第259話 転換期

 そんな事があって1年が過ぎた。

 モン・ハン領では、官僚試験も終わって、議員選挙が公示される頃、旧キバヤシ領のツェルン市とモン・ハン公都を結ぶ鉄道が開通した。

 ツェルン市はサン・イルミド川を隔てて、対岸のエルバンテ公都とを結ぶ港街でもある。

 ツェルン市まで来れれば、船でエルバンテ公都に行くのは簡単だ。

 だが、鉄道が開通したからと言って、急激に移動時間が短縮される訳ではない。

 鉄道を使っても、モン・ハン公都までは2日は掛かる。

 それでも、徒歩に比べれば断然速い。

 列車旅はエルバンテ領、モン・ハン領、両方の領民にとって歓迎して迎えられた。

 エルバンテからは王都が近くなり、王都見物の観光客が増えたし、反対に王都からトウキョー見物の観光客も増えた。

 もちろん、走っている列車は電車になる。

 特に寝台列車は寝て行けるので人気がある。

 鉄道は、同盟国である神聖エリス教領やマハタイト領からも要望があるため、こちらへの路線も建設中だ。

 鉄道が開通したモン・ハン領では鉄道効果もあり、エルバンテ領に併合される事に反対する意見はほとんどなくなった。

 そのためか、議員選挙も終わって、第1回のモン・ハン議会で併合の賛否を決する投票を行ったところ、満場一致で賛成になった。

 俺は今、モン・ハン議会に出席し、エル=モン・ハンから領土譲渡の儀式を受けている。

 議事進行は議長になる。

「それでは、モン・ハン併合の証として、公室に伝わる領主の証を引き渡す」

 俺は、エル=モン・ハンから、剣と盾と旗を渡される。

「エルバンテ公が剣と盾と旗を受領したことにより、この地はエルバンテ領とする」

 俺たちは、議会から出て、広場が見渡せるバルコニーに出た。

 広場には領民が溢れていた。

 ここでも議長が、進行を取り仕切る。

「ただ今を持って、モン・ハン領はなくなり、エルバンテ領となる事が決定した」

「「「おおっー!!」」」

 広場から、すごい歓声が上がった。

 その後に、エルバンテへ併合となった経緯が領民へ向けて説明される。

 領民はその時に初めて、領主エル=モン・ハンの苦悩を知った。


 娘たち3人は、弟の世話を良くしている。

 やはり、女の子だからだろうか、このまま優しい子に育って欲しいと思ってしまう。ラピスもタケルの世話はなるべく、娘たちにさせている。

 おしめの交換なんかも娘たちがやる。

 将来、「あなたのおしめは、私たちが交換してあげたのよ」って言われるだろう。

 タケルはそれで、姉さんたちに何も口答えは出来ないだろう。

 娘たちが大きくなり、ビビに3人一緒に乗れなくなってきたので、ビビの散歩は交代でやっている。

 相変わらず俺は馬に乗れないし、ビビも乗せてくれないので、ビビはラピスと娘たち専用だ。

 そして、今日はヤマトの改修が終わったとの連絡が入ったので、ドックの方にやってきた。

 娘たちは来ないかと思ったが、聞いてみると意外や来ると言ってくれた。

 ヤマトの改修工事の一番の違いは、エンジンが乗った事だ。

 重油を燃料にし、ボイラーで出来た蒸気でスクリューを回す蒸気タービン式になった。

 そのため、ヤマト型と言われた大きな3本マストがなくなった。

 マストがなくなったため、甲板は広くなったが、ボイラー室や機関室、燃料タンクを設けねばならず、船内は狭くなっている。

 さらに煙突が2本、後方甲板のところから出ているので、後方の甲板も狭くなった。

 これだと、元の方が良かったんじゃないかと思ってしまうが、船員の数はかなり減ったらしい。

 そして、もう一つ特徴がある。

 船体自体は木で出来ている事に変わりはないが、その船体を鉄板で覆った。

 一見すると鉄で出来た船のように見える。

 ヤマトを軍船としても使っているので、いざ紛争になった時に木の船体では火に弱いといった弱点があったが、鉄になると火事のリスクが減る。

 しかし、反対に船の重量が増える事になる。

 重量が増えると、燃料消費率などにも影響してくる。

 これらの改修はメリットもあるがデメリットもあり、差し引き零といったところだ。

 ドックに来た娘たちは大はしゃぎだ。

「わぁー、大きい」

「すごーい、こんなの始めて」

「これで、行けるわ」

 これこれ、年若い女の子がそんなふしだらな事を言ってはいけません。

 俺のピンク脳が活性化した。

 見ると、嫁たちもちょっと顔を赤くしている。

 改修されたヤマトの船内をキバヤシ造船社長のアルフレッドと副社長のミランダが案内してくれる。

 二人は夫婦だが、小さな船会社の時からお互いに協力して船を造って来たので、二人とも責任ある仕事をして貰っている。

「最新型のヤマトの特徴は何といっても、マストがなくなり、ボイラー式になった事です。

 ですが、今ディーゼル機関の開発を行っているので、それが完成するとディーゼル機関に乗せ換える予定です」

 自動車ではディーゼルエンジンが採用されているが、それを大きくするのは、時間が掛かるようだ。

「船内は全て、電球に変えました。蒸気タービンに発電機を接続し、その発電機で出来た電気を艦内で使用しています。

 それと、昔の艦内放送は導管を使っていましたが、新しい方式では、電気式も併用しています」

 トウキョーとエルバンテ間では先ほど電話が開通した。その技術を早速取り入れた訳だ。

「水の浄化については、変更ありません。水性アメーバの浄化装置はそのまま使用します」

 水性アメーバは使い勝手がいい。あれは使うべきだろう。

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