第237話 参戦依頼

 セゴネビア村を出発した俺たちは、東尋坊のような崖が続く陸地を見ながら北上すること7日間、やっと風景が変わってきた。

 崖が途切れ、今度は砂浜が続く海岸線だ。

 ただ、入り江のような場所はなく、海岸に打ち上げる波も高い。

 したがって、漁村もない。

 セゴネビア村で食料と水を仕入れたが、そろそろ次の停泊地を探さないと、心もとない事になりそうだ。

 さらに5日ほど砂浜を見ながら航海していたが、6日目の昼に大きな港のある街が見えて来た。

 とりあえず、港の外に停泊して、入港の許可を取りに行く。

 許可を取りに行っていた、航海長のレンが帰ってきた。

「許可を貰いました。3番埠頭に接岸できるそうです」

 タグボートに曳かれ3番埠頭に接岸する。

 ここはジャーネルという領土で、街の名はベルネットというらしい。

 ジャーネル領はヴェルサルジュ領の南に位置するという。

 ならば、ヴェルサルジュはここからあと少しという所だろう。

 俺たちはヤマトを降り、街に宿を取ることにした。

 船員も半分くらいは陸地に降りている。

 海の上が長かったから、陸地に降りたいのは皆同じだろう。

 それでも、船の運営に船に残る船員も居るので、感謝しなければならない。

 俺たちが宿のレストランで食事をしていると、数人の貴族と思われる者たちが入ってきた。

 その者たちは、真っ直ぐに俺たちの所に来ると、跪き、若い男が代表して発言した。

「キバヤシさまとお見受けしました。どうぞ領主邸までお越し下さい」

 俺はアリストテレスさんを見るが、アリストテレスさんは首を縦に振っている。

「分かりました、ご招待に応じましょう」

「キバヤシさまは自由な旅とお見受けし、お連れするのは誠に恐縮ではございますが、ご要望に応じて頂き、感謝いたします」

 俺たちは、使いの者たちについて、公主邸に行く。

 ひとまず、控えの間に通され、謁見を待っていたが、そう時間も掛からずに使者が呼びに来た。

 俺たちが謁見の間に行くと、領主が正面に座っている。

 俺たちは跪いた。

 すると、俺の前に人が立ったと思ったら、屈み俺の手を取った。

「キバヤシさま、どうぞお立ち下さい」

 見ると先ほど迎えに来た若い男だ。

「あっ、あなたは先程の……」

「申し遅れました。私はユーリ・ジャーネルと言いジャーネル領の領主です。先ほどは名乗らず失礼しました。

 実は火急の用があり、こちらに来て頂きました」

「はい、それでご用というのは?」

「隣のヴェルサルジュ領の事です。ヴェルサルジュ領は半年程前に発生した水害が元で、公主邸が破壊され、領主は圧死しました。

 その後、領内は乱れ、盗賊が蔓延っています。

 王国は我がジャーネル領とプロギス領にヴェルサルジュ領の平定を命じましたが、我々だけでは、武力として十分ではありません。

 そこで、キバヤシさまに、お力を貸して頂きたいと思っています」

「我々は今回、兵士はおりません。武力介入するのは無理です」

「ですが、キバヤシさまが数人で、領地を手に入れた事は知っています。そのお力は十分理解しているつもりです。どうぞ、お力添えをお願いします」

 ヴェルサルジュを混乱に陥れた負い目がある。いかがしたものだろうか。

「アリストテレスさん、エリス、ミュ、ラピス、どう思う」

 全員が負い目を感じているのか、誰もこのまま船旅を続けようと言わない。

 それに、到着地であるヴェルサルジュがどうなっているか、分からないのだ。

「分かりました。お受けしましょう」

 俺たちはヤマトを降り、ジャーネル軍と同行することになった。

 キチンたちもヤマトから降ろし、車と繋ぐ。

 船の方が速く到着できるが、ヴェルサルジュの港がどうなっているか分からないので、到着しても上陸できない可能性もある。

 このため、陸地から行く軍と、ヤマトの到着を合わせる必要がある。

 陸地から行軍すると20日ほどかかり、船だと7日ほどとのことなので、俺たちが出発してから13日後にヤマトを出港させることになった。

 ここらの連携はジョニー船長、レン航海長と調整を図る。

 ジャーネル軍に加わった俺たちを見て、領主のユーリがびっくりしている。

 俺たちの中に、鳥人であるミストラルが居たからだ。

「その方は、鳥人の方ではありませんか?」

「ええ、ミストラルといいます」

「鳥人は、魔物の森の奥深くに住んでいると聞いた事がありますが…」

 たしかに魔物の森の奥で、白い鳥人を見た事がある。

 そう言えば、黒い鳥人と白い鳥人では違うのだろうか。

 ユーリに必要以上の情報を与えるほど、親しい訳ではないので、適当に答えた方がいいだろう。

「ミストラルは、他領に囚われていたのを助け出した者です。それから、従者として従ってくれています」

「なるほど、鳥人はその飛行能力があることから、貴族や領主たちに酷使されてきた歴史があります。

 今では既にまぼろしと言っていいぐらいですので、こちらでお目に掛れて不思議な感覚です」

 なるほど、魔物の森の奥で、鳥人たちが俺たちを警戒していたのには訳があったのか。

 迫害の歴史が嫌な思いをさせていたのだろう。

 翌日、既に行軍の準備が整っていた軍と一緒に、ヴェルサルジュ領を目指して出発した。

 軍はユーリ自らが将軍として率いた。

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