第24話 倉庫の子供たち

 家に帰る前に寄る所がある。

 北側にある広い空き地を見て、工場や学校、寄宿舎が建てられるか確認しなければならない。

 ミュと二人いつもの通りから北側へ向かっていくと15分位歩いただろうか、広い場所が見えてきた。土地の端にボロい倉庫が建っている。

 土地的には問題ない。

 倉庫は見るからに朽ちており、取り壊すしかないだろう。


 一応、倉庫の中に入ってみる。

 すると、子供が8人程居た。みんないかにもホームレスといったような服を着ているが、なによりも驚いたのは全員獣人だった。

 女の子が5人、男の子が3人だ。


「君たちはここに住んでいるのかい?」

 俺が話かけるが、子供たちは固まっている。

 この世界では獣人の地位は高くない。

 獣人のほとんどは貧民街に住んでおり、そこにも住めない者は塀の外のスラム街に住んでいる。

 人族を見れば、迫害されると思っている獣人は多い。


「お父さんやお母さんは居るのかい?」

 もう一度聞いてみる。

 すると一番年齢が高いと思われる、うさぎ耳の女の子が震えながら答えた。

 歳は12,13歳といったところか、ソウちゃんと同い年くらいじゃないだろうか。

「い、いません、ここに居るのは、わ、私たちだけです」

 震えているが、割としっかりした口調で答えた。

 子供たちは、全員がうさぎ耳の女の子を囲むようにして、じっとこっちを見ている。

 うさぎ耳の子は、やはり小さなうさぎ耳の子を抱いている。きっと姉妹なのだろう。

 その他には獅子人の男の子が一人、この子はうさぎ耳の子の次に大きい。

 以下、猫人の女の子、犬人の女の子、熊人の男の子、狼人の男の子、一番小さな子は人の顔をしているが、足が魚の足になっている。人魚だ。


「私たちに何の用ですか?」

 うさぎ耳の子が気丈に聞いてきた。

「私は今度、この土地を買う予定の者だ。そのため、今日は下見に来たんだ」

 すると動揺したような顔つきになった。

「私たちは、ここから出ていかなければ、ならないのですか?」

「君たちは、ここに住んでいるのか?」

 ちょっとは、落ち着いたのだろう。

 うさぎ耳の女の子が、さっきより饒舌にしゃべり出した。

「私たちに親はいません。親が死んだか、捨てられた者ばかりです。

 貧民街にも置いて貰えず、ここに住みついてます。

 もし、土地を買っても、この倉庫に住まわせて頂けないでしょうか?」

「それはできない。ここには建物を建てる計画がある。

 そのためには、この倉庫は取り潰さなければならない。

 君たちをこの倉庫に置いておく事はできない」


「おまえが出ていけ」

 獅子人の男の子が叫んだ。

 他の子も同様な目で、睨んできている。

「それはできない、ここの土地は私の商売に必要な場所だ。その代り君たちに別の建物を用意しようと思うが、それでどうだろう。また、その別の建物を用意するまで、ここに居て貰っても構わない」

 子供たちはみんな、目を合わせてひそひそ話をしている。

「その話は本当でしょうか?それまではここに居ても良いのでしょうか?それはいつできるのでしょう?」

 矢継ぎ早に聞いてくる。

「まだ完成の時期は未定だが、いきなり出ていけということはしないし、出ていく時はこちらで行先を指定しよう」

 子供たちは、また目を合わせてひそひそ話をしている。

「分かりました。それでいいです」


 帰ろうとすると、誰かのお腹が「ぐぅ」と鳴った。

「お腹が空いているのか。今日のご飯はどうした?」

「今日は夜が更けてから、街の路地裏にいくところです」

 路地裏を徘徊して、レストランとかの残飯を漁るということだろう。

「ミュ、今日の朝炊いたご飯を出してくれるか」

「分かりました、ご主人さま」

 ミュはカイモノブクロから、土鍋を取り出した。

 カイモノブクロは暖かい物を入れておくと、そのままで保管できる。

 ご飯をたくさん炊いて入れておくと、炊飯ジャーのように使える。

「ミュ、あと塩もな。で、水はあるかい?」

 塩と鍋に水を出して貰い、にぎり飯を作る。味は塩のみだ。


 まず一つ目を作って、一番小さな人魚の女の子に渡した。

 小さな手でにぎり飯を持つと不思議そうに見つめてきた。

「さあ、お食べ」

 そう言うと、人魚の子はにぎり飯にかぶりついて、本当にいい顔で「おいしい」と一言言った。

 次のにぎり飯はうさぎ耳の女の子、小さい順に渡してあげるとみんな、夢中で食べ始めた。

 結局、もう一つずつ作ってやった。

「ありがとうございました。この御恩は忘れません」

 うんうん、なんか鶴の恩返しみたいになってきた。

「それじゃ、また来るから。みんな元気でな」

「「「はい、ありがとうございました」」」

 最後はみんなで御礼を言ってくれた。


 家に帰ってまったりしていると、ミュが話しかけてきた。

「ご主人さま、あの子たちの事をお考えですか?」

「うん、そうだ。ミュには申し訳ないが、ミュのお金を使わせてくれないか」

「多分、ご主人さまはそう言うと思っていました。それで、どうしますか?」

「寄宿舎を建てようと思う。だが、街の中ではまずいだろう。どこかいい所はないものだろうか?」

 獣人は偏見が強い。

 もし街の中に寄宿舎なんて建てたら、それこそ憲兵に即座に潰されてしまうだろう。

 貧民街すら、嫌悪されている。

 それでも貧民街が潰されないのは、そこに獣人の冒険者が住んでいるからだ。

 獣人は人族に比べて強い。

 憲兵が排除に行った場合、力づくなら負けてしまうだろう。

 軍隊なら排除できるかもしれないが、その場合は街自体も破壊されることを覚悟しなければならないし、国に知られると公爵さまの名前に傷が付く。

 それに獣人の冒険者は強いため、魔物狩りに非常に役に立つ。

 そういうこともあって貧民街は撤去されない。

 ただし、獣人で冒険者にならなければ貧民街でも生きていけない。

 獣人では冒険者になるしか道がない。


 女性の場合は更に過酷だ。

 獣人の娼婦は人族は抱かない。

 つまり、需要がないので、同じ冒険者の相手になるか、獣人の妻にならなければ生きることはできないのだ。

 そして、獣人は絶対的に男性の数が少ない。

 先の子供たちの比率がそのまま獣人の比率だ。


「私に心当たりがあります。東北の方角に小高い丘がありますので、そこでいかがでしょうか。歩くと鐘3つぐらいの距離だと思います」

「そうか、時間があるときに見てみよう」

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