第288話 無人偵察機

 初秋の風が吹く頃、トウキョーの自宅に1本の電話が入った。

「大変です。正体不明の魔物がサン・イルミド海峡を下ってきます」

 サン・イルミド川だった頃の名残りで、北から来るものは下ってくるという表現を使う。

「偵察衛星で確認出来たか?」

「竜のようですが、蛇のようでもあります」

「分かった、そっちに行く」

 ジェコビッチの運転する車で、公主邸にあるCICに入った。

 もちろん、家族も一緒だ。

 そこへ、ホーゲンたちも来た。

「ホーゲン、サリーはお腹が大きいのだろう。心配なら帰ってもいいぞ」

「いえ、サリー姉さんが行けと言ってくれましたから、こっちに来ました」

 結局、ホーゲンはサリーと結婚した。しかし、昔から呼んでいる『サリー姉さん』という呼び名はそう簡単に変わるものではない。

「そうだぞ、ホーゲン、そうは言っても一人だと心細いもんだ。ここは僕たちに任せてくれ」

 そう言ったのはウォルフだ。彼はカリーを妻に迎えた。

「いや、もう少し様子が解ったら、どうするか決めよう」

「ヤマトを出しますか」

 魔石研究者のキューリット・ガーミリオンが言う。

 彼女はポールと結婚した。しかし、どこに接点があったのか、まったく分からない。それと、人族と獣族が結婚しても子供は出来ない。

 なので、彼女たちにも子供はいない。

「新しいヤマトは完成したのか?」

「ええ、イージス戦艦ヤマトとして完成しました」

 昔のヤマトは貨物船を戦闘艦に改造したものだったので、戦闘に不向きなところがあったが、今度のヤマトは初めから戦艦として建造してある。

 しかも最新のイージスシステムを搭載している。

 動力には、例の電気ダコの魔石を利用し、電磁誘導噴射装置により稼働するため、最高速度は80ノットまで出せる。

 20ノットが時速36km/hなので、大体150km/hになる。

「よし、ミズホ、ヤマト発進。正体不明の魔物を偵察せよ」

「空母ミズホ、イージス戦艦ヤマト発進して下さい」

「スパロー提督、指揮権を渡す」

「スパロー指揮権を預かります。スパローだ、司令長官より指揮権を預かった。これより、魔物の偵察について、私が指揮を執る」

 スパロー提督の指示が、発せられる。

「ミズホ、無人偵察機発進、目標サン・イルミド海峡を下って来る魔物。映像、いいか。CICに電送」

「ミズホ、無人偵察機発進します。映像はミズホを中継し、公主邸CICへ電送します」

 モニターにミズホを発艦する無人偵察機からの映像が映る。

 無人偵察機はサン・イルミド海峡を上って行く。

「サン・イルミド海峡を航行中の船に、直ちに近くの港に避難するよう指示を出せ」

「航行中の船に避難指示を出します」

 無人偵察機が、サン・イルミド海峡を上って行くと遥か彼方に魔物が見えた。

 その姿はたしかに竜だが、数が多い。10匹ぐらい居るだろうか。

 更に近づき、上昇すると竜が背伸びをし、空中に躍り出た。やつは空を飛べるようだ。そして、その姿を見た途端、正体が分かった。

 一つの身体に10匹の竜がついている。

 キングギドラの首が竜になって、しかも10本あるようなものだ。

 竜1匹でもかなり苦労したのに、それが10匹居るとなると対応が難しい。

 竜の1匹の口から火の玉が出たかと思った瞬間、画像が途切れた。無人偵察機はやられたのだろう。

「見たな?」

「見ました」

「かなり、手強そうです」

「よし、行こう。輸送機を回してくれ」

「「「私も行きます」」」

「「「僕も行きます」」」

「儂だって行くぞ」

「ご隠居さま。無茶は言わないで下さい」

「何を言うか、力は落ちたが、弓の精度はまだまだじゃい」

 いや、弓で倒せる相手じゃないから。

「ホーゲン、お前は残れ。身重の妻が居る」

「嫌です」

 はっきりとした言葉だ。

「父上、僕も行きます」

「タケル、お前まで」

「タケル、何て事を言うの。あなたは次期エルバンテ領主なのよ」

 ラピスが驚いて言う。

「次期領主だから行かなければならないのです。領主は領民を守る義務があります」

「旦那さま、何か言って下さい」

「タケル、一緒に来るか」

「はい」

「もう、あなたたち親子は、こうなったら私も行きますからね」

「あたり前じゃない、ね、ミュ」

「私は、ご主人さまから離れません」

「と、いう事は私たちも一緒ね、アスカ、ホノカ」

「「もちろん」」

 結局、家族全員が来るのか。

 まったく、ピクニックじゃないんだからな。

「今、『ピクニックじゃないんだから』と思ったでしょう?」

 ラピス、人の心を読むな。

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