第162話 母

 自宅に戻った俺たちは、早速アヤカとホノカに会いに行ったが、アヤカとホノカは喋ってくれない。

 エリスとラピスの落胆はいか程だったろう。

 では、アスカはそれから喋るようになったかと言うと、それから一切喋らない。

 ミュもいろいろやってはいるが、機嫌が良くても笑うだけで、言葉は発してくれなかったので、ミュもまた落胆してしまった。

 カイモノブクロに回収したサボテンは寄宿舎の農場で育ててみる事にした。

 農学者であるアリストテレスさんにも意見を聞いたが、アリストテレスさんも初めての植物なので育て方は分からないと言われてしまった。

 仕方無いので、アロンカッチリアさんに土魔法で穴を掘って貰い、そこに植えてみたが、今の所はどうにか大丈夫のようだ。

 しかし、1本だけでは需要は満たせない。かと言って、サボテンの成長は遅い。

 あと数回は、サボテンの移送をしなければならないだろう。

 その時に娘たちも連れて行けば、ミュのお母さんも喜ぶかもしれない。

 そう言えば、ミュのお母さんの名前聞いてなかったっけ。

「ミュのお母さんの名前は何と言うんだ?」

「ミュです」

 こっちもエリスと同じように、クローンて言うんじゃないだろうな。

「同じ名前なのか?」

「正確にはミュ・マーガレット・サインです」

 ミドルネームが違うのか。だとしたら、そっちが名前になるんじゃないのか。

 サボテンは1か月ぐらい様子を見たが、特に枯れる様子もなかった。

 なので、サボテンの採取も兼ねて、ミュのお母さんのところに転移することとした。

 だが、もしその部屋に現地人が居て、鉢合わせになると困るので、部落の外まで一旦転移してから、光学迷彩をかけて会いに行く。

 今度は最初から娘たちも一緒だ。

 転移して部落に入り、前に訪れた部屋の中に行ってみたが、そこにお母さんの姿はなく、代わりに魔石があった。

 その魔石の回りには、現地人たちが囲んで悲しんでいる。

 ミュが俺たちの袖を引いたので、部落の外に出て、光学迷彩を解く。

「ご主人さま、お母さまは亡くなりました。あそこにあった石がお母さまです」

 エリスがそれに続けて言う。

「あの石にはもう魔力がなかったわ。今では、ただの石だわ」

「ミュ、どうする?石だけ持って来ようか?」

「いえ、止めておきましょう。現地の人たちに慕われていたのです。ここに置いておきます」

 俺たちはサボテンだけ回収して、寄宿舎に転移した。

 その夜、自宅に戻った途端にミュが泣き出した。

 今まで、我慢してきたのだろうか、エリスとラピスが慰めるが、なかなか泣き止まない。

 そうしていると、アスカが、

「ママ、ママ」

 と、話しかけた。

「そうね、ママは泣いちゃだめよね。アスカに教えられたわね」

 ミュはアスカを抱きしめた。

 エリスとラピスはそれを見てウルウルしている。そしてお互いの娘をしっかりと抱きしめた。

「ママ」

「ママ」

 アヤカとホノカが同時に喋った。

 エリスとラピスは、

「今、ママと言ったわ」

「私にママって」

 二人とも興奮気味に話している。

 エリスとラピスは嬉し涙を流した。


 あれから数日、サボテンのところに転移して、10本ほどを回収し、寄宿舎の農場に植えてある。

 こちらの方が水があるからだろうか、サボテンもなにか生き生きしているようだ。

 サボテンの棘を数本採取して、ホックを製作する機械で作ってみたが、問題なく作る事が出来た。

 しかし、これに目をつけたのは意外にもポールだった。

「シンヤ兄さま、この棘を貰ってもいいですか?」

「ああ、構わないが、何に使うんだ?」

「へへへ、秘密です」

 そんな事を言っていたと思ったが、それは直ぐに判った。

 ミスティとミントが、吹き矢を持って来たのだ。

「ミスティそれはどうした?」

「ポールが作ってくれました」

 試し撃ちをしてみたが、6mほど、こちらでは20フになるが、この距離なら問題なく使えた。

 ただ、女性の肺活量だと、それ以上はなかなか難しいようで、30フ離れると命中率が、かなり下がる。

 しかし、ミスティとミントは気に入ったようで、腰に針と吹き矢を入れた筒を下げている。

「お前たち、まだ学生だろう。あんまり危ない事はするな。特に生徒に向けたらだめだ」

「もう、分かってるって、私たち将来は、軍隊に行くつもりだから」

「エルバンテの軍隊は、貴族じゃないと出世も難しいぞ。それに獣人は入れない」

「私たちは、エルバンテの軍隊に入りたい訳じゃないから」

「そう、私たちはキバヤシ軍に入るのよ」

「いや、キバヤシ軍ってないから」

「でも、兄さまが領主になったら、そういうのを創設しちゃうんでしょ?」

「……」

 それは頭の隅にはあったが、まだ、具体的な構想はない。

 やるとしたら、貴族が猛反対するだろう。下手をすると領土が2つに割れ兼ねない。

「私たちだけじゃない。ホーゲン、ポール、ウォルフもそう思っているし」

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