第26話 美羽のリボルバー(前)
弾丸を込める「
坂本龍馬は、生涯にわたって二丁のリボルバーを所有した。
一丁目は、長州藩の
***
龍馬が仲介して実現したこの「商い」によって、
この際の代表者は、薩摩側が西郷吉之助と
幕府側の諸藩は一斉に及び腰となった。
この間、長州藩では、討幕派の急先鋒だった高杉晋作が、彼が創設した
慶応二年6月、第二次長州征伐が始まる。
この戦いにおいて長州藩は、陸戦の指揮を
第二次長州征伐の失敗により、幕府の権威は失墜。その衰退が
龍馬と高杉とは、そういう関係にある。
***
高杉が龍馬に贈ったのは、アメリカのスミス&ウェッソン社が開発した「モデル2アーミー」というタイプの32口径、6連発式のリボルバーだ。
この銃は一度、龍馬の命を救っている。
慶応二年1月23日、伏見の寺田屋に滞在していた龍馬は、伏見奉行所の捕り方に襲撃される。このときにリボルバーが火を噴いた。龍馬は斬りつけられながらも反撃し、脱出に成功。材木小屋に隠れていたところを薩摩藩士に救出される。
高杉から贈られたリボルバーはこの際に紛失した。
それに代わる二丁目のリボルバーを龍馬に贈ったのは薩摩藩だ。
寺田屋事件で負傷した龍馬は、西郷吉之助の勧めで、薩摩領内の霧島温泉などにしばらく滞在しているが、この頃に贈られたものだと思われる。スミス&ウェッソン社製の「モデル1」というタイプの22口径、7連発式のリボルバーだ。
近江屋事件の際、龍馬はこの銃を
史実では、それを抜く間もなく斬り殺されるのだが、豪太たちのいる幕末では、豪太が佐々木只三郎の
そして、その銃が今、美羽の手にある。
***
「秀ちゃん、お願い。あたしをみんなのところへ連れていって」
涼介が土佐藩邸から出ていった後、美羽はそう言って泣いた。
「連れていってくれるだけでいいから」
美羽は咲が新選組に捕縛されたことに責任を感じている。それなのに、自分は何もできず、ただみんなから守られている。そのことが美羽には耐えられなかった。
「みんなの身代わりになりたい」
と言った。
その美羽を秀一が必死で止めている。
2人の様子を、涼介と入れ替わるように部屋にやってきた坂本龍馬が見ていた。
その龍馬に秀一が助けを求める。
「龍馬さんからも言ってあげてください」
龍馬はバツが悪そうに、頭をぐしゃぐしゃとかいた。
本来、新選組に狙われる理由などないはずの彼らが
かといって、美羽を行かせないことが良いのかも分からない。
***
「あしには止めることはできん」
と龍馬は言った。
「どうしてですか!」
「もし3人の身に何かあれば、こん
龍馬の胸には美羽の悲痛な思いが響いている。
何とか力になってやりたい。
「行くなら、これを持っていけ」
と言って、龍馬は懐からリボルバーを取り出した。
状況によっては、この銃が役に立つかも知れない、という考えからだ。
「龍馬さん、まさか……」
と秀一は青ざめた。
いざとなれば、新選組の隊士を撃て、という意味だと受け止めたのだ。
「勘違いしーな」
と龍馬は笑いながら言った。
「脅すだけじゃ」
実際、この時代の22口径の拳銃の殺傷力というのは大したものではない。威嚇に使う方が有効である、ということを龍馬は心得ていた。
「弾は1発だけじゃ。空に向かって撃て」
と言って、リボルバーの弾倉に1発だけ弾丸を込める。
龍馬の懐にあったために物理的な冷たさはない。にもかかわらず、それを手渡された美羽は、何かとてつもなく重く、冷たいものを受け取ったように感じた。
その美羽に、
「決して人を撃つな」
と念を押した後、龍馬は確かにこう付け加えた。
「おまんらに、この時代の人間を殺す理由はないはずじゃ」
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