第260話 ご多忙

「こちらがミサイル室になります。ミサイルは艦首の発射管から発射します。一度に発射できるミサイルは10体です」

 ミサイルは出来ているが、その頭脳には電子制御がないため、精度は高くない。

 そして、甲板の中央に砲台1台がある。

 大砲を改造したもので、砲筒も大きくはないが、回転するため、左右どちらにも向くことができる。

 砲筒は3本備わっているので、これは戦艦ヤマトの砲台が1つだけあるのと同じだ。

「これだと、キチンとかは運搬できないのでは?」

 俺が、疑問に思ったことを聞いてみる。

「内燃機関になったことにより、その排熱が課題になりました。排熱方法を検討しましたが、船底の方はどうしても、排熱がうまくいかないので、キチンを乗せる事は割り切って諦めました。下手をすると焼き鳥になってしまいます。

 もし乗せるなら甲板しかないでしょう」

 キチンが、焼き鳥になったら困るな。

「なので、船体後方にあった扉は開きません。強度的に見ても不利だったので、しかも、内燃機関の設置でスペースが無くなって、扉を開けようにも開けられないという事もありましたけど」

 だが、風の方向に影響されなくなったのは大きい。


 今の俺は忙しい。

 文明が発達していると同時に、いろんな構築物が完成してくる。

 今日はサン・イルミド水門の完成式に出席する。

 この水門は、サン・イルミド川にあるローレライと言われる難所を回避する水門であり、この水門が出来るまでは、サン・イルミド川の上流に遡上することは出来なかった。

 だが、この水門が出来たおかげで、川の上流に行けるようになった。

 この水門による経済効果は計り知れない。

「それでは、ご領主さまのテープカットにより、第1号船の通行を開始します。ご領主さま、お願いします」

 司会に言われる通り、俺がテープカットをする。

 テープが、カットされると同時にファンファーレが鳴り、閘門が開く。

 すると、ロープに繋がれた船が閘門の中に入ってきた。

 今度は、閘門が閉められると同時にプールの中に水が入れられ、船が上昇していく。

 そして、入って来たのと反対側の閘門が開くと船が出て行った。

 これはパナマ運河で見られる光景だ。

 テープカットを終えた俺は車に戻った。

 今の車はキチン車ではなく、エンジンで動く車に変わった。

「ジェコビッチさん、次は中央駅まで行って下さい。ヨコハマ領、ショウナン領を結ぶ鉄道の延長式典に出席して頂きます」

 秘書のミストラルが、運転手のジェコビッチに告げる。

「分かりました。中央駅の次はどちらへ向かえばよろしいでしょうか?」

 運転手のジェコビッチに聞かれたミストラルが、今日の予定を読み上げるが、傍らでそれを聞いている俺はうんざりしてきた。

「トウキョーの街で、ちょっと時間は作れないか?」

「鐘4つの頃でしたら、多少の時間がありますが……」

「では、教会に回してくれ」

「分かりました。鐘4つの時に教会ですね」

 ミストラルが、手帳にスケジュールを書き込む。

 そして、車は鐘4つの時に、教会の正面玄関に着いた。

「アーデルヘイト司教、お久しぶりです」

「ご領主さま、お久しぶりでございます。お仕事はお忙しいのではないのですか?」

「ええ、それなりにです」

 俺は30分ほど、司教のアーデルヘイトさんと他愛もない話をして、教会を後にした。

「司教さまとは何のお話だったのですか?」

 ミストラルが聞いてきた。

「今後の人生についての、他愛もない話だ」

 ミストラルは小首を傾げていたが、そのまま聞いて来る事はなかった。

 研究所からは、魔石の調査結果についての大きな報告はない。

 一つ分かった事は、魔石は魔道具に入れると規則正しく振動する。

 その振動を増幅させることにより、魔石ポンプとして使用できる。

 だが、それ以外の使い道が今のところない。

 振動を回転に変える事によって、モーターの代わりにならないかとも考えたが、装置が大きくなりすぎダメだった。

 魔石と魔物との生命の不思議による関係はまだ分からない。


「ミストラル、1か月後からのスケジュールを全てキャンセルしてくれないか?

 学院も夏休みになるので、家族で行きたいところがある。

 それと、ヤマトの出港準備をジョニー船長に伝えてくれ。船員の内燃機関対応訓練もそろそろ終わる頃だろう」

「……ええと、全てをキャンセルする訳には」

「何か、重要な事があるかな?」

「来月ですと、エルバンテ公都広場に大時計設置の式典、キバヤシ化学新工場の運用開始の式典、エルバンテ公都に建設されるキバヤシビル新築式典、ヨコハマ領、ショウナン領への鉄道開通式典、同じく神聖エリス教領への鉄道開通式典と……」

「ああ、もういい。式典への出席は全てキャンセルでいいから」

「あと、重要人物との会合の予定が入っています。

 こちらは王国からの使者として、エドバルドさまが見えられます。次に、アンドリューヌさまとユーリさまのご結婚報告の使者が来られます。

 会合として、神聖エリス教領主のサリュードさまが開通した列車でお越しになられる予定です」

「アンドリューヌとユーリは結婚したのか。うん、それは、宰相にまかせよう。エドバルドはそうだな、拉致するか。あとは、宰相にまかせよう」

「えっと、エドバルドさまは拉致ですか?」

「うん、拉致だ」

 エドバルドは、良く俺に拉致される。

「キバヤシコーポレーションの重役会議とかは、どうしましょうか?」

「それはアールさんとガルンハルトに任せよう。さてと、そうと決まれば、行くところがあるな」

「どちらへ?」

「ご隠居さまのところだ。そうそう、ミストラルも予定を開けておくように」

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