第21話 豪太、近藤勇と飲む(中)
豪太が近藤に酒を飲まされている間、咲は別室で、近藤の妾である「お孝」に化粧を施されていた。その前には風呂にも入らせてもらっている。
化粧と言っても、
「あんたは、ほんまにべっぴんさんやねぇ」
とお孝が咲の髪をとかしながら言った。
「お咲ちゃんだったら、京でもいちばんの
太夫とは、美貌と教養とを兼ね備えた最高ランクの遊女のことだ。
お孝の姉である「
深雪太夫は21〜22歳の頃、池田屋に近い茶屋で働いていたとき、近藤勇に見初められて、
***
お孝に咲の相手をさせたのも土方の策略だ。
土方は、咲の尋常でない強さを目の当たりにしている。武器を持たない状態で、近藤・原田・相馬に太刀打ちできるとは思えないが、大将である豪太を逃がすための盾となるくらいの働きはするかも知れない。それをさせないための隔離だ。
しかし、土方の思惑とは関係なく、お孝は咲が可愛くて仕方なかった。
お孝も大坂新町で
美女として名高い深雪太夫に似ていて、しかも、愛嬌がある女だったと言われている。そのお孝が、不意に咲を後ろから抱きしめ、耳元で
「お咲ちゃんはずっとここにおり。勇はんとうちの娘になり」
お孝の袖口から
咲はかつてない胸の高鳴りを覚えていた……。
***
豪太が土佐藩邸を出て数時間が経過した頃、秀一が涼介に言った。
「天童先輩たち、いくら何でも遅くないですか?」
「そうは言っても、待つしかねーだろ」
「それに一つ、気になっていることが……」
「どんなことだ?」
「僕たちが今辿っている運命って、御陵衛士が辿った運命とよく似ているんです」
「御陵衛士?」
「新選組の参謀だった
「その御陵衛士と俺たちの運命がどう似てるんだ?」
「慶応三年11月18日、この日、本来の歴史であれば、近藤勇の妾宅に呼び出されるのは、伊東甲子太郎なんです」
「で、その伊東って野郎はどうなった?」
「近藤に酒を飲まされ、酔わされた帰り道、
「何だと……!?」
「御陵衛士に
秀一の説明が終わる前に、涼介は木刀を持って立ち上がっていた。
「伊吹先輩、どこ行くんですか?」
「新選組の屯所だ」
「そんな、危険ですよ!」
「喧嘩しに行くわけじゃねぇ。土方歳三って野郎と話してくるだけだ」
「それなら僕も行きます」
「ダメだ。お前は美羽のそばにいてやれ。心配すんな。俺は天童さんほど無謀じゃねーよ。必ず生きて戻る」
涼介は一人で土佐藩邸を後にした。
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