第35話 岩造りの家

「もう、遅いよー」

 猫人と犬人の女の子が言う。

 子供たちも、だいぶ慣れてきてくれた。

 猫人の女の子の名前はミスティ、犬人の女の子の名前はミントだ。

「ごめん、ごめん、昨日、寄宿舎建設の件で遅くなってしまったんだ。それで、明日の朝になるけど、ここを出て別のところに移動しようと思うけど大丈夫か?」

 皆、おにぎりを食べる手を止めて、こっちを見る。

「はい、分かりました。明日の朝ですね、こちらも準備しておきます」

 サリーが、しっかりした口調で答えた。

「それと今日は、もう一つ渡すものがある」

 カイモノブクロから服を取り出す。

 みんな、目を皿のようにして見ている。

「明日の朝、ここを出る時にそれを着ておいてくれ。新しい服だ」

 シムカさんたちに作って貰った服だ。

 いつもの服を作る間に子供服まで作るのは、なかなか大変だったが、何も聞かずに作ってくれたのは、薄々こういうことに気が付いていたのかもしれない。

 子供たちは目を白黒させていたが、

「ありがとうございます」

 と言って、服を持って泣いている子もいた。


 俺たちはその場を離れて、不動産屋に行き、土地の購入契約を済ませた。

 購入金額は金貨50枚だ。

 こちらの物価は安い。土地なんて塀の中だから価値があるのであって、塀の外ははっきり言ってタダだ。

 塀の外なら農家は耕したところが、自分の畑になる。

 だから、こちらの農家はどこも大きな畑や田んぼを持っているが、街から遠いとどうやって輸送するかが問題となるため、遠いところで農業をやる人はいない。


 次にその足で、工務店に向かい、工場を建てる依頼をする。

 行政への届け出とかは工務店の方で行うので、建設契約だけ行う必要がある。

 場所を確認して工場の規模とか設計をしないといけないので、建設費用は詳細には出ないとのことだった。

 ただ、こちらでは土魔法があるので、オール木造にするより、オール岩作りの方が安いらしい。

 そういえば、アロンカッチリアさんも土魔法で造った寄宿舎は岩造りとなっていた。

 上位の土魔法使いなら、建物とか造るのは簡単にやってのける。

 土魔法で建物の周辺の壁を造る。

 次に、窓とかを開ける部分に同じ土魔法で穴を開けて、大体の構造物に仕上げる。

 最後にその土全体を岩に変化させるとあら不思議、岩造りの建物の完成である。

 ただ、問題もある。大きな建物は屋根が作れないのだ。

 土魔法で屋根を造っても重さで落ちてしまう。

 屋根だけは後から木で作る必要がある。

 このため、建物を造った費用のうちほとんどが、屋根の費用になってしまう。

 木で造った屋根はそのままだと雨とかで腐るため、木の屋根の上にさらに石タイルを貼っていく。日本の瓦みたいなものだ。

 これにより屋根の耐久性をあげるだけでなく、屋根構造を二重化し、空気の層を設けることで、室内の温度が外の温度変化に対して極端に変化しないようにする。

 一般の家なら、屋根が岩でも重さで落ちることがないため、価格は安い。だから街のほとんどが岩造りである。

 これは道路も同じようにして造るため、道路も石畳になっている。

 屋根が石タイルの家は、お金持ちということになる。


 次にアールさんのところに行き、馬車を借りる。

 ミュが御者ができるというこのなので、馬車だけ借りることにした。

 ほんとにミュは多彩だ。ミュを褒めてやると

「いろいろ人生経験を踏んでいますので……」

 うん、重い言葉だね。

「私だって人生経験は踏んでるもん」

 1歳の駄女神が言う。

 アールさんには、幌付の馬車を貸してくれるように頼んだ。

 早速、馬車を使って買い物だ。

 テーブルに椅子、生活するのに必要な備品を買い揃えていく。

 備品だけで、馬車の中が2/3ほど埋まった。

 その他にも獲物を刈るための弓や剣、畑用の道具なども買った。

 毎日子供たちに、食べ物を持っていくことはできない。

 自分たちで、自給して貰わなくてはならないからだ。

 エリスが教会に用があるからと、途中で馬車を教会に回すように言ってきた。

 教会の前で待っていると手に何か持っている。

 何かと聞くと、「電話」だと言う。

 この世界「電話」があったのか。離れたところで通話ができるらしい。電話というより、トランシーバに近いものだ。

 まさか、NT〇 D〇c〇m〇の文字は入ってないよね。

 しかし。「電話」なんて、恐らくとてつもない魔道具のハズ。

「そんな魔道具を良く貸してくれたな」と聞いたところ、エリスが女神ということは教会の中では周知の事らしく、いろいろと融通が利くらしい。

 司祭さまより、上なんだそうだ。

 そりゃそうだろう、神の実物なのだ。

 司祭さまは、どう転がっても人間でしかない。

 そんなやつが、一般シスターだったのだ。

 教会としては出ていってくれて、ありがたかったんじゃないか?

 それに女神に何かあろうものなら、教会本部から何を言われるか分からない。

 それは俺たち家族も同じで、俺たちに何かあって天界の怒りを買うとエルバンテの街どころか、この国そのものが滅びかねない。

 教会としては腫れ物に触るようなものなのだ。

 恐らくミュがサキュバスということは、教会は既に知っている可能性が高い。

 それでも何も手を出してこないということは、天界が何もしないのに、わざわざ要らぬ手を出して神の怒りを買うのが嫌なのだろう。

 藪を突いて蛇を出す必要はない。


 馬車はミュの家に止めておくことはできないので、子供たちのところに持って行く。

 子供たちが「これに乗って行くのか」とか騒いでいる。

 明日の朝これで出発するので、それまで見張りを頼んでおく。


 家に帰ると教会の鐘が5つを告げたところだった。

 そろそろ初夏も終わる。来月からは本格的な夏だ。

 新しい店のオープンも、6月に決まった。

 店員の研修や服の製造、生地の仕入れ、それに合わせた工場の立ち上げ、やることはたくさんある。

 これに子供たちの寄宿舎の開所もある。

 子供たちの方は、面倒を見てくれる人が欲しい。

 それは勉強も教えられる人がいいが、獣人と同居を嫌がらない人は稀だ。

 先生を見つけるのは難しいだろう。

 いっそ、エイさんに相談してみるか、誰か良い人を知っているかもしれない。

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