第264話 竜
ウォルフとセルゲイさんは矢を放つが、鱗が固く矢が弾かれる。
ウーリカもファヤーアローを放つが、同じように弾かれる。
「マリン、アイスアローはどうだ」
「アイスアロー!」
やはり、弾かれる。
「くそっ、だめか」
しかも竜はミュの方に意識がいっており、俺たちが放った攻撃を意にも留めない。
「エリス、竜の弱点はないのか」
「竜は火と水に耐性があるわ。それに鱗は固くて切れるのはミュのオリハルコンぐらいだわ」
「オリハルコンなら切れるのか?」
「あの剣は、エクスカリバーと統合されているのよ。今のオリハルコンに切れない物はないわ」
だが、竜の動きが速く、ミュも竜に切り込めないでいる。
しかも口から火を吐いてくるので、近くに近寄る事もままならない。
「アリストテレスさん、何か作戦はありますか?」
「カイモノブクロをください」
エリスが、カイモノブクロをアリストテレスさんに渡す。
「ミスティさん、ミントさんそれにミドゥーシャさん、このカイモノブクロに相手を眠らせる魔法を出来るだけ沢山入れて下さい」
3人がカイモノブクロに、昏睡の魔法を入れる。
カイモノブクロに昏睡の魔法を入れ終わった3人は魔力を使い果たし、その場にダウンしたが、命に別状はない。
「エリスさま、ミストラルそれにラピスさま、このカイモノブクロを竜の上の風上側に持って行って下さい」
3mぐらいに膨らんだカイモノブクロを3人が竜の上空に運ぶ。
「セルゲイさん、ウォルフ、矢の準備」
「よし、カイモノブクロを竜目掛けて投げつけて」
ラピス、エリス、ミストラルが同時に竜に向けて、カイモノブクロを投げた。
「今だ、矢を放て」
ウォルフとセルゲイさんの矢がカイモノブクロに向かって飛んでいき、矢が刺さると、カイモノブクロが破裂した。
「ミュさま、離れて」
ミュが上空に避難する。
カイモノブクロから出た昏睡の魔法は、竜を覆うと竜がぐらつき始めた。
普通の魔物ならそれで寝てしまうはずだが、さすがは竜だ。意識は薄らいでいるものの倒れるまではいかない。
「ミュさま、今です」
ミュがオリハルコンを手に竜に急降下するが、竜は意識が回復しないのか、動作が遅い。
その期を逃さず、ミュのオリハルコンが竜の首を斬った。
竜の首から鮮血が上がる。
そして、ミュは反対側からも突っ込んでいき、同じように竜の首を斬る。
胴体と離れた竜の首が滝つぼの中に落ちて行く。
ミュは心臓の辺りにオリハルコンを差し入れると、しっかりと魔石を回収している。
次の瞬間、竜の胴体も滝つぼの中に没した。
すると、竜の子たちが、親竜に群がり始め、親竜を喰っている。
「よし、今のうちに脱出するぞ」
「ボイラー蒸気圧上げろ。タービン最高回転まで上昇」
ジョニー船長が発破をかける。
ヤマトの周りに居た子竜は、エサとなった親竜に群がっている。
ヤマトは全速力で滝つぼを脱出する。
「おい、みんな大丈夫か?」
魔力を使い果たした者も、エリスの回復魔法で元に戻ったようだ。
「ええ、大丈夫です」
「ああ、どうにか」
「ミュ、魔石はどうした?」
「はい、ここに」
魔石を見るとスイカ程の大きさがある。これほど大きな魔石は始めてだ。
帰りの甲板上では、竜の話題で持ち切りだった。
エリスの知識も加えながらの推測になるが、あそこにいた子竜は大きくなるに従い、共食いをし、最後に残った竜が親竜になるのではないか。
それだと、あそこに親竜が1匹しかいなかった理由になる。
カマキリだって、産卵の跡は雄は雌に食べられてしまうので、あの竜もそういう運命なのだろう。
北の国から船に乗せられ流される子供は、あの滝に落ちてそのまま竜のエサとなっている可能性が高い。
それを逃れられるのは、それこそ奇跡に違いない。
ウーリカにどうやってここを越えて来たかを聞いたが、ウーリカは崖を伝わって来たと言っていた。
滝の両岸は高さが50mはあろうかという崖が続いている。
それをロッククライミングのようにして、伝って来たというのだ。
3日3晩、それは続き、疲れたら岩の切れ目で立ったまま寝たということだ。
水は岩を伝わる水があったので、どうにかなったが、食料はなく、崖を抜けたところで、生えていた草を食べて飢えを凌いだらしい。
だが、崖を抜けてもそこは人が入らない深い森の中であり、どんな動物、魔物が襲ってくるか分からない。
だが、それはウーリカにとってもチャンスだった。
ウーリカは火魔法が使える。うさぎなどはファヤーアローで射れば、そのまま焼き肉として食べる事ができた。
そうやって、森を縦断し、旧ハルロイド領に辿り着いたということだ。
我々はウーリカの話を聞いて、驚く者、涙を流す者、様々だ。
「ミスティ」
「お姉ちゃん」
それ以上の言葉は無かった。
そんな事があってから、船の中ではミスティは、ウーリカの後をついて歩くようになった。
ミントはそのミスティの後ろをついて歩く。3人が並んで歩く姿はなんだか微笑ましい。
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