第122話 井戸端会議
「アリストテレスさん、やつらどこへ逃げたと思いますか?」
「我々と同じ方向に逃げていきましたから、この近くか、もしかしたらこの宿場町に居るかもしれません」
「そういう事なら、私たちが情報を仕入れて来るわ」
名乗りを上げたのは、ミドゥーシャとルルミだ。
「大丈夫か?」
「任せて、どこかのアホと一緒にされちゃ堪らないから」
「ちょっと、待て。どこかのアホって誰の事だ」
「そんなの、言わなくても分かるでしょう」
「お前たち、エリスさまに対して失礼だろう」
まさに難波花月のように、全員がコケた。
エリスもただのボケだと思ったのか、苦笑いをしているが、エルハンドラ自身は大いに真面目な顔をしている。
うん、俺も否定はしないよ。しないけど、エリスはお前より、よっぽどマシだと思うな。
そんな事もあったが、ミドゥーシャとルルミの盗人姉妹が街へ情報収集に出かけて行く。
盗人姉妹を見送った俺たちは風呂に入り、食事に出かけ、帰ってきたら嫁たちは子供へお乳を飲ませに行くという、普段の生活を過ごした。
俺、アリストテレスさん、セルゲイさん、それにエミールの4人が集まって、ツェンベリンとモン・ハン公について話をする。
「まず、エルハンドラだが、何故ローランド伯爵が俺たちにエルハンドラを預けたか、エミール分かるか?」
「それは『罰と見習いのため』ではないのですか?」
「エミール、それは違います」
アリストテレスさんが、俺に代わって答える。
「エルハンドラは人質なんです。モン・ハン領を代表してのね。最も、エルハンドラ自身も人質であるということを理解しているかどうかは分かりませんが」
「人質ですか?」
「そう、モン・ハン公の奥方さまは若いので、その子供は当然幼い。
ローランド伯爵の息子、エルハンドラさんなら人質として預けても大丈夫です」
「なので、伯爵は送り出す時に泣いていたのですね」
「そうです。もし、何かあれば、息子は戻ってこない。
もしかしたら、今生の別れになるかもしれませんから。
しかし、これによって、モン・ハン公はシンヤさまに従うという、宣言をしたと考えていいでしょう」
「なるほど、という事はモン・ハン公は友好国ということで良いですね」
「強い国が出てくれば、それに従うは戦国の世の常。我々が強い間は友好国でしょう」
「では、元ツェンベリンの方は?
ボルミ・ハミルトという方は、信用できるのでしょうか?」
「彼は臨時の領主という座を捨てて、シンヤさまの代官として領地を治める事を選択しました。
エミールはこれをどう思いますか?」
「代官でも領主でもやる事は変わらないのに、代官で良いと言ったのは欲がないなと、自領も問題なく治めていたので、領主でも良かったのではないかと思います」
「いや、あの申し出から考えて彼は頭がいい。
シンヤさまの下に付く事で、疑心暗鬼を持たせないようにしたこと、今までの領民をシンヤさまの領民とすることで、無駄な戦を避けること、他国と何かあった時の責任逃れというところでしょうか」
「もし、裏切るとしたら、どちらが先でしょうか?」
「それは何とも言えないですね。いろいろな外乱もあるだろうし」
「アリストテレスさんでも分からないですか?」
「私だって万能じゃないですからね」
「それと、今日襲ってきたシルゲロック・ハルロイドだが、どう考える?」
俺が全員に聞く。
「ハルロイド領自体は無くなった訳じゃないのに、襲ってきたということは、領地を追われたか、復讐のために自分の意志で出てきたか、というところでしょうか?」
エミールの言う通りだろう。
「ハルロイド領は今、戦争後の混乱があって、それを治める必要があるはず。
それなのにここに居るということは、自分の意志で出てきたと言うより、追い出されたと考える方が普通です」
アリストテレスさんが補足する。
「お館さまに恨みを抱くのは、父親を殺されたこと、領地を追い出されたことの2つの原因があるということですか?」
「付け加えるなら、当然家族も離散、あるいは自殺しているかもしれませんので、その恨みもあるでしょう。
最も、父親は戦争で死んだのであり、それはある程度理解しているでしょうから、家族離散の原因の方が大きいかもしれません」
それまで、黙って聞いてきたセルゲイさんが発言してきた。
「すると、シルゲロック・ハルロイドの部下たちは、同じようにハルロイド領を追われた貴族連中の生き残りという訳か」
「それもあるでしょうし、隠し財産で雇った者たちかもしれません」
「ハルロイド以外にも、まだ、行方が判らないのが居たんだよな」
「ええ、シミラー将軍の息子、アンジェリカの弟です。名前はたしか、コルネリス」
「そいつも交じってるって事はないか?」
「否定はできないでしょう。
戦争終結から3か月、エルバンテからハルロイドに行こうと思えば十分な時間です」
「コルネリスの素性は分かっているのかい?」
エミールが調べた事を紹介する。
「軍隊に入ったのは3年前、18歳の時です。それまでは、自宅での学習と武術の鍛錬をしていたように思います」
アリストテレスさんが補足する。
「アンジェリカからも、そのように聞いています。それで、ほぼ間違いないでしょう」
エミールが続ける。
「軍隊では、騎士での採用となっています」
セルゲイさんが「ヒュー」と口笛を鳴らす。
一般人で到達できる最高は騎士補なのだ。それが騎士採用ということすらあり得ない。
「伯爵家であり、父親が将軍ですからね。
しかし、軍隊の中では特に目立ったという事はありません。学術が優れている訳でもなし、武術が優れている訳でもありません」
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