第七回 長沙王司馬乂は兵を聚めて評議す
「二王と通じていることを察知されては葛旟の輩に謀を阻まれよう」
そう考えると、私邸に還って幕下の部将を集めて事を諮った。集った者は
長沙王は諸将に問うて言う。
「齊王は独り天下の政道を専らにしてその
長沙王の麾下に
その馬咸は長沙王の麾下に加わって末席に控えていたが、長沙王の言を聞くと進み出て言う。
「先んじれば人を制すると申し、これは古より常のことです。齊王はただ葛旟と
長沙王はそれを聞いて喜び、腹心の部将である
「大事をなすにあたっては名分が正しいことを重んじます。数日の間は二王の軍勢の到来を待ち、一鼓に悪党を捕らえるのであれば、仔細を定める必要もございません。大王が独り軍勢を起こされては、
その諫言に従い、長沙王は諸将に
※
数日を経ずして洛陽に密使が到り、長沙王に書状を呈して言う。
「河間王は
▼「陰盤」は
▼「新安」は『
河間王の出兵を知り、長沙王は諸将を集めた軍議を開いて言う。
「河間王と成都王の軍勢が近日中には洛陽に到着するという。遅れをとれば葛旟、董艾らの奸計に陥って身を誤ることになりかねぬ。急ぎ二王に同調すべきと考えるが、諸卿はどのように考えるか」
皇甫商が進み出て言う。
「二王が動かれるのであれば、事は必ずや成りましょう。従われるべきです。しかし、機謀は謹密でなくてはならず、余人に知られぬように事を運ばねばなりません。すでに二王の軍勢が外に威を張っているとなれば、齊王が洛陽の城門を閉ざして備えるのは必然です。そうなっては二王の軍勢が攻め寄せても易々とは入城できますまい。大王は齊王とともに朝政を執られる身、身の処し方も余人とは自ずから異なります。かつ、朝廷満座の権貴はすべて齊王の党与、
それを聞いた宋洪が勧めて言う。
「
長沙王は密かに人を遣わして
「臣の才識は
「齊王が朝政を執るもその心は仁ならず、群小どもが大任を預かっておる。これに天下の人は怒りを懐き、先には河間王が上表してその罪を責め、即日に成都王とともに軍勢を合わせて齊王の罪を問うとの報せがあった。孤が朝廷にあって齊王を扶けようと図ったところで徒労に終わり、二王を助けて入城させるにも力及ばず、如何ともし難い。
「そもそも殿下はどのようにお考えになっているのかをお教え下さい。
「孤は先に馬武威(馬隆)の謀を用いて国賊を除かんと図ったが、齊王の一党の勢威が盛んにして事を果たしておらぬ。心中は
「齊王は
「妙計ではあるが、羽林の衛兵どもは齊王と五公を畏れて従うまい」
「大王のご命令であれば、おそらくはそうなりましょう。しかし、天子の勅命とあれば従わぬ者はおりますまい。その上、先に河間王と成都王の二王が張方を先鋒とする三十万の軍勢を率いて洛陽に向かっているとの風聞もあり、これを耳にした者で朝廷に背いて齊王に加担し、三族を戮されることを望む者はありません。すみやかに決行されるべきです」
長沙王はすぐさま諸将に命じてそれぞれの任と合図を定め、
▼「雲龍門」は洛陽の内城の東壁に設けられた門。
※
長沙王が
「齊王の
晋帝は上表を真に受けて言う。
「朕の見るところ、齊王は専権するより心中はつねに物足りぬようであった。何事かを起こすであろうと思っておったが、案の定、謀反を起こしおったか。この罪を正すのに、王はどのように処するつもりか」
「悪事が明らかになった上は仔細を論じるにもあたりますまい。陛下におかれましては
晋帝はこれが長沙王の謀とは露知らず、
「齊王の司馬冏が謀反した。すみやかに王府を囲んで一党を捕らえ、ことごとく誅して容赦を容れるな」
諸軍は勅命を受けると勇躍して齊王府に向かったことであった。
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