第99話 戦争後の経営会議

 戦争が終わって、始めての経営会議である。

 店の方は1号店、2号店とも開店し、放火された3号店もどうにか開店することができた。

 そして、輸送部門と建設部門の立ち上げである。

 それに伴う、人事も発表する。

「セルゲイ君前へ」

 アールさんが言う。

 会長の俺が辞令を発令する。

「セルゲイ・ネルシュ、副社長を解任し、新たな会社である、キバヤシ・ロジテックスの社長に任命する」

「はっ、セルゲイ・ネルシュ、謹んでお受け致します」

 キバヤシ・ロジテックスはキバヤシコーポレーションの100%子会社だ。

 船25隻と馬車10台、キチン車10台の運送会社である。

 船は対岸の港町ツェルンと上流の港街アジェラに航路を持つ。

 馬車は主にロイスリッチ伯とシミラー元将軍の持ち物だったものをそのまま譲り受けた物だ。

 キチン車は寄宿舎の方でどんどん増やして、俺の会社が買い取っている。

 これにより、寄宿舎の運営資金になっているので、自分たちで稼ぐという目的も達成している。

 次は建設部門だ。

「アーネスト君、同じく前へ」

 アールさんが言う。

 会長の俺が辞令を発令する。

「アーネスト・ロイスリッチ、キバヤシ建設の社長に任命する」

「アーネスト・ロイスリッチ、謹んでお受け致します」

 キバヤシ建設もキバヤシコーポレーションの100%子会社だ。

 土木工事、建設工事を担当する。土魔法を使える魔法使い20人程が在籍し、主な労働者は獣人だ。

 全従業員がトウキョーの社宅に入る。嫁は工場で働く者も居る。

 子供が居る者は、学院や保育院へ入る事もできる。

 エルバンテ公都の工場は戦闘が危惧されたため、機械類を全てトウキョーの工場へ移転させたことから、工場内はがら空きの状態である。

 現在は店で販売する、服、靴、バッグ、下着、ナプキン類はトウキョーの工場で作って、輸送している。

 これを元に戻す必要はないので、このままトウキョーの方で製作することにした。

 既に従業員もトウキョーに住んでいる。

「それで、公都の方の工場ですが、何に利用するかということです」

 社長のアールさんが発言する。

「既に珪素の鉱床が分かっていますので、掘り出してガラスを製造しましょう」

 アリストテレスさんが答える。

 アリストテレスさんは家宰という立場だが、製品開発部長も兼務して貰う事になった。

 優秀な人材は使わないといけない。

 これは前もって、俺と打ち合わせていたことだ。

 会長の俺が初めに発言すると、それ以降の発言が出てこない。

 結局、会長の発言で仕事が進み、ミスがあったとしても、そのまま突っ走る事になって修正が効かないのである。

 社長、会長は、出された案の可否を判断するだけである。

 今度は、経営戦略部長のガルンハルトさんが発言した。

「鏡も一緒に販売するというのは、いかがでしょうか」

 販売戦略部長のアンナさんも同意した。

「鏡は女性の利用が大きいと思われます。1号店から3号店全てで販売することが望ましいです」

「ガラスの販売はどうする?」

「ガラスは専門性が高いので、専門店を立ち上げた方が良いと判断します」

「一つ提案があります」

 2号店店長のサルビさんだ。

「ガラスでコップを作れないでしょうか?

 作れたら、2号店で販売したいと思いますが…」

「作れるよ。俺の国ではガラスのコップがあった。ただ、熱い物を入れると割れてしまうという問題点もある」

 社長のアールさんと相談し、俺が採決を下す。

「それでは、経営会議の結論として、珪素を使ったガラス製品の製造。販売を手掛ける事とする」

 研究所のサロイデリア、ルネサス、カシー、ザンジバルにガラス加工の技術の確立を行うよう、所長の俺から指示を出す。

 それとは別に鉱物資源の調達組も必要となる。

「ガラスの製造・販売を手掛けるにあたり、鉱物資源の探索、採掘の人手が重要となる。それと輸送の問題がある。

 輸送についてはセルゲイ社長に頼むとして、資源開発の方は誰か案はないか?」

「トウキョー建設の時に土魔法が使えるドワーフが何人かいましたが、彼らにお願いするというのはどうでしょうか?」

 こちらは建築会社社長に就任したアーネストさんだ。

「そうすると、建設工事の進捗が滞らないでしょうか?」

「とりあえず、2,3人でやってみて、様子を見て考えましょう」

「あと、あの砂漠にはワームが居る」

 アリストテレスさんが、ポツリと言う。

「ミュ、どうにかできるか?」

「ワームは私の下僕としているので、大丈夫だと思います。採掘にも使えるかもしれません」

「そうなると、ミュ奥さまが現場に出ていかないと……」

「代わりになるアイテムをお渡ししますので……」

「分かりました、それで大丈夫です」

 アーネストさんが安心したように言ったが、ミュの顔が赤くなっているのを俺は見逃さなかった。

「ミュ、ワームを使役するアイテムって何だ?」

 経営会議が終わって、帰りのキチン車の中で聞く。

「恥ずかしいので、誰にも話さないで下さいね。

 私の体液をシーハの葉に滲み込ませて持っていけばいいのです。

 ワームは目がなく、主に匂いで判断しますから、私が来たと思うでしょう」

 ミュの体液を使うのか、夫として複雑な心境だ。

「ミュの体液を使うのは、何だか複雑な心境だ」

「ヤキモチを焼いてくれるんですか。嬉しい」

「ミュ姉さまだけ、ヤキモチを焼くんですか?」

「そうよ、私たちはどうなの?」

「もちろん、ラピスにもヤキモチを焼くさ。

 エリスにはキリモチを焼くな」

「私だけ、キリモチを焼くってどういう事よ、フン」

 俺の居た世界を知っているエリスはキリモチと聞いて反応するが、ミュとラピスはキリモチを知らないので、頭の中が?になっている。

「今日の夜はミュの体液を集めなくちゃな。よし、頑張るか」

「シンヤさま、まさか一人だけ頑張るって事はないでしょうね」

「旦那さま、妻は平等にというのがありますから」

 今日の夜も長くなりそうだ。

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