第80話 軍議

 ウーリカの話から近い将来、ハルロイド公爵が攻めてくると予想されることから、公爵邸で軍事会議である。

 俺は役職はないが、婿であるという立場でエルバンテ公から出席を促されていた。

 もちろん嫁3人も一緒に出席しているが、オブザーバー的な出席である。

 ハルロイド領からエルバンテに攻め入るとなると、どうしても川を渡らなければならない。

 そうなると船が必要である。

 こちらもそれに対抗する船と船員が必要となるが、今のままでは圧倒的に船の数が少ない。

 もちろん、船員もだ。

 それと川側の防御もどうにかする必要がある。

 今では川に上陸すれば、そのまま街の塀の外までは来る事は可能だ。

 ちなみに、川岸と街の外壁までは約2km離れている。これは万が一、川が溢れた場合の水害を危惧したためで、川岸から街まではなだらかな登り坂になっている。


「情報が乏しいな」

 エルバンテ公が言う。もちろん、全員そうは思っているが、どうやって情報を入手するかが問題である。

 一番手っ取り早いのはスパイを送り込む事だが、軍隊が目を光らせているらしいので、かなりの用心が必要だろう。

 それに中枢に近づかないと有益な情報は得られない。

 今からスパイを送り込むのはハイリスクローリターンだ。


 そんな時、一人の人物が発言した。エリスだ。

「教会の情報網を使って情報を得られないかしら」

「うむ、教会か。司教さまを呼んでくれ」

 小一時間ほどだろうか。司教さまが来たので、得られた情報から紛争になりそうな事を伝える。

「分かりました、ハルロイド領の教会に問い合わせてみましょう」

 そう言うと、司教さまは部屋から出ていった。


「まず、こちらの戦力はどうなんでしょうか?」

 俺は何も知らないので聞いてみる。

「騎兵150、歩兵1200、槍隊120、弓隊150、魔法兵30だ」

「奴隷兵は?」

「奴隷兵はいない」

「軍船は何隻有りますか?」

「5隻だ」

 比較にならない。

 答えたシミラー将軍でさえ、そう思っているだろう。


「で、その兵力でどうやって戦うかだ」

「王国に応援を出して貰い、籠城するというのは?」

 籠城した場合、攻める方は10倍の兵力が要ると言われている。

 少なくとも簡単に落ちないので、その間に応援を待つという訳だ。

 宰相の意見は普通の案だろう。

 何人かは宰相の意見に同意しているのか、首を縦に振っている。

 俺は反論する。

「相手の輜重は3か月ということです。3か月で引き上げるなら籠城戦も良いかもしれませんが、ここエルバンテ領の塀の外は穀倉地帯です。

 俺なら刈り入れが出来る頃を見計らって出陣します。それによって輜重は増えますので、3か月以上渡って包囲されますし、王国が兵を出してくれる保証はありません。反対に、相手側に穀物を押さえられると、こちら側が餓死する可能性も出てきます」

「兄上は兵を出してくれるであろう。だが、渡河できなければ何の役にも立たん。

 場合によっては返り討ちになる可能性もある。王国を期待しての籠城は期待できん」

「と、なると川を下って来る途中で迎え撃つか、川から上陸してから迎え撃つかになりますな」

 エルバンテ公に答えたのは、シミラー将軍だ。

「将軍はどう考える?」

 今度は、エルバンテ公が聞く。

「相手は全勢力で来るなら船数は少なくとも20隻、しかも上流側から、反対にこっちは5隻、しかも下流側から、とても話になりません。上陸してから迎え撃つというのが、常識でしょう」

「やはり、そうなるかの」


 そんな中、司教さまが入って来た。

「ハルロイド領の教会と連絡がつきました」

「おお、で、司教さま、何と?」

「現在、船を大量に製作しているそうです。その数20隻。あと、船員も好待遇で募集しているそうです」

「どうやら、間違いはなさそうじゃな。将軍、次の軍議までに案を出して貰えんか?」

「分かりました。上陸してから迎え撃つという策で考えてみましょう」

 軍議はお開きになった。


 俺と嫁3人はそのままエルバンテ公の私室に向かう。

「父上、先ほどは申しませんでしたが、私に策がございます。サン・イルミド川周辺の地図がありましたら、頂きたいのです」

 エルバンテ公は書棚をいろいろ探していたが、

「おお、これだ、これだ」

 と言って一冊の本のような物を持ってきた。

 その本には、サン・イルミド川を詳細に渡って調べ上げた地図があった。


「ハルロイド領より船を出すとすると、どれ位で着くのでしょうか?」

「2日じゃな。夜に航行するのは座礁の危険があるからどこかで停泊しなければならん。停泊するとなるとここじゃな」

 エルバンテ公が指さしたのは、サン・イルミド川が大きく左に蛇行する位置にある入り江のような場所だった。

「地図で見ると三方を崖で囲まれていますね」

「そこは風が強い時でも崖があるので凌げる、恰好の場所なんじゃ」

「明日、現場を確認してみます」

「ところで、婿殿、先ほど何故みんなの前で発言しなかった?」

「人多ければ秘め事は控えよと言います。どこから外に漏れるか分かりません」


 街にある俺の家がめちゃめちゃになったので、しばらくは公爵さまの屋敷におじゃますることになった。

 ラピスもその方が安全だし、公爵さまも喜んでいる。

 なので、今日は4人でお風呂タイムだ。

「うん、ラピスちょっと太ったか?」

 ラピスのお腹を見て言う。

「失礼ね、もう」

「ご主人さま、そろそろお腹も出てくる頃です」

「まったく、シンヤさまって鈍感ね」

 はい、面目有りません。

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