第257話 帰還
初冬になりタイフーンが来ない時期になると、サザンランドから避難して来た人たちから帰郷したいとの要望が出て来た。
一刻も早く戻って復興したいとのことだ。
行方が分からない家族、親族の事も心配なのだろう。
今回、娘たちは学業があるので、行く事はできない。
その事を娘たちに言うと反論があったが、ラピスの一言で反論は止んだ。
うっ、父親の威厳が……。
だが、この人がまたやって来た。
「婿殿、聞いたぞ。サザンランドから避難してきている人たちを帰すようじゃな」
この老人、その情報をどこから仕入れているんだ。
「はい、ご隠居さま、避難して来ている方からそのような要望が多いので、取り敢えず第一陣を帰す事にしました。
復興用に重機とキバヤシロジテックからも人を出します」
「そうか、そうか、さすがは婿殿じゃ。それでな、今回も儂は行くからな。そこの手配も頼むぞ」
「えっと、ホーゲンやウォルフも軍隊での仕事がありますので、いろいろ調整が必要ですから、ご返事は後ほどということで…」
「心配ない、オイキミルに言ってな、ホーゲンとウォルフは共として行かせてくれる事になった」
この老人、やる事が素早い。オイキミル将軍はさぞかし迷惑だったろう。
「あ、いや、それでもですね……」
「そうそう、ゴウも一緒に来てくれるとのことじゃ」
やはり、助さん、格さんに風車の弥七が揃ったじゃないか。
「マシュードたちは置いていってもいいぞ」
八兵衛は要らないみたいだ。
「ご隠居さま、マシュードたちもお連れ下さい」
うん、マシュードたちこそ連れて行ってくれ。
「うむ、仕方ないのう」
1か月後、帰郷の第一陣と重機と作業員を乗せたヤマトを、俺たちは港まで見送りに来ていた。
今回復興の指揮を執るのは、イサンだ。
彼は、最初の頃、貧民街からトウキョーに来て働く事に反対した獣人だ。
だが、今では現場を取り仕切るにはなくてはならない人物になっている。
今回の復興事業には最適と社長のアーネストさんの推薦があった。
「イサン、この復興はキバヤシ建設としても、天下分け目の事業に成り得る。
これの出来次第で、キバヤシの技術力を天下に知らしめる事ができるのだ。
君の双肩に、キバヤシがかかっていると思っても間違いではない」
俺から、直接イサンに言う。
イサンは畏まり、
「会長のご期待に応えられるよう、奮迅してまいります」
「だが、向こうは気候も違う。くれぐも身体には気をつけてくれよ」
「まずは水が問題だと思いますので、きれいな水の確保をするようにしたいと思います。街の復興については、それから様子を見て考えます」
その言葉を聞いて、俺は驚いた。
復興には何をすればいいか、考えていたからだ。
「まず、現地を見てから対策を立てる」というのが凡人の発想だが、凡人を抜きん出ている者は最初に何をやるべきかが分かっている。
この場合、災害の後に人が入ると、病気とかが発生しやすい。そのためには、衛生的な環境が必要だが、それにはきれいな水はかかせない。
そこの要点が理解できているだけでも、イサンが行く価値はあるだろう。
それに現地に着いて、水の確保が難しい場合でも臨機応変に対応できるだろう。
「ブォー、ブォー」
角笛が2回鳴り、見送られたヤマトが桟橋から離岸して行った。
ヤマトを見送った数日後、研究所からいくつかの報告があった。
一つは石油の精製に成功したというのだ。
そして、精製された石油を使ったエンジンの開発にも成功した。
ただし、スターターが無いので、エンジンを起動するときは、手で回転させなければならない。
昔のクラシックカーを思い出してしまう。
サージュさんの会社で出来た第1号車が、俺のところに納車された。
椅子は木の椅子にクッションのような物が張り付けてある。
ハンドルも木製だ。スピードメーターはない。
そして、もう一つ出来たのはモーターだ。
モーターが出来た影響は大きい。
家電製品ももちろんながら、工業製品にも多くのモーターが使われる。
モーターが出来ると文明が一気に開花するだろう。
自動車の方はサージュさんの会社で引き続き作る事になり、会社名をキバヤシ車輛に変更した。
モーターについては、新しくキバヤシ電機を立ち上げた。
だが、モーターだけあっても仕方ない。電気を作る会社が必要である。
そこで、キバヤシ電力を立ち上げるとともに、インフラの整備も行うことになった。
インフラの整備は、トウキョーとエルバンテ公都を優先して行う。
道路を掘り起こし、そこに水道と電気、通信、まだガスは使われていないが、ガスを使う事も念頭においた暗渠を作る。
石油が精製できたおかげで、ビニールやプラスチックといったものも作れるようになったため、ケーブルも製作する。
出来たケーブルは早速、暗渠に埋め、各家庭に配電できるようにした。
キバヤシ電機は電化製品の第一弾として、洗濯機を開発し、販売を開始すると飛ぶように売れた。
それはそうだ、今まで桶で手洗いをしていたものが、石鹸と水を一緒に入れれば洗濯できるのだ。主婦、いや主夫にとっても家事の負担が減った。
洗濯機には今は石鹸を磨り潰すか、事前にお湯で溶いたものを使用している。
今後は洗濯機専用の洗剤も必要となるだろう。
そこで、キバヤシ化学を立ち上げ、洗剤、石鹸、シャンプーなどの生活に必要な化学製品を製造することにした。
しかし問題もある。電球がまだ発明されていない。なので、夜は暗い。
早急に電球を開発するよう、俺は研究所に指示を出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます