第100話 シミラー元将軍領

 シミラー元将軍領が俺の領地に編入された事により、元将軍領に行く事にした。

 事前の情報だと、管理人はハンスという人らしい。

 キロイドさんのような、いい人だといいが。

 ジェコビッチさんの御者によって、キチン車でシミラー元将軍領への道を急いでいるとキチン車が急に止まった。

「ジェコビッチさん、どうしました」

「お館さま、盗賊でございます」

「盗賊?この辺りはシミラー元将軍が治めていて、どちらかと言うと、比較的安全な場所と言われてた所じゃないか」

「どうやら、シミラー元将軍が失脚したので、その家来か、どこからか流れて来た盗賊でしょう」

 それを聞いてミュが立った。

 御者のジェコビッチさんが、

「いえ、私が対処しますので、そのままお過ごし下さい」

「いや、そういう訳にもいかないから」

 俺と嫁たちがキチン車から出る。見ると10人ぐらいの男が居た。

「おい、このまま逃げるなら命だけは助けてやる。俺たちが可愛がってやるから、女は置いていって貰おう」

「あなたたちに可愛がって貰わずとも、旦那さまに可愛がって貰っているから不要です」

 ラピス、その言い方は、ちょっとアレだぞ。

「おーお、お熱いな。それがいつまで持つかな。おい、やれ」

 指示された男が、襲い掛かってきた。

 それをジェコビッチさんが華麗に捌く。

「こいつ、ただの御者じゃねぇ。やりやがる。よし、みんなでかかれ」

 5人ぐらいが、一斉にジェコビッチさんに襲いかかってきたが、一人で華麗に対処している。

 さすが、元軍隊。こんなの相手じゃないか。

 残りの5人が、こちらに切り掛かってきた。

 ラピスが、どこから出したのか、レイピアで応戦する。こちらもなかなかの凄腕だ。

「ラピスやるじゃないか」

「一応、免許皆伝ですので」

 ええっ、そうなの?

「もしかして、エミリーも強いのか?」

「彼女は小さい頃からお父さまに鍛えられたとかで、私より強いです」

 あの、チェルシー長官に鍛えられたのか。

 今度、仕返ししようと思っていたが止めよう。

 だんだん相手も疲れてきたのか、動きが鈍くなってきた。

「ミュ、そろそろ決着をつけるか」

「どうしますか?全員、殺しますか?」

 それを聞いて、恐怖に刈られたのは盗賊たちだ。

「殺すと寝覚めが良くない、気絶させてくれ」

「サンダーボルト!」

 盗賊たちが感電し、気絶した。

「さて、こいつらどうするかな」

「カイモノブクロに入れて運びますか?」

「カイモノブクロって生き物も入れていいのか?」

「私の持っているカイモノブクロは入れれますが」

「じゃ、そうしよう」


 盗賊たちをカイモノブクロに収納し、シミラー元将軍領に着いたが、門のところにバリケードが作ってあり、その前に奴隷の首輪を填められた獣人たち、20人程が武器を持って立っている。

 門の上に一人の男が立って、

「私はここをシミラー伯爵より預かっている、ハンスというものだ。

 今回の領土の移譲については、納得しかねる。我々は徹底抗戦する」

 その声と同時に、門の前の獣人たちが一斉に武器を構えた。

「あー、ここですんなり明け渡して貰うと誰も傷付かずに済むんだが、どうだろうか」

「我々は最後の一人になろうと抗うつもりだ。貴様の説得は聞く気はない」

「獣人の人たちは、どうですか?戦いは避けませんか?」

「我々に、その選択がないのは見れば分かるだろう」

「エリス、頼む」

「はい、はい」

 エリスが獣人たちの前に立ち、魔法を発令すると、奴隷の首輪が外れた。

 獣人たちがびっくりしているが、歓声を上げると武器を放り出し、逃げて行った。

「これで、奴隷たちはいなくなりました。どうします?」

「まだ門を破られた訳ではない。破れるもんなら通ってみよ」

「じゃ、次、ミュな」

「ファイヤーボール!」

 特大のファイヤーボールが門に突き刺さると、一瞬のうちに大きな穴が開いた。

「えっと、まだやりますか?」

 ハンスという男は門の上に座り込んでしまった。

「ミュ、縛って連れてきてくれ」

 門の中に入ると、100人ぐらいの村人が固まっている。

 先程の獣人たちも戻ってきたようだ。

「私は今度、この領地を移譲されたシンヤ・キバヤシという者だが、村長は居ますか?」

 村長らしき、年寄の男が出てきた。

「すまないが、人を縛れる縄を10本ほど持って来てくれないか」

 村長の用意した縄で、先程の盗賊を縛り上げる。

 ハンスという男と纏めて村の中央に引っ張り出す。

 気が付いた盗賊の頭らしき男が

「あっ、ハンスさん、どうしてここに……」

 言ってしまってからまずいと思ったのか、口を噤む。

「なるほど、二人は知り合いという訳か。それで大体の筋書きは読めたな」

「知らん、俺は何も知らん」

 ハンスがシラを切る。

「とりあえず、公都に送って裁判だな。誰か、馬車で移送してくれるやつはいるか?」

 村長は一人の男に指示した。

 気の弱そうな男が出できて、

「ぼ、僕が送ります」

「分かった、よろしくな」

「裁判にかけると言っても何の罪になる。罪になるのは盗賊だけだ」

「ハンスさん、それはひどいぜ」

「罪は公爵家、襲撃の罪だな」

 ラピスが名乗りを上げる。

「私はラピスラズリィ、公爵の一人娘にして、このシンヤさまの妻です。これが証拠です」

 ラピスは公爵家の紋が入った短剣を出して見せた。

 その瞬間、ここに居る全員が跪いた。

「公爵家を襲った者は有無を言わせず死罪。知っているな?」

 ハンスと盗賊の顔から血の気が引いていくのが分かった。

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