第101話 管理人

 ハンスの館だったという家に入り、村長から話を聞く。

「シンヤさま、いえ、お館さまはロイスリッチ領を移譲されて、獣人の解放、村民の扱いが向上したと聞いています。本当でしょうか?」

 俺に代わり、アリストテレスさんが答える。

「本当です。獣人や村民でここを出たいという人は、出ていって構いません。残りたい人には、ここで働いて貰う事が可能です」

「分かりました。それでは後から、領内の視察と税などの話をしたいと思います」

 領内は、ロイスリッチ伯とさほど変わりはなかったが、奴隷の住居はひどい物だった。

 アリストテレスさんに言って、奴隷の住居をまず改善することにする。

 それと元ロイスリッチ領から、この元シミラー領を抜けると、トウキョーの街に近道で行けるので、直通の道を造る事にする。

 これで物流の流れが良くなるハズだ。

 元ロイスリッチ伯の先には砂漠もあるので、鉱物資源の輸送にも使えるハズだ。

 奴隷たちの住居は土魔法で、1か月ぐらいでどうにかなるだろう。

 道路の方は、1年以上掛かるだろうか。

 とりあえず、元シミラー領の方は正式な管理人が来るまで、村長に代理の管理人をやって貰うことにした。

 こちらは早急に、正式な管理人を送らねばならない。


 公都に帰った俺は、義父のエルバンテ公と話をする。

「父上、元シミラー領ですが、元ロイスリッチ領の管理人だった、キロイドさんを向かわせようと思いますが、そうなると、元ロイスリッチ領の管理人がいなくなります。どなたか適任者がいないでしょうか?」

「婿殿、ウラジミールという男がいるが、どうじゃろう」

 早速、ウラジミールさんを呼んで貰う。

「失礼します。ウラジミール参りました」

「入れ」

「婿殿、ウラジミールじゃ、主に農業関係の仕事をしておった。適任だと思うがの」

「ウラジミール、こっちはシンヤ・キバヤシといってラピスの婿じゃ」

「存じております。あまりにも有名ですので」

 俺の方から、ウラジミールさんに話をする。

「実は元シミラー領を移譲して貰ったのですが、そこの管理を元ロイスリッチ領管理人のキロイドさんにやって貰いたいと考えています。

 ウラジミールさんには、元ロイスリッチ領の管理人をキロイドさんに代わってやって貰いたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「キロイドさんのご意向はお伺いされましたか?」

「いや、まだですが」

「キロイドさんも、昔からやってきた元ロイスリッチ領を離れたくないでしょう。

 それなら私が、最初から元シミラー領に行った方が良いのではないでしょうか?」

「それも考えました。が、キロイドさんには実績があります。

 失礼だが、ウラジミールさんの実績を俺は知りません」

「ご最もなご意見です。しかし、もし、任されたなら誠心誠意、やらせて頂く所存です」

 ちょっとの間、逡巡する。

 ラピス、エリス、ミュの順番に見る。

 全員、俺の決定に従うという顔をしている。

「分かりました。ウラジミールさん、元シミラー領の管理人をやって頂きましょう。

 受けるに際して何か要望はありますか」

「名前を変えて頂きたいと思います」

「私の名前ですか?」

「いえ、領土の名前です。元シミラー領とか元ロイスリッチ領って呼びにくくて……。それに廃爵となった家名ですし……」

「私もそう思うわ」

 エリスが同意してきた。

 見るとラピスとミュも首を縦に振っている。

「うーん、では、元シミラー領をヨコハマ、元ロイスリッチ領をショウナンと呼ぶ事にしよう」

 エリスはジト目で見ているが、ラピスとミュは、

「ヨコハマとショウナンですか、何か高級そうな感じがして、いいと思います」

 と、賛同を得た。

 元シミラー領が『ヨコハマ地区』、元ロイスリッチ領が『ショウナン地区』と呼ばれる事になり、両方合わせて『キバヤシ領』となる事が発表された。


 ヨコハマ地区に、管理人となったウラジミールさんと一緒に行ってみる。

 臨時の村長が出迎えてくれた。

「村長、こちらはウラジミールさん、今度この領土、名前を変えてヨコハマとなった地区だが、管理人をやって貰う事になりました」

「この領土の名前が変わる事は、存じております。

 管理人のウラジミールさんに従い、精一杯やらせて頂きます」

 その後、ウラジミールさん、村長、村人の代表、獣人の代表を集めてこのヨコハマ地区の俺流の納め方を説明した。

 村長、村人の代表、獣人の代表は驚いていたが、奴隷の解放なんて自分たちだってどうしたら良いか分からないのだ。

 とりあえず、そこのところは、ウラジミールさんに任せる事にした。

 会議が終わって、嫁たちとキチン車に戻って来た。

「お館さま、どちらへ向かいますか?」

 ジェコビッチさんが聞いてきた。

「トウキョーの自宅へ向かってください」

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