第69話 裁判
翌朝、目が覚めると4人でお風呂に行く。
今度はラピスもあまり恥ずかしくないのか、昨晩より大胆になっている。
エリスが
「お背中流しましょうか?」
と言って背中を流してくれる。
ミュは、髪を洗ってくれた。
ここら辺りの、エリスとミュのコンビネーションは完璧だ。
ラピスはどうしたらいいのか、分からないようだ。
「えっと、えっと、私はどこを洗えば……」
ラピスは俺の手足を洗い出した。
この体制って結構大変なんだよ。
お風呂から出て髪などを乾かしていると、地平線が明るくなってきた。
この世界に裁判はない。
憲兵長官がその職権で罪を決める。
大きな罪になる度に上の職位が決める事になるが、実際は殺人でも隊長クラスが決めており、憲兵長官が罪状を判断することは、余程の事件でないとあり得ない。
しかし、これは一般人の場合で、貴族になると公爵さまが罪状を判断する。
今、この謁見の間に二人の人が引き出されている。
ロイスリッチ伯爵の父と母だ。
「アーネスト・ロイスリッチ、ローズマリー・ロイスリッチ、面を上げよ」
宰相が言うと、二人は跪いたまま、顔を上げた。
宰相がチェルシー長官が調べた報告書に沿って、事件の内容を説明する。
宰相の報告が終わり、最後に言う。
「事件の内容は以上の通りであるが、あなた方の息子、クリストファ・ロイスリッチ伯爵が公爵さまの婿であるシンヤ・キバヤシ殿を暗殺しようとした件について、申したい事があれば申し出よ」
相手に発言を促すのは、最後に言い訳ぐらい聞いてやろう的なものだ。
罪状は死罪なのか終身刑なのかを決めるだけである。
「この度の息子の致した行為については、誠に申し訳ございません。
我々夫婦は公爵さまより領地を頂き、慎ましく生活してきたつもりでしたが、家督を譲った息子は何を思ったか傲慢でありました。
そのような息子に育てた我々にも罪があることは、十分承知しております。
ただ、使用人については、何も知りません。ここはご温情を持って、使用人たちの釈放をお願い致します」
父親のアーネスト・ロイスリッチは家督を息子に譲り、夫婦で悠々自適な生活を送ろうと思っていたのかもしれない。
それがこんな事になって、罪を感じているのだろう。
妻のローズマリーさんも泣いている。
宰相の判決が下される。
「ロイスリッチ家は領地没収の上、廃爵、アーネスト・ロイスリッチ、ローズマリー・ロイスリッチは死罪、使用人についての罪状はチェルシー長官に一任する」
この二人は今回の事件にどう関わっていたのだろう。
「ミュ、二人に尋問したい。ミュの力を使えるか?」
「はい、可能です」
「ちょっと待って下さい。私が直接聞いてみたいのですが、可能でしょうか?」
宰相が何か言おうとしたが、公爵さまが遮った。
「シンヤ殿が被害者であるから、シンヤ殿に任せよう」
「ありがとうございます。では、ミュ、頼む」
ミュがアーネストさんに向かい、目を見たとたん、その目の視点が合わなくなっていった。
「では、聞きます。あなたの息子さんの行った行為を知っていましたか?」
「知りませんでした。昨夜、軍隊が来て初めて知りました」
「息子さんは、どのように言っていましたか?」
「普段は、自分こそ領主に相応しいと言っていました。領主になり、獣人だけでなく、貧民街に居る人も奴隷にすれば、生産性が上がると」
「それ以外は?」
「軍隊を強化して、他のどの国よりも強い国にすると」
このエルバンテ公爵領は王国とサン・イルミド川を挟んだ位置にあり、いわば僻地として捉えられている。
反対に開拓した土地はエルバンテ公爵の領地とすることが認められている。
開拓すればする程、穀物などの生産ができるのだが、問題もある。
開拓する人手だ。奴隷を使えれば開拓の効率が上がる。
奴隷を増やせば、生産性が上がるという理屈は理解できる。
「息子さんはラピスラズリィ公女殿下に恋慕していたようだが、何か知っている事は?」
「息子は領主になるには公女さまを妻に迎えるべきだと言っており、そのために色々と画策していたようです」
「その画策とは?」
「家宰さまに取次をお願いするとして贈り物をしていたようです」
「家宰をここへ呼べ」
エルバンテ公爵が立ち上がって叫んだ。
衛兵に引き連れられて家宰が到着した。
「贈り物をした家宰さまは何と?」
家宰の顔色が青くなっていくのが分かる。
「家宰さまには言われるままに贈り物をしていたようですが、いつまで経ってもラピスラズリィ公女さまとお会いできない。
家宰さまは何をしている、と言っておりました」
「それで?」
「そのうち、公女さまの婚約が発表されました。本人は多大な贈り物をしておったので、裏切られた思いだったのでしょう」
「それであのような行為に出たと?」
「そのよう愚考致します」
「あなたは、それをただ見ていたのですか?」
「私たち夫婦も何度も諫めましたが、本人はこの領地を発展させていくには今までの治め方を変えるしかない。
それには優秀な者が指導していかなくてはならないと、その一点張りでした」
「つまりは言う事を聞かなかったと」
「私たちは公爵さまを助け、この領地を盛り立てていってくればいいと思い、高等教育を施してきましたが、何を間違ったのでしょうか?
家督を譲った後は、私たちも軟禁状態になり、顔も合わせてはくれませんでした」
「あなたも獣人は奴隷になればいいとお思いですか?」
「妻も私も命の軽重は解ります。人種により差別のある世界は正しいとは思いません。その事を息子に話しても解って貰えなかった」
「最後に何か言いたいことは?」
「正しく息子を導けなかったのは万死に値する事は承知しております。心残りは使用人の事のみです。どうぞ罪が軽くなりますようにお願い致します」
ミュが魔法を解くと瞳に灯りが戻った。
エルバンテ公が席を立った。
「家宰、何か言うことはあるか?嘘を言ってもシンヤ殿により直ぐバレるぞ」
「誠に申し訳ございません。欲に目が眩んでございます」
「家宰、お前は私が、この領地に赴く際に一緒に来ると言ってくれた。あの時は本当に有難かった。そのお前がこのような事をするとは。儂も悲しい」
家宰の目から涙が溢れる。
「家宰の家財は全て没収し、公爵家より追放。どこぞと好きな所に行くが良い」
家宰は衛兵に連れられ退出して行った。
「アーネストよ、儂も人の親じゃ、お前の気持ちは判るが罪は罪じゃ」
「はい、妻も私も覚悟は出来ています」
宰相が改めて罪状を言い渡そうとしたのを俺が遮った。
「この二人、私に預けて貰えませんか?」
そう言った途端、この場に居た全員の視線が俺に集中した。
エルバンテ公はしばらく考えていたようだが、
「分かった。命を狙われたのは婿殿じゃ、婿殿に一任しよう。アーネストよ、良いな」
「ははっ、私としてはどのような処分でも受け入れるつもり、異論はございません」
「では、お二人は私がお連れします、良いですね」
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