第126話 国王陛下

 旅塵がついたままだと失礼にあたるので、風呂に入ってから女性たちはミュ・キバヤシのドレスに着替える。

 男性も正装になるが、ミュ・キバヤシの服は女性服ばかりなので、男性用の正装服がない。

 今後、販売も考える必要があるかもしれないなどと、商人らしく思ってしまう。

 準備が出来て、表に出てみると王家の家紋が入った馬車がずらりと並んでいる。

 エドバルドたち王都守備隊の人たちも着替えたらしく、こちらも正装のようだ。

「シンヤさま、どうぞこちらへ」

 エドバルドが乗車を指示してくるが、俺たちは乗りなれたキチン車の方がいい。

「えっと、自分たちのキチン車で行きたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「えっ、えっと、はい、分かりました。で、では、そのように」

 エドバルドが部下に指示すると、部下が走って行く。

 キチン車もジェコビッチさんが清掃してくれたのか、綺麗になっているが、それでも王家の馬車に比べると見劣りする。

 エルハンドラや侍女たちには王家の馬車に乗って貰ったので、どう見てもそちらの方が主賓に見える。

 今回、盗人姉妹は情報収集を王都で行って貰うため、王家の晩餐会に出席しない。

 盗人姉妹以外は全員が出席する。

 騎馬に乗ったエドバルドを先頭に、王家の家紋を付けた豪華な馬車が隊列を組んで進んで行く。

 その隊列の一番後ろを俺たちのキチン車が付いていく姿は、なにか罪人のようでもあるが、まさか、その中に来賓が乗っているなどと夢にも思わないだろう。

 この隊列を襲撃するやつらもなく、俺たちは無事お城に着いた。

 馬車は第一門を潜り、中へ入っていく。敵からの攻撃を容易にさせないためだろうか、迷路のようになっている道を更に進み、第二門も通過した。

 そして、お城の玄関と思わしきところに着いたが、さすがは王都のお城、玄関だけでもトウキョーの自宅が、そのまま入るんじゃないかと思える大きさだ。

 そして、その玄関のところから奥まで、貴族、家臣と思われる人々が跪いて迎えている。

 人々が並んだ中心を王冠を頭に乗せた、エルバンテ公に似た人物が歩いて来る。

 この方が、国王陛下だろう。

 国王陛下は、俺の前に来ると跪き、

「ようこそいらっしゃいました、シンヤ殿」

 と仰った。

「陛下、そのような、おもてなしは不要です。さあ、立ち上がってください」

 俺が手を取り立ち上がらせる。

 俺が中に入ろうとすると、ミュが困った顔をしている。

「ミュ、どうした?」

「いえ、聖結界が……」

「あっ、そうね、リムービング」

 聖結界が無くなった。

 これを見て、慌てたのが、お城付きの大司教兼魔法使いたちだ。

「おい、聖結界が無くなった」

「どうした、誰が破壊した」

 復旧させようと必死だが、聖結界なんて人間にどうこうできるものではない。

 国王陛下は気にも掛けずに、

「では、参りましょう」

 とか言ってる。

 俺たちは、国王陛下に続いて王宮に入っていった。


 謁見の間に到着したが、国王陛下が、

「あちらの席にお掛け下さい」

 と、示したところは高座である。

「いえ、私は一平民ですので、それは誠に恐れ多い事です。陛下が、お掛け下さい」

「それでは、こうしましょう」

 家臣に指示したのは、テーブルを持ってこさせる事だった。

 そのテーブルの両方に俺たちと国王陛下の家族が対象に座る。

「では、改めて、ようこそいらっしゃいました、シンヤ殿、そして奥方殿」

「こちらこそ、ラピスとの結婚と出産のご報告が遅くなり、申し訳ありません」

 それから、両家の紹介が始まる。

「ジェームスは元気かの?」

 ジェームスというのはエルバンテ公の事だ。エルバンテ公は、日本式に言うなら、婿に行った事になる。

「はい、恙なくやっておられます」

「あいつの事だ、孫が生まれたと聞いたら、狂喜乱舞しておっただろう。目に浮かぶわい」

「私の国の諺に『目に入れても痛くない』というのがありますが、正にそのような感じです」

「弟ともかなり、会うていないからな、息災にやっておればいいがのう」

「では、連れてまいりましょうか?」

 そう言ったのはエリスだ。

「エリスさま、連れて来れるのですか?」

「ついでだから、子供たちも連れて来ましょう」

「おおっ、できる事ならお願いしたい」

 エリスが魔法陣を発生させると、ラピスとエリスが転移して行った。

 それを見て驚いたのは、謁見の間に居る人々だ。

 転移魔法は最早、人間が使える魔法ではない。神の領域だ。

 今、ここに居る全員が神を目の前にしている事を感じ取った。

 国王陛下たちとは、しばらく歓談していたが、再び魔法陣が発生すると、子供を抱いたエリス、ラピス、エミリー、それにエルバンテ公が姿を現した。

「おお、おお」

 国王陛下は声にもならない。

 俺も自分の子には久しぶりに会う。

「兄上、お久しぶりでございます」

「ジェームス、息災であったか?」

 二人、涙を流して喜び会っている。

「それで、この子たちが、お主の孫か。この目元が、お爺さんに似ておるのう」

 そう、言われたら、エルバンテ公も嬉しいのか、

「兄上、そんな嬉しい事を言って下さるな」

 などと言ってる。

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