第211話 ウィンドアロー
「シンヤさま、お気を付けて」
「エドバルドさんこそ」
「あ、いや、何んで、私はサージュさんと抱き合って寝ていたのか、今一良く分からないのですが、どういう事なのでしょうか?」
聞けば、抱き合っていた者が何人か居て、そのうち2組が結婚が決まったカップルが居るだとか。うん、目出度い事だ。
そんな記憶が無くなったエドバルドと別れて3日後の昼頃、俺たちは国境の関所に着いた。
馬車なら4日の夕方になるところが、キチン車だと速く到着できる。
入領手続きをしていると、役人と思われる人が聞いてきた。
「アバルド伯爵、この時間だと魔物の森を抜けるのが、夕方から夜になると思いますが、大丈夫ですか?」
アリストテレスさんが、それについて聞いてみた。
「魔物の森とは?」
「ここから、アバローの街までは魔物の森と言われているところです。強い魔物は出ませんが、小型の魔物が良く見られ、下手をすると襲ってきます。
なので、旅の方は固まって、しかも昼に移動します。
今からだと、魔物の森を通過するのは夕方から夜になります」
「情報ありがとう。こっちは大人数だし、魔法使いも居るのでは多分大丈夫です」
「分かりました、それではご無事に」
入領手続きを終え、プロキスの国に入ると王国の風景とはあきらかに違う風景が目に飛び込んで来た。木が多いのだ。
入領の時に受けた説明では、森の中に入ると野生動物や魔物がいるので、決して入るなという事、ただし、山賊などはほとんどいないのでその点は心配ないとの事だ。
山賊だって、森の中にいれば、魔物と対峙しなきゃならないから、森に住みたくはないだろう。
俺たちは木の中の道を行くが、道は整備され、木も揃えられているので、キチン車を走らせると気持ちがいい。
たしかに気持ちはいいのだが、民家はない。すれ違う人影もいない。
それに通行しているのは俺たちの隊列だけだ。
関所の管理事務所で聞いた通り、誰も歩いていない。
「アリストテレスさん、通行人が俺たちの隊列しかいないし、やはり、魔物が出るのだろうか?」
アリストテレスさんが「さあ?」と言いつつ、地図を広げた。
「アバローの街まではまだ距離がありそうですが、キチンでしたら、夜遅くならないうちに到着できるでしょう」
しかし、この流れだと絶対こうなるよなーと思った俺だが、やっぱり、なった。
道の真ん中にキラーラットが3匹出て、こっちを見ている。
その前に躍り出たのは、ホーゲン、ポール、ウォルフ、マリンの4人だ。
まず、ポールが戦斧を振りかざし、1匹目のキラーラットの首を落とした。
次にマリンが、ウォーターカッターで同じように首を落とした。
どっちも瞬殺だ。
しかし、それを見たキラーラットは首を引っ込めてしまう。
キラーラットの弱点は首なのだが、首を引っ込めて、身体全体を丸めると弱点がなくなる。
体は針に覆われているので、矢も針に遮られて届かないし、皮膚も固いので、剣も通さない。火系の魔法も効かない。
ポールが戦斧で斬り掛かるが、針のところから先に行かない。
マリンのウォーターカッターも同じだ。
針と皮膚で攻撃を防いでいる。
ウォルフが弓に矢を番えるが、矢はキラーラットには効果がないハズだ。
「ウィンドアロー」
ウォルフが唱えると、矢の周囲が白くなり、渦を巻き始めた。
ウォルフがキラーラットに矢を放つとキラーラットの針数本が抜けるが、致命傷には至っていない。
「ホーゲン兄さん」
「おう」
「ウィンドアロー」
「ファイヤーアロー」
2人が同時に魔法の矢を放つと2つの矢は一緒になり、火の錐になって飛んでいく。
キラーラットに当たるとキラーラットを突き抜け、反対側まで抜けて消滅した。
キラーラットに近づいてみると背中から腹に穴が開いている。
「4人とも良くやった」
ポールは既に3匹のキラーラットの魔石を回収している。
「ホーゲンとウォルフはいつの間にあんなすごい技を開発したんだ?」
ウォルフが答えた。
「僕が風の矢を造れないかと、ホーゲン兄さんの指導を受けていたのですが、それができた時にファイヤーアローと合体させたら、すごいだろうなと思って練習したのです」
この4人が凄い事は分かった。
そうなるとサリーちゃんとカリーちゃんはどうなんだろうか。
「サリーとカリーも魔法を使えるのか?」
「あの二人は使えませんね。うさぎ人は魔法使いには向かないようです」
そうなのか。ちょっと安心する。
「でも、サりー姉さんには逆らえませんけど」
残りの3人も頷いている。
「マリンもサリーには逆らえないのか?」
「当たり前です。女の敵は女なんです」
どこかで聞いた事があるような言葉だ。
どこだったか、今一思いだせない。
キラーラットを倒した俺たちはしばらくして、アバローの街に入った。
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