第72話 人材の確保

 そうなると、人足たちの宿舎が必要だが、これはアロンカッチリアさんに頼むしかない。

 次は食料だ。これにはまったくあてがない。

 ロイスリッチ伯爵から没収した農業地から生産される食料を売って貰えないだろうか。エルバンテ公にお願いしてみよう。


 エリス、ミュ、ラピスを連れて、エルバンテ公に面会に行き、ロイスリッチ伯家の農場から採れる食料を売って貰いたいとお願いする。

「あの農地は既に婿殿の名義になっておる。そこから採れる食料は婿殿が自由にされるが良い」

 有難い。となると輸送方法だが、エリスのカイモノブクロと転移魔法にお願いするしかない。

「エリス、採れた食料だが、カイモノブクロと転移魔法で輸送してくれないか?」

「シンヤさまの頼みだし、人助けにもなるから、断れないわ」


 街づくりの設計をアロンカッチリアさんとアーネストさんに協力して行うことになった。

 街は魔物や動物から防護すため、どうしても塀を作ることになる。

 そうなると、街が円形状になることから、街を周回する道路と中心から放射状に延びる道路を作る必要がある。

 次は道路ごとに区画を区切り、その区画ごとに工場なのか店舗なのか住居などかを決めていく。

 拡張性はないが、計画された街が出来上がる。

 最初に道路を作るときに上水道、下水道も一緒に造ることによって、利便性も高まる。

 その計画に基づき区画ごとに配置を決めていく。

 街の一番外側に工場群を配置し、上工程から時計周りに作業が流れるようにした。

 それを北ブロック、南ブロックで造ることにより、2種類の大きな製造が可能となる。

 その内側は店舗群だ。店舗も食料品や衣料品別に区画する。

 そして、その内側が住居とし、中心は教会とした。

 普通は領主の屋敷となるのだが、俺はそんなのは嫌だったので、エリスや司教さまと相談して教会とすることとした。

 で、俺の屋敷はいうと、例の池周辺の土地を全て貰い、その畔に屋敷を建てることにした。

 屋敷自体はあまり大きくないが、風呂だけは温泉旅館程の大きさとする。

 なんたって、4人で入るからね。

 子供ができると、もっとたくさんで入るかもしれない。


 ロイスリッチ家の使用人以外の労働者として、塀の外の貧民街の獣人で働ける人数を確保することにし、人足の募集をかける。

 塀の外の貧民街は、塀の中に比べて更に酷い状況だ。

 石を積み重ねてある家なんてましな方で、中には草を重ねたような家もあった。

 そんな中で炊き出しをする。

「ここから鐘半分のところで街を作るための人足を募集しています。希望者は申し出てください。希望される方には、この炊き出しを提供します」

 食い物で釣っているようだが、施しと受け取られる訳にはいかない。働かざる者、喰うべからずなのだ。


「子供でもいいんか?」

 見ると10歳ぐらいの獅子顔の男の子だろうか。それより下の妹もいる。

「君が働くというなら、その妹も一緒に来て良い。家族同伴も構わない」

「婆さんでもいいんかい?」

 見ると老けた猫顔のお婆さんが聞いてきている。

「現場の仕事ができればいいが、出来ないなら裏方でやって貰う。食堂とかの仕事だ」

 集まった人たちが、ワイワイガヤガヤ言っている。


「みんな、騙されるな」

 若い男性の声が響いた。

「子供や年寄までいいと言ってる。そんな働けない人間を集めてどうする。奴隷とかに売るつもりなんだ」

 みんな、静まる。

「嘘だと思うなら、行って見てくればいい。街を造っているのが分かるだろう」

 さっきの男の子が言った。

「奴隷でもいい。今のままだと飢え死になる。まだ奴隷なら食べていける。

 兄さん、俺たち兄弟だけだが、雇って貰えるならついて行く」

「私も、この兄さんに従ってみるつもりだがね。こんな婆さんを今更奴隷にして何になる。それでも欲しいというなら、行って見る価値はあるだろうがね」

 そう言って、炊き出しの飯を受け取った。

「うまい」

「おっ、ほんとに美味しい、こんなの食べた事がなかった。行けばこんな美味しい物を食べれるんかね」

 これをきっかけに希望者が増えた。


 お腹がいっぱいになったところで、出発することにした。

 ほぼ、住民の半分くらいだろうか。主に老人、子供が多い。

 裸同然の獣人が、行列を作って歩く姿は異様だっただろう。

 鐘半分より時間は掛かったが、アロンカッチリアさんが造った住居に着いた。

「ここに入って貰います。1家族1部屋です。一人の人は4人で入って貰います」

 みんな、びっくりしている。今まで石や草の家に居たような人たちだ。それがいきなり、屋根のある家に住むのだ。

「中央にある大きな建物の2階が集会所になっていますので、部屋が確認できたら集会所に集合して下さい」


 集会所で待っていると一人、また一人と入ってきた。

 入る人に作業着を渡していく。

 全員が揃ったところで、説明をする。

「この下の1階が食堂と風呂になっています。あと、トイレは各部屋にあるのは確認して貰ってますね」

「食堂での食事は、朝、昼、夜になります。風呂は朝と夜になります。みなさんに渡した物は作業服になりますので、仕事にはそれを着て行って下さい。何か質問はありますか?」

「何んで、あんたはここまでしてくれる。奴隷でもいいと思ったが、奴隷以上の待遇じゃないか?」

 最もな意見だ。


「一番は私が商人だからです。ここに工場を造り、出来た製品を売り捌きたい。それはこの領地以外にも売りたいと思っています。

 ここに街と工場を造った後は、みなさんには工員として工場で働いて貰いたいと思っています。もちろん出て行くのであれば、止めるつもりはありません」

「分かった。ここまでして貰った以上、あんたの言う事を信じよう。

 ところで、あんたの名前をまだ聞いてなかったが、あんたを何と呼べばいい」

「私はシンヤ・キバヤシといいます。私のことはシンヤと呼んで貰って結構です」

「我々の雇い主を呼び捨てにもできまい。シンヤさんでいいか?」

「それで結構です」

「みんな、ここまでして貰った以上、我々獣人の力をこのシンヤさんに見せてやろうじゃないか」

「「「おおっ」」」

 集会所に獣声が響いた。

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