第205話 社葬

 俺は、亡くなったクアイテッドさんを背負った。

「会長、どうするんですか?」

「クアイテッドさんのおかげでここに居る全員が助かったんだ。彼の命の重さを感じて送りたい。エリス転移してくれ」

 エリスが魔法陣を広げると、セルゲイさんとミュ、ラピスが乗った。

 俺たちはジョニー船長から聞いた、クアイテッドさんの自宅の前に転移して来た。

 まだ、朝だったので、通る人たちをびっくりさせたが、仕方あるまい。

 クアイテッドさんの自宅の扉をノックする。

「はーい」

 奥さんだろうか?中から声がした。

 扉が中から開き、クアイテッドさんと同じ熊人の女性が姿を現した。

「はい、あの…、どちらさまでしょうか?」

 奥さんは俺の背に背負われている夫を見つけて、

「あなた、何をしているの?怪我でもしているの?」

 クアイテッドさんは答えない。

「……、奥さん、すいません。旦那さんは亡くなりました。お詫びの言葉も見つかりません」

「えっ……、と、とにかく中へ」

 俺とセルゲイさんは中に入る。それに続いて、嫁たちも入ってきた。

「ほ、ほんとに主人は亡くなったのですか?」

「本当に申し訳ありません」

 俺たちは深々と頭を下げた。

 クアイテッドさんの遺体を指示されたベッドに寝かす。

 部屋の奥から、お母さんと娘と思われる人も来た。

 ベッドに寝たクアイテッドさんの遺体を娘さんが揺すって、

「お父ちゃん、お父ちゃん」

 と呼んでいるが、返事はない。

「クアイテッド」

 お母さんも呼ぶが、やはり返事はない。

「申し訳ありません」

 俺は地面に手をついて頭を下げた。

「手を上げて下さい。まず、お名前をお聞かせ下さい」

「私は、シンヤ・キバヤシです。キバヤシコーポレーション会長です」

「わたしは セルゲイ・ネルシュ、キバヤシロジテックの社長です」

「ええっ……、会長が夫を背負って来てくれたのですか?」

「ええ、彼は我々全員の命を救いました。この恩に報いるために背負わせて頂きました」

 俺は、彼の功績を話した。

「夫は皆さんの為に、お役に立ったという事なのでしょうか?」

「もちろんです。そのおかげで全員が助かったのです」

「あなた、あなたは立派です。家族の誇りです」

 そうクアイテッドさんに話しかけた奥さんは、彼の遺体に縋って泣いた。

 さんざん泣いてから

「お見苦しいところをお見せしました」

「彼の葬儀は社葬として執り行わせて頂きたいと思います。それと今後の生活につきましては、社の方で責任を持って対応させて頂きます。失礼ですが、奥さんは働かれていますか?」

「私は織物工場の方で…、義母も同じ工場で働いています。娘は保育院に行っています」

「分かりました。工場長のエイさんと、学院長のアロンカッチリアさんには私の方から連絡を入れておきます。エリス、申し訳ないが伝言を頼めるか?あと、ガルンハルトさんを連れて来てくれ」

「分かったわ」

 エリスが転移魔法陣を広げて転移していく。

 エリスが戻ってくるまでの間、クアイテッドさんを殺した鳥人とその仲間は捕らえてある事、指示を出した人物は、既にこの世にいない事を説明した。

「それで、その鳥人の処置についてですが、殺人は死刑にあたる重罪です。家族の方は死刑を希望されますか?」

 義母と奥さんは娘も入れて話をしていたが、

「私たちにとっては憎い犯人です。死刑にして頂くのが一番と思いますが、会長が生かしておいたという事は何かしらお考えがあるという事でしょう?

 私たちは、会長のお考えに従います」

 エリスが転移してきた。

 横にはガルンハルトさんが居る。

「会長、話はエリスさまから聞きました。社葬の手配、ご遺族の方への対応は私の方で執り行います」

「ガルンハルトさん、すまない。奥さん、そういう訳で今後、このガルンハルトが対応しますので、よろしくお願いします」

「え、ええ……、分かりました」

 しばらくすると家の前に馬車が止まる音がした。

 中から、数人の男女が出てきて、ガルンハルトさんの指示によって動いている。

 事務的な印象を受けるが、ある程度事務的にやっていかないと、仕事が進まないのも理解する。

 その間、ラピスがクアイテッドさんの家族の心のケアに当たっている。

 ラピスは心が傷ついた人のケアに向いている。

 ラピス自身はそう思っていないようだが、彼女に悩みを聞いて貰ったりすると、それが何で悩んでいたのかも忘れてくる。

 ウーリカが姉と分かって、戸惑っていたミスティもラピスに相談に乗って貰い、晴々とした顔をしていた。

 トウキョーの本社近くの広場で社葬を翌日に行う事に決め、クアイテッドさんの自宅を出た。

 ヤマトの乗組員も出席したい人もいるだろうが、遺体をそう何日も置いておけないので、仕方ないだろう。

 翌日行われた社葬にはキバヤシコーポレーション各社の幹部、キバヤシロジテック社員が出席し、盛大なものとなったが、遺族の悲しみは消える事がない。

 社葬が行われた数日後、ヤマトが入港してきた。ヤマトの乗組員たちは下船後に全員で、クアイテッドさんの墓参りに行っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る