第167話 どこも人手不足
同じようにして、もう1本大木を運んできた。
この2本が柱になるらしい。
出来る水車はかなりの大きさになるだろう。
風車の方は、水車の枝や大木を通すために切り倒した木を使うことにしたため、特に風車用に用意したものと言えば、布と竹だけだった。
竹は羽根のところに使う。木でも使えるが、竹の方が風速によってしなるため、折れにくいという利点がある。
そして、風車のもう一つの問題。それは風向きだ。
海風のように一定の方向から風が吹くなら問題ないのだが、トウキョーは内陸であるため、季節により風向きが違う。季節ならまだましな方で、朝晩でも違う。
風車は水車より小さいとは言え、風向きが変わる都度、方向を変えるのは至難の業だ。
俺が風車の向きをどう変えるかという事に悩んでいたら、これも以外な所から解決案が示された。
それは風使いのウォルフだ。
ウォルフが風の魔法を使っている所を見て、つい口から風車の風向きの事を言ったところ、
「羽根を3方向に向ければ、常時どれかは風を受けますよね」
と答えた。
なるほど、風車小屋は風の力を受け止めるため、頑丈に作らないといけないが、羽根はそこまででなくてもいい。
あとはその構造だけだ。
そこについては、研究者とアーネストさんに任せる事にした。
水車と風車の件が一段落したので、俺はエルバンテ領内のヨコハマ地区とショウナン地区に久しぶりに来た。
そろそろ夏になるので、今年の作付けの様子を見に来たのだ。
もちろん、農学者のアリストテレスさんも一緒だ。
「ウラジミールさん、ご無沙汰しています」
「お館さま、いろいろ噂は聞いております。サザンランドの方へも行かれたとか。何か物珍しいものでもありましたか?」
「珍しいものはありましたが、こちらまで運んで来るのが難しいですね。
今度、取り引きを行う予定ですので、その際に作物でも仕入れましょう」
「ええ、よろしくお願いいたします。ところで、ご相談がありますが、よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
ウラジミールさんが言うには、獣人が奴隷から解放されたため、職業を自由に選べるようになった。
そうすると、トウキョーにある工場やミュ・キバヤシの店舗で働きたい者が居るらしく、農作業の人手が足りなくなるというものだった。
誰も炎天下の下で、草取りなどの重労働を行いたくない。
そんなところから、工場勤務や店舗勤務が楽そうに見えるのだろう。
そんな話をウラジミールさんとしたら、もう一つ原因があった。
それはトウキョーや公都が華やかで、しかも学院の女生徒が居るからというものだ。
たしかに、ここよりは華やかだが、おいそれと女生徒と知り合える訳はなかろうに、何を考えているんだ。
恐らく、農作業を離れたいと言っているのは若い連中じゃないのか?
いや、俺も若いし、向うの世界では、秋葉原を拠点とするアイドルグループに夢中になっていましたとも。
ええ、否定はしません、しませんが、公都に行けばどうにかなると思うのは短絡的な考え方だ。
しかし、そうは思っても、本人には自由にする権利がある。
将来的に農作業に携わる人が減ると俺の領土は税収も減る事になってしまう。
ウラジミールさんからヨコハマ地区の現状を聞いて頭を抱えつつ、ショウナン地区に向かった。
出迎えてくれたのは、キロルドさんだ。
「キロルドさん、ヨコハマ地区の方では、労働者不足が問題になりつつありますが、こちらではどうでしょうか?」
「ヨコハマ地区でもそうですか。
実は、このショウナン地区でも同じ問題があります。
若い連中が、トウキョーや公都に出たがっています」
「公都に呼んで、祭りを体験させたのが裏目に出ましたか?」
「いや、いつかは分かるでしょうから、祭りを体験した事だけではないでしょう。
ただ、あのような事が毎日、行われていると勘違いしているのではないかと思います」
なるほど、誤解しているところもあるのかもしれない。
しかし、困った事になった。
このままだと、若手の農業従事者がいなくなってしまう。
それは俺が居た現代でも同様の問題があった。
農業従事者がいなくなり、畑や田んぼが手入れされずに草が生え放題になっている所が、特に田舎になるほど目立った。
そのような所は太陽光発電のパネルが敷き詰められて新しい活用方法だと言っていたが、本当にそうなのだろうか。
単に政府や業者に踊らされている感が拭えない。
「労働者の減少を食い止めるのはなかなか難しい問題ですが、一時凌ぎとして、作業の効率化を目指しましょう」
「アリストテレスさん、どういう事でしょうか?」
キロルドさんも意味が分からないようだ。
「農業に使う道具を作るのです。そして、その作業に馬や牛を使います」
なるほど、昔の日本でも農耕馬とかあったし、現代でも東南アジアでは牛で水田を耕しているところもある。農作業の機械化を図る訳だ。
しかし、それでも、農作業に定着してくれるかどうか。
政策の変更も含めて考えなくてはいけない。
「アリストテレスさん、そのように発言すると言う事はある程度、道具については目途がついているんですね?」
「はい、作るとなると費用がかかりますので、ロイスリッチ伯の同意は得られませんでしたが、お館さまでしたら……」
うん、同意するよ。うちの領内で成功すれば、他の領地へ販売することもできるから、利益が見込まれるだろうしね。
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