皐月side

エピローグ 5

 昼休み。長かった質問攻めも一段落して、私は教室を出た。

 朝は様子を伺うだけだったクラスメイト達も、一時間目が終わる頃には徐々に私にも事件のことを聞いてきた。

 とはいっても、私は特別何かしたわけじゃない。巻き込まれた経緯と解放されるまでのことを淡々と喋るだけだった。ただ、血を吸われたことに関してはぼかしておいた。犯人に吸われたことは思い出したくないし、基山に吸われたことを言ってしまうと迷惑がかかるかもしれなかったし。

 身に起きたことを話すだけだったけど、これが意外と疲れる。皆よくこんなつまらない話を聞きたがるものだ。


(話すんじゃなく、もう少し時間をかけて文章にするなら面白くできるのに)


 元小説家志望の私は思わずそう考えてしまった。もちろん今回の出来事を本にするつもりも、ブログに乗せるつもりもないけど。そもそもブログなんてやっていないし。

 そんな事を考えながらも、ようやく手に入れた自由時間満喫しようと図書室に向かう。


 そう言えば、さっき香奈からメールがきた。私を心配する言葉と、基山が吸血鬼だとばれたことについて少し触れられていた。


『ちょっとの間アイツは注目浴びそうだけど、いじられたり変にしょげたりしたら悪いけど慰めてやって』


 いらない心配だとは思うけど。

 でも授業中ちょっと基山の方を見たけど、なんだか元気がなかったように思える。質問攻めで疲れただけかもしれないけれど、もし悩んでることがあるのなら、今度は私が力になりたい。これでも助けてくれたことには感謝しているんだ。

 そんな事を考えているうちに階段に差し掛かる。その時ふと、上から下りてくる西牟田が目に入った。


「調子はどう?」

「まあまあ」

「そ、良かった」


 本当は質問攻めで少し疲れているけど、あえて言う必要も無いだろう。それより私も西牟田に言いたい事がある。


「そういえばごめん。この前は八雲を家まで送ってくれたんだって?」

「店長さんや春日さんもいたから、俺は本当について行っただけだよ。それより、水城さんはあれから基山と話はした?」

「ううん。何だかタイミングが合わなくて」

「だったら今話してみる?基山、屋上にいるから。なんだかいろいろ悩んでいるみたいだったし」


 やっぱり何か悩んでたんだ。行ってみようかな。まだ助けてもらったお礼も言ってないし。本当は真っ先に言わなきゃいけなかったというのに。


(読書はまた今度で良いや)


 西牟田にお礼を言うと屋上に足を向ける。


「基山、頑張れよ」


 最後に西牟田が何か言ったみたいだったけどよく聞こえずに、私はそのまま階段を上って行った。

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