第七十四回 石勒は司馬越の党を殺す
重ねて先行する
樊城の守将の
▼「李典」の子は
両軍は出遭うとそれぞれに陣を布き、李特は陣頭に馬を進めて石勒と
「お前たちの出自は中華の士大夫、蜀漢の遺臣と称していよう。それにも関わらず匈奴に与して中原を乱し、士大夫を殺傷するのか」
「晋朝は不道にして骨肉の親が殺し合い、人民は塗炭の苦しみに喘いでいる。大丈夫は民を水火の苦しみより救うことを思うもの、どうしてお前たちのような祖宗の教えに背く者たちを見習うはずがあろうか。今や中原の半ばは吾らの有に帰している。それでもまだ抵抗するつもりか」
張賓が言い返すと、それを合図に漢兵たちが晋陣に斬り込んでいく。先頭に立つ
※
晋兵を追った張敬と張實が城門を攻めようとするところ、本軍とともに石勒と張賓も到り、城下に軍営を置くと三日に渡って休む間もなく城攻めをつづける。
李徳は防戦に徹するものの城内の矢石は早くも尽きつつあり、城内の兵民は深く憂えた。さらに漢兵の士気は高く、孤城となった樊城の失陥は旦夕にある。
「石勒は勇猛であるにも関わらず、吾らの軍勢は寡兵に過ぎぬ。樊城を捨てて家眷とともに脱するよりないと観るが、どう思うか」
李徳の言に部将の
「近隣の州郡もすでに破られており、樊城は守り抜けますまい。家眷と府庫の銭穀を収めて吾らが先行いたます。将軍は殿後を断ってともに
李徳もその言を
翌日、樊城の民は城門を開いて投降し、張賓は軍勢とともに城に入った。城内の路には香花が供えられ、民は漢兵の入城を拝して迎える。石勒は民を安撫して掠奪を堅く禁じたため、民はみな喜んだ。
※
石勒は諸将を集めると下縣の平定を命じ、諸軍がまさに城を出ようとした時に斥候が駆け込んで言う。
「
◆洛陽から東海国に向かうには、
それを聞いた石勒が張賓に言う。
「
司馬越の屍を奪うべく、
◆「苦縣」は陳郡に属し、晋代では豫州に属する。
王衍は
孔萇と桃豹が左右より攻めかかり、さらに呉豫も加わって何倫とその一行は漢兵の包囲に取り込まれた。
※
何倫が必死の抵抗をつづけるうちに時が過ぎ、石勒が一万の鉄騎を率いて到着する。半円に囲んで乱箭を放てば、晋兵の死傷する者が夥しく出た。怖れて逃げ出す兵まで現れる。
漢兵たちは葬列に従う高官たち三百人を擒とし、その内には
擒とした諸王や高官を連れて樊城に戻れば、すでに
石勒は堂上に坐すると俘虜を引見し、王衍を階下に呼んで言う。
「卿は宰相の身でありながら、東海王に阿附追従して百姓を害し、国事を誤った。何か言うことはあるか」
「臣は若い頃から官途を望まず、司馬越の下にあっても世事に関わっておりません。晋国の覆敗はこの身にはなく、どうしてこのような事態に立ち至ったのやら、判断もつきません」
重ねて洛陽の内情を問われて言う。
「晋国の実情は明公がご存知のとおりです。天下の民は明公の威名を仰いでおります。この機に乗じて帝位に即き、晋漢とともに鼎立したとして、治められぬことなどありましょうや」
ついに石勒は怒りを発して詰った。
「卿は壮年にして宰相となり、名は天下に知られて身は重任を担っておった。どうして官途を望まなかったと言えようか。大局を知らずして天下を破った者は、卿の他にいるはずもあるまい」
左右に命じて王衍を別室に連行させると、哂って諸将に言う。
「吾は若年より天下を放浪して様々な人間を観てきたが、これほどの奸人はなかった。阿ってさらに偽る。どのように遇するべきか」
孔萇が言う。
「王衍はあれでも晋の三公の一人、重職を与えたとすれば清談で吾らを惑わせましょう。かと言って、卑職を与えれば悪事をなして利益を得ようとします。生かしておいても無益でしょう」
「その通りだ。しかし、王衍の罪悪は世に知られておらず、かつ、賢人であるという名だけが知られている。吾らが斬刑に処するわけにもいかぬ。密かに除くよりあるまい」
石勒はそう言うと、親近の者に密かに命じる。
「寝台を壁際に置いてそこで休ませよ。深夜になれば壁を寝台に倒して圧殺せよ」
王衍はその部屋に連行されると、僚属に言った。
「吾は今日という日が来ると知っておった。どうして早く清談を止めて王室を
言い終えると、三度頷いて嘆いた。
「王衍、王衍、お前はついに禍に罹ったのだ」
その夜、王衍は休んでいる間に壁の下敷きとなって絶命した。
石勒はさらに、何倫と
「天下を乱したのはこの者である。吾は天下のために仇を討ったのだ」
その首級は屍とともに焼き捨てられた。諸王や官属、さらに東海王の子の
ただ、東海王の妃であった
瑯琊王は裴氏の勧めにより建康への赴任を許されたことを徳としていた。商人に褒美を与えて裴氏の身柄を建康に留め、厚く遇してその恩に報いる。また、次子の
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