第155話 会長のお仕事
「彼は今、サン・イルミド川を隔てたキバヤシ領で新しい統治方法を確立するために、頑張ってくれていますが、そこが終われば社長をお願いする予定です。
それまでは、私が社長を兼ねます」
全員が黙って聞いている。
「私はこのトウキョーを個人が納めるのではなく、会社が納める領地としたいと考えています。
もちろん、会社はエルバンテ領の一部なので、最終的にはエルバンテの枠組みにはなりますが、貴族が納める領地とは違い、住民主体の運営方法があると考えています」
「会長のおっしゃられる、その方法が良いのか悪いのか現段階では判断できません。
もちろん、反対する者も居るでしょうが、一つの試みという事は理解できます」
アールさんには理解して貰えたようだ。
他の人も黙って頷いている。
「私の我が儘につき合わせて、まことに申し訳ない」
「まっ、今更ってやつじゃねぇですか。ガハハ」
セルゲイさんも同意してくれたようだ。
今後の方針を決めたところで、会議はお開きとなった。
「ラピス、父上は賛同してくれるだろうか?」
「次期領主は旦那さまですから、お好きなようにやればいいのです。お父さまもそう言います。
娘ですから、分かります」
「でも、シンヤさまって、何かしらやらないと気が済まないのね。そう、焦って変えなくてもって思うけど」
「そうです、ご主人さま、たまには自宅で温泉に入りながら、のんびりと過ごすのも良いと思います」
「そうだな。明日はどこにも行かずに自宅で過ごすか」
その夜、久々に4人で、シタ。
そんな事があった2か月後シュバンカが、女の子を産んだ。
出産には、エリス、ミュ、ラピス、それにエミリーが付き添った。
俺とセルゲイさんは隣の部屋で待機していたが、産声を聞いたとたん、セルゲイさんが、「ガハハ、ガハハ」と笑いだし、隣の部屋へ駈け込んで行った。
駈け込まれた方は一体何事かと思ったのだろう、「キャー」とか「バカ」とか声がする。
俺も慌てて、隣の部屋に言ってみると、セルゲイさんが立ったまま男泣きしている。
シュバンカは子供を抱いて、初乳を飲ませていた。
「シンヤさま、ちょっと待ってよ。他人の胸は見てはだめよ」
子供が生まれたので、シュバンカは産休を取ることになり、その間の財務大臣はエミリーが務める。
エミリーは意外と何でも器用にこなす。そんな事を思って、エミリーを見ると、ポッと顔を赤くしてしまった。
「旦那さま、その仕草が誤解を生むのです」
ラピスに思いっきり、脇腹を抓られる。
お乳を吸い終わった子供の顔を見てみるが、セルゲイさんにもシュバンカにも似ていない。
その事を嫁たちに言うと、
「当たり前じゃない。まだ顔なんてこれからよ」
なんて、言われてしまった。
そんな事があって更に1か月後、俺は運河の通水式に来た。
この通水式にはステージが作ってあり、セレモニーとして学院の『サクラシスターズ』が、慰問も兼ねて盛り上げてくれている。
労働者たちも憧れの学院生が来てくれたので、すごいテンションだ。
セレモニーなのにアンコールを2曲やっている。
ほとんどコンサートと変わらない。
そんな後に出て行くのは気が引けるが、あくまで通水式なので俺が出ていかないと仕方ない。
ステージに出て行き、アーネストさんの司会で式が進む。
「会長からの通水の発声と同時に開門致します。それでは会長どうぞ」
俺がステージの正面に立つ。
「通水」
その言葉と同時に、全部の水門が開けられて行く。
同時に、川から運河の方に水が、凄い勢いで流れてきた。
運河に流れ込んできた水はトウキョーの街の方へ下っていく。
これで、トウキョーの水にも余裕ができるだろう。
もちろん、運河は船の航行も可能で、輸送にも使えるようにしてある。
そして、我が家の娘たちも1歳になった。
言葉はまだまだだが、よちよち歩く姿は可愛い。そうなると目を離すとどこに行くか分からないので、一瞬足りとも目が離せない。
父親の俺からすれば、ひやひや物だが、嫁たちはいたって楽観的で、
「いざという時だけ、手を出せばいいのよ」
なんて、言っている。
そんな事言っても、三つ子なので、目を離すと3方向に言ってしまい、いくらよちよち歩きでも父親一人では全員を回収するのは難しいし、最悪泣く。
子供に泣かれると、いかんともし難い。
嫁たちが、「何してるの、まったく」と言うように、ジト目で見て来るのも輪をかけて辛いものがある。
嫁たちが出かける前の化粧をしている間に、キチン車の中で御者のジェコビッチさんにそんな愚痴を聞いて貰うと、
「やり手のお館さまも、子供には勝てませんか、ははは」
「ジェコビッチさん、一度に3人も居るとニワトリを追いかけているようなもんだぞ。もう、あっちこっち追いかけて一人を回収する間に、もう一人がどっかへ行くし」
「誰がニワトリですって?」
エリスが後ろに居た。
「子供たちがあっちこっちに行って、回収が大変だという話だよ」
「娘なんてそんなものよ。父親からは離れて行くの。好きな男が出来たら見向きもされないわ」
「ガーン」
うちの娘は誰にもやらん。
ラピスを見ると、
「私はそんな事はありませんよ。ちゃんと、お父さまの傍にも居ますし。
そうだ、今日は久々にお父さまに手料理を作ってあげようかな。
旦那さま、いいかしら?」
「今日は、公爵邸で夕食にするか」
最近、俺もエルバンテ公爵の気持ちが分かるようになってきた気がする。
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