあげる、


すでに家光様と決まったにもかかわらず、忠長様擁立を大名に迫られるのは、それを願うお江の方様へのへつらいでありましょう、3代将軍は家光様になるのは確実、

な事です、決まった暁に今回忠長様擁立を了承した、大名に難題を押し付け取り潰しを家光公に進言して、己の勢力を増やそうというもくろみと見ましたが、

いかがかなと迫ると、


荒木又衛門が殿に向かって無礼なものいい、その分には捨て置きませんぞと刀に手をかけるのを、但馬の守が、まて、控えよと制止したのです、ご明察恐れ入るが、

ちと違う、たしかにお江の方様は忠長様を3代将軍にしたいのは本当の事でござるが、お気の毒なのはその後見役が役く不足である事でござる、


それがしでは役不足であり、譜代の大名の土井様ならつりあいが取れると思うたまでの事、家光公もあれでなかなか弟思いであらせられる、所詮は自分が3代将軍、

をつぐ事は間違いないが、土井殿が後ろ盾であれば、その望みが叶わぬともお江の方、も納得されようと思いなのです、忠長様は兄を押しのけて3代将軍になろう、

とはつゆとも思うてはおられないのです、


また昨今の大名の日和見にも頭をいためておられるのです、しかし、今はそう思われても、いざ権力を握ると、茶坊主が回りに集まり、よからぬ事を吹き込む、

ものです、これから先幕藩体制を固める為には戒めの為多くの大名が取り潰されることでしょう、


私の厄介になっている土井利隆はじめ多くの大名は日和見を決め込んでいるのではありません、家光公の意思ではなく、但馬の守様の策だと思っているのです、

内々に土井利隆様に家光公がお会いになりその胸の内を明かされる事こそ肝要でござる、


そうすれば、たとえお家が滅びょうとも家光公に忠誠を誓う事でしょう、現に利隆様は私が戻らない場合、お家を滅ぼす覚悟でこの屋敷に討ち入るつもりでいる、

のを、但馬の守様には先刻存知のはずですが、といったのです、


なるほど忌憚のない物言い感服つかまつりました、それがしの至らぬ事であった、さっそく、家光公に取り次ぎ、その機会を作る事にします、しばしの猶予を、

お願いしたいと、但馬の守が言い、一献差し上げたいが、私はこれから出所しなければならない、後はこの十兵衛と又衛門がお相手つかまつるというと、

部屋を出ていったのです、


それでは一献お付き合いくだされと屋敷を出たのです、尚に目配せすると、尚がそれでは私どもはここで失礼して、お殿様へ事の次第をご報告に屋敷にもどり、

ますというと、宜しくと笑美が返事したのです、


尚が屋敷に戻り事の経緯を利隆に報告すると、それは何よりだ、合戦は勝利したぞ、えい、えい、お~と、勝ち時をあげたのです、それではものども、軍装を解き、

ゆるりとせよと命令したのです、


十兵衛は屋敷の近くの料理屋に案内し、奥座敷に入り、酒と魚を注文したのです、やがて、料理が運ばれてきて、まず、一献と十兵衛が笑美と真一朗に酌をして、

杯を重ねたのです、しかし、笑美殿は良い御仁と出会いなされましたなあ~、真一朗殿は親父よりも策士でござるよ、


門弟の木戸一之進がすっかり、真一朗殿のとりこになったみたいで、お咎めを覚悟で洗いざらい親父に白状したそうですと言うので、お咎めはなかったのですか、

と聞くと、頭をこずかれ、親父が大笑いをして、とがめだてしなかったとの事でござると答えたのです、


これで一段落だが、次はどんな災難が降りかかってくるのですかねと笑美の顔を見て笑ったのです、笑美がどんな災いでも、真一朗殿ならよけて通りますよと、

いうと、その通りですよと3人が大笑いをしたのです、




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