第114話休憩

 暫く他愛のない会話をハルミの抗議を無視して続けていると、アリア達が宙を泳いで帰って来た、今回アリア達は遊撃3班として側面砲撃をしてもらっている。


 彼女達は専用装備として、口径の大きなライフル型を其々2門積んだ流線型の専用『アタックシールド』4枚と腰辺りに装備した推進装置『アクティブバーニア』が2発、またその専用『フローティングアーマー』からは姿勢制御翼代わりの『水刃刀』を応用した、仄かに光る長く優美なヒレを生やしている。背ビレや胸ヒレ、尾ビレを生やし、華麗に宙を泳ぐ姿は、まるで色鮮やかな熱帯魚のように綺麗だ。


この専用『アクティブバーニア』はサンディが中心になって4人が開発した魔法『エアリアルスクリュー』をメグミが気に入り、専用の魔道具に組み込んだ物である。


 『魔空膜』による空中遊泳は、『魔空膜』自身も推進力が有る為、抵抗の少ない空気中では『空水気』を『魔水膜』で泳ぐよりはスピードが出る。

 しかし、空を自由に飛び回る飛行型の魔物に、高低差を利用した滑空時に追いつける程度で緊急回避機動、素早い動作が苦手なのだ。

 確かにスイスイと空中を泳げるが、悪魔でも『泳ぐ』スピードを超えられない、急制動、急発進が出来ない。

 飛行型の魔物に対抗するには速さと機動性が足りてないのだ。


 そのため、当初は『飛空艇』等の推進力として利用されている『ジェット』の魔法を使用していた、この『ジェット』は周囲の空気を集め自分の後方に勢いよく放つという魔法で、個人で使いうとその噴流の反作用で爆発的な加速が得られる。

 しかしこの魔法、本来は『飛空艇』の様な大規模な魔動機で使用する、推進魔道具用の魔法で、確かに爆発的、瞬間的な加速は得られたが、方向転換が難しく、使用が直線に限られる、又細かい調整が効かず、個人で使用するには燃費が悪い等問題点が多い、個人使用には非常に使い勝手の悪い魔法であった。

 この魔法、地上の戦いで使用している者も極まれに居るが人間砲弾の様な移動手段としての使い方や、ランスによる特攻攻撃時の加速に用いるのが精々である。


 そこでジェシカ、サンディを中心に牝牛人族達は独自にこの魔法を改良、周囲の空気を吸入し、回転を加えて後方に噴出するこの『エアリアルスクリュー』を開発した。

 この回転させた筒状の風の噴流は、ただ後方に真っすぐ風を吹き出す従来の魔法『ジェット』よりも、筒状の噴射を回転させることにより、噴射後、回転噴流の筒の内側の空気を噴流に巻き込め、それにより流量が増え、更に不要な周囲の空気と抵抗を低減することに成功、大量の風の噴流を遠くまで届かせることによる反力は凄まじく、魔力消費の割に推進力が高かった、回転の反作用が加わるため、単発では空中で体が回転してしまうので偶数同時発動が必須であるが、魔力制御に長けた牝牛人族の彼女達には何も問題はなかった。


 そしてこの燃費を大幅に改善した『エアリアルスクリュー』をメグミが見て、思いついたのが『アクティブバーニア』だ。

 既に『エアリアルスクリュー』の時点で速さと機動性は空中戦での実用域に達していたが、メグミはそれに満足せず、専用魔道具に組み込むことにより更なる高みを目指したのだ。


 この『アクティブバーニア』は大きな穴の開いた短い円筒の輪を3本束ねそれを一つにしたフローティング機器である、輪の周囲の吸入口から空気を取り入れ、それを輪の後方のスリットから排出、あの有名な羽の無い扇風機、その気圧差の原理を応用、それにより少ない魔力で大きな推進力を得ることが出来た。

 更にその際に噴出口を回転させる『エアリアルスクリュー』の原理も応用、そして輪の中心でも小型の『エアリアルスクリュー』を発生させ、回転噴流と気圧差による空気の巻き込みを複合させた『アクティブバーニア』は少ない魔力で圧倒的な推進力を得る事に成功した。

 更にメグミは3つの輪、其々が噴出方向を各個に変えられ、軌道修正も容易に出来るようにし、それを纏めてフローティング機構で支持し纏めて向きを大きく自由に変更できるようにした。

 このことにより噴出向きを反転、急制動等の動作も可能となっている。


 『アクティブシールド』と同様に魔力コントロールで細かい制御が出来、高い推進力と省燃費、更にはある程度の魔力チャージ機能まで有したこの『アクティブバーニア』

 これを回転の反力を相殺させるべく偶数個、今は2発装備することによって、アリア達は空中を矢の様な速度で泳ぎながら、燕の様に身を翻えす高機動性を得ていた。

 この2発の『アクティブバーニア』によりアリア達は空を飛ぶ魔物よりも、速度も機動性も高く成り、その巨乳の所為で、地上をノンビリ歩く事しかできなかったアリア達が、空で圧倒的な制空権を得るに至っている。


 アリア達は、通常時は『魔空膜』の推進力を利用、『水刃刀』のヒレ翼を展開し浮力を補助、非常に省燃費に空中を漂い、緊急時には『水刃刀』を収納し、『アクティブバーニア』にて高機動防御しつつ、『アタックシールド』で敵を砲撃、撃破する戦法を確立していた。


「あーーー疲れた、ちょっと休憩」


 アリアはそう言って、『水刃刀』のヒレを収納すると、そのままノリコの結界内に敷いた茣蓙のシートの上にへたり込む、魔法容量、魔法力共に高い彼女達でも、常に魔力を消費する空中での戦闘は魔力消費による疲労を伴う。


「ふぅ、喉が渇きました、メグミちゃん何か飲み物ないですか? 『アタックシールド』が周囲の水分を消費するからか、空気が乾燥していて喉が渇くんですよね」


リズもヒレを収納しながらメグミの横にスイッと泳ぎ寄る、


「お疲れ今日は大活躍ね、空を飛んでる魔物が多いし助かってるわリズ、アリアさん達もお疲れね、ほらアイスレモンティーが有るから飲むと良いわ、空気の乾燥ねえ、『空水気』なら問題はないんだろうけど、ここみたいな一般の大気の中だとね……水タンクの様な重量物を持って飛ぶわけにも行かないし、こればっかりは定期的に休憩して水分補給するしかないわね」


メグミが収納魔法で魔法瓶を取り出し各自に冷えたアイスレモンティーを手渡していく、


「サンキュー、メグミ! ぷはぅ、生き返るわね! この紅茶、レモンと蜂蜜が良い感じね、甘いのにスッキリしてる。あっ、もうリズったらシュークリーム食べてる! ここらでティータイムだね私達も、私にも一個頂戴、ん♪ サンキュ!」


「『アクティブバーニア』の調子はどう? 下から見る限りは調子良さそうだけど」


「良いねぇ、常に絞って吹かせているだけでも、スピードが段違い、メグミの夢だった空を飛べる機動鎧、コレ完成したんじゃないの?」


ジェシカはシュークリームを受け取りながらメグミに答える。


「ほぼ完成ね、けどあと一歩何かが足りないのよね、今のままだと剣を振りまわすのには少し大型過ぎるのよ、もうちょっとコンパクトに纏めないとね。小型化して分散配置すれば……けどその場合纏めることによる相乗効果が薄れて推力が弱まるのよね」


「三つ纏めた今の『アクティブバーニア』の推力は凄まじいものね、たしか空気の吸引による推力も得てるんだっけ? それは確かに悩ましいわね、吸入口を分散しちゃうとその効果も無くなるだろうし、進行方向に吸引口は向けたいわよね」


「気圧差を利用した効率の良さが売りだからね、けどまあまた何か考えてみるわ、ほぼ九割方完成してるのよ、あと一歩発想の転換が必要ね」


「そうだちょっと相談が有ったんだ、ねえメグミちゃん『水刃刀』のヒレ翼も良いけど、これ『水月』のヒレ翼に変更できないの? 少し設定を弄るだけよね?」


アイスレモンティを飲みながらサンディがメグミに問いかける。


「そうね殆ど一緒だから変更自体は設定を弄るだけで変更できるわね、防御を優先させるか攻撃力を取るかの違いだけね、ただヒレ翼は裏も表も無いから『水月』よりは『水刃刀』の方が良いわよ? 

 『水月』は表からの攻撃の防御に特化してるから裏面の防御が弱いわ、『水刃刀』でも攻撃を受けれる上にこっちは裏も表も無いから防御力の平均値はこちらが上ね」


「両面表の『水月』も出来るんじゃない? メグミちゃんなら簡単に造れそうだけど?」


「出来ますよ、但しその場合今の『水刃刀』の機構じゃあ無理なのよ、3層構造に成るから、もう一層追加する分の機構を組み込まないとダメだったわ、ハードの改造・改修が必要になるわね」


「ああっ、そうか、そうなのね硬い層、粘る層、硬い層にしないとダメなのね、けどそうね3層か、少し燃費が悪化するのかしら?」


「悪化するわね、どうしても3層に成るとその制御の処理負担も燃費も1.5倍に増えちゃったわ。

 ただでさえ常時『魔空膜』を発動させて、『アクティブバーニア』を使用、攻撃も『アタックシールド』で魔力を消費してるからね、そこに1.5倍になった『水月』の魔力消費が加わると魔力の回復よりも消費が大幅に上回って稼働時間が極端に低下するわよ、現実的じゃないわ」


「そうなのね、接近戦は余りないから、折角のこのヒレ翼を防御に使えないかと思ったけど魔力消費がこれ以上増えるのは勘弁してほしいわね、今でさえ相当疲れますからね」


「『水刃刀』でも防御力は結構ありますよ、何せ超高圧の水ですからね、下手な攻撃位平気で弾くわ、けど防御は『アタックシールド』を優先的に使ってね、幾ら防御力が有るって言っても、本物の防具、シールドには一歩劣るわ」


「今のままでも防御力は十分でしょうに、サンディは高望みし過ぎ、アンタもメグミちゃんに感化されてるわ、望みが際限ないの」


「なによ一寸思いついたから提案しただけじゃない、それにジェシカ気が付いてないの? メグミちゃん、私の提案に過去形で答えたのよ?」


「既に試作済みって事? メグミ、あんた本当に際限が無いわね?」


「良いじゃない、折角なんだし可能性があるなら色々試したいのよ!」


「まあいいわその件は、それより、ねえメグミ今日の演習の今後の予定はどうなってるの?」


ジェシカはシュークリームを食べながらメグミに尋ねる、


「そうね、訓練生達も大分回復してきたし、昼前にもう一狩りして、その後一旦20階『一番街』に転送移動してお昼ね、そこで温泉に浸かって一休みしたら、またここに戻って夕方まで狩って、その後は『シーサイド』に戻って夕食よ」


「うへぇ、まだ半分も消化してないのか、冒険者ってのは思った以上にハードだよね」


「ねえ、メグミちゃん、地下迷宮なのに温泉? なの?」


茣蓙の上に座り込んだサンディが尋ねて来るが、


「そんな風に渡されたパンフレットに書いてましたよ? なんでも数年前に温泉が湧いたとかで、この人数で押しかけても平気な位大きなスパリゾートがあるんだって、色んなタイプのお風呂のあるらしいからちょっと楽しみだわ。

 アキさん達が予約してくれてるんだけど、実は私達も『一番街』に行くのは初めてなの、この間この階層に下見に来た時は、各階層入り口の休憩所で済ませちゃったしね」


『一番街』のことはメグミも良くは知らない、すると、


「ああ、数年前に温泉が湧いてね、どうやら地下30階の『灼熱地獄』を経由した地下水があの階層に流れ込む地下水位脈に繋がったらしいよ」


それを聞いていたナツオがフォローしてくれる。


「へえ、地下水が温められて温泉になってるんだ、火山性の温泉じゃないってことは硫黄臭くないのかな?」


「そうだね温かいだけで、地下水だからね、硫黄の香りがしないね、硫黄の香りのする温泉は僕たちの街『ノーザンライト』にあるよ、火山が近くに有るからね、今度遊びにおいで、案内するよ」


「そっちも良いわね、やっぱり温泉っていったらあの香りよね、臭いけど温泉に来た! って感じが良いわ。

 けど取り敢えずは『一番街』ね、ねえ先輩、『一番街』ってどんなところなの? 結構昔からある街なのよね?」


「そうだね、一番上の階層にある街だからね、迷宮内に最初に出来た街だね、そう街の特色ねえ、研究施設が多いかな? 地上に作りにくい研究施設は大概ここにあるからね。地下なので人の出入りを管理しやすいってのがその主な理由だね。それに研究者には引きこもりが多いからね、地下の方が落ち着くって意見もあるね、そうだ前に話した『リッチー』の研究者もここに住んでるよ、あとは魔物の住人も大半がこっちに住んでるね」


「魔物の住人って結構多いんですか?」


「結構多いね、ここより下層で狩りをしている人達も自宅は『一番街』が多いね、なにせ広いからね。まあ行けば分かるけど、慣れないと迷子になる広さだよ、面で言ってもこの『大魔王迷宮』は各階層とも相当な広さだけど、あの階層は立体的な広さなんだ。

 『マジカルブローチ』に地図はインストールしたかな? ナビが無いとちょっと大変だよ、あの階は積層構造でね、街が重なってるんだよ、こう幾つも棚が有る感じかな、其々の棚に建物があって、それぞれ階段やらスロープで繋がっててね、上に昇ったり下に降りたり出来て油断すると直ぐに迷子になるよ。この『大魔王迷宮』で一番迷宮らしい階層だね」


「なのに安全地帯なんですか? それこそ一番迷宮らしい迷宮で魔物が一杯居そうなのに?」


「うーん、あのね、この辺りの階層の魔物はとにかく大きいんだ、だから狭く入り組んだ箇所の多い『一番街』には適さなかったんだろうね、そう言った魔物は入り込んでないんだ。下に降りるにしたがって徐々に大きく成っていく魔物の最初のピークがこの辺りの階層なんだけど、あの地形じゃあ大きな魔物は移動にも苦労するからね、その所為だろうね」


「ピーク? だんだん大きくなって行くんでしょ? もっと下の階層はもっと大きな魔物が居るんじゃないの?」


「ここら辺より下の階層は、大きさよりも強さにシフトしていってここまで大きな魔物が少なくなる、そして又強いまま大きく成って行って、って感じかな、これを繰り返す感じで下の階層に行くにしたがってどんどん魔物が強く、大きく成るんだ。

 で最初の魔物の大きさのピークがここら辺、21階層から24階層なんだよ、25階層からは少し小さくなっていって、その代わり強く、早くなっているね」


「へえ、そんな大きさの波が有るのね、興味深いわ、けど20階層、『一番街』、迷宮に魔物の居ない階層ってのが不思議なんですけど? 元々魔物が居ない階層なんですか? それとも駆逐したの? 迷宮だし魔素の濃さからいっても駆逐しても直ぐに沸きそうなものだけど……」


「いやまあ実際、魔物は今でも居るんだけどね、地下20階層『一番街』元は『精霊の里』って言われてて、精霊型の魔物が沢山いるんだ、けどね、やっぱり精霊なんだよね……『ドライアド』『ウンディーネ』『サラマンダー』『シルフ』『ノーム』『ウィルオウィスプ』『シャドウ』、皆ちょっとした悪戯はするんだけど、魔物になっても友好的でね、先達の冒険者達と仲良くなって、そのまま共存共生して今に至ってるんだよ」


「へえそうなんだ、まあ『シーサイド』でも魔物と共生してるし、そうよね友好的なら共生できるわよね、けど、人間達が勝手に街作って住みついて、精霊たちは文句言わないの?」


「魔結晶を取り込んだ精霊だからね、普通の精霊に比べて自我がシッカリしててね、人間的というか享楽的というか、なんていうか騒がしい、楽しいことが大好きなんだよ。お祭り好き、そうお祭り好きだね、だから文句どころか返って歓迎されてるよ。

 自然に囲まれて静謐な雰囲気の中踊るように歌うように過ごす普通の精霊とはそこら辺が大分違うかな」


「普通迷宮の魔物は地上の魔物に比べて、同じ種類の魔物でも迷宮の魔物の方が狂暴なのに、精霊は迷宮の魔物になっても、その程度の変化しかないのね、不思議だわ」


「精霊自体が希薄な存在って言うか人に認識されて精霊として実体化してる節が有るからね、精霊の在り方は常に人と共にあると言っても過言じゃない、『ママ』を見てれば分かるだろ? 彼女はメグミちゃん達があの家に居るから存在するんだ。

 他の精霊も同じで、他者が居て初めて自然に溶け込んでいた精霊が実体化する、そんな感じだよ、だから彼らは基本的に人間が好きなんだ、悪戯好きの精霊も沢山いるけど、この悪戯は、人間に構って欲しくてしているんだよ」


「なるほどね、精霊で有る以上、精霊としての本質は変えられないから、だから魔物になっても精霊は精霊なのね」


「そう、その通りだよ、だから『一番街』では精霊と共生してるんだよ」


「けどこの階層だけ魔物が小さいのは地形の所為? それとも精霊に合わせた地形なのかしら? この迷宮、大魔王がダンジョンマスターなんでしょ? 何を意図してそんな階層造ったのかな? 聞いてないの?」


「あれ? メグミちゃん知らないのかな? 各地の迷宮を作ったのは其々の魔王なんだけど、維持管理は他の魔族や魔物に丸投げしてるんだよ、これはどこも大体同じみたいでね。この『大魔王迷宮』も維持管理してるのは大魔王じゃないよ。

 まあマスターは大魔王なんだけど、サブマスターを何人か置いて、そっちに運営業務を丸投げして、大魔王は自分の城で悠々自適って感じかな。だからこの迷宮の細かい運営や設定には大魔王の意志は反映されてないと思った方が良いね、だから迷宮の各階層の設定意図は良く分からないな」


「結構いい加減なのね、まあ『水の魔王』知ってるから何となく納得できるわね、迷宮の最下層で待ち構えているのかと思ったら、迷宮の横に別の地下空間造ってそこで趣味全開で植物園やら水族館やら……動物も沢山いて、どこかの動物王国かと思ったわよ」


「魔族だからね? 悪魔が勤勉に迷宮運営に取り込むってのも何か違う気がするだろ? 彼らの辞書に勤勉なんて言葉は無いんだよ」


「まあ魔素を迷宮に流し込んで地上に溢れない様にしてるだけで満足するべきなんでしょうけど、……ほんと良いご身分だわ」


「ねえナツオさん、先ほど言っていた巨大な魔物が多いって、この辺りの階層ってどんな魔物が居るんですか?」


ナツオの解説と、メグミのそれに対する質問を、今まで黙って聞いていたサンディがナツオに質問する。


「そうだね、今後の参考にもなるし『一番街』付近の階層の説明をしておこうか、訓練生もまあ参考程度に聞くと良いよ。


 『一番街』上の階層、19階層は『大猿山』、巨大なサル系魔物の巣窟だ、5メートルクラスがうようよ居るよ、更に階層主は30メートルを超える巨大なゴリラだよ。何処かのビルに登ったら確実にそのビルが折れちゃう様な巨体で、この序盤の階層主の中では最強を誇る。その昔、この階層主が倒せなくて下の階層に進めずに苦労したみたいだね。


 そして一番街を挟んで下の階層は『牛頭鬼・馬頭鬼紛争地帯』、この階層の魔物はあの有名なミノタウロスの牛頭鬼と馬の頭ホースヘッドの馬頭鬼だ、こいつらはお互いに仲が悪くて魔物同士で常に戦争をしててね、広い21階層に砦を幾つも構えてルームの争奪戦をくりかえしてる。


 でもってこいつらもデカい、普通は3メートル級なんだけど5メートルを超える個体も結構いるんだ、更に質が悪いことに殺し合いの成果で、極端に成長した、強い個体が混じってる。その辺になると10メートル級もちらほら居る。

 今回の演習をここでやりたがってた人が若干一名居るけど、馬鹿な事を言っちゃいけない危険だ、訓練生が行くような所じゃないよ。


 それにね何処かの冒険者の集団が最近この階層で大暴れしてね、其々の陣営の砦を一つ吹き飛ばしたらしい、双方に甚大な被害が出て、現在大変殺気立ってるから今侵入禁止階層になってるよ…………メグミちゃん! 何て事をしてくれたんだい」


断定するナツオに対して、


「演習の下見よ! それに私が悪いんじゃないわ! 砦を吹き飛ばしたのはサアヤよ!」


メグミはサアヤを指さして抗議、


「メグミちゃんが両陣営が争ってる戦場のど真ん中に殴りこむからでしょ? 『何勿体ない事してんのよ、私も混ぜなさい! 全員叩き切ってあげるわ!』って止めるのも聞かずに切り掛かるから! 場を治めるのに仕方なくです!」


そういって直ぐに様サアヤも反論する。


「なんでよ、あのまま全部狩っちゃえばよかったのよ、最初に突っ込んだのは私だけど、みんなもガンガン倒してたじゃない!」


「あんな大軍勢に切り掛かったメグミちゃんを放っては置けないわ、皆仕方なくよ!」


ノリコが冷静に指摘するが、


「ノリネエもノリノリでパッカンパッカン頭かち割ってたじゃない! 久々にハンマー振りまくってツヤツヤしてたわよ?」


「『牛頭鬼』と『馬頭鬼』の大群に囲まれて必死だっただけよ、ノリノリだったわけじゃないわ、それにツヤツヤなんてしてません! 助かってホッとしてただけ!」


心外そうに抗議するノリコであるが、若干メグミの指摘に思い当たる節があるのか、誤魔化す様に少し興奮気味に反論する。


「カグヤは一杯暴れられたので満足ですわ、周り中敵だらけで遠慮なく全力で倒せるのって何だかゾクゾクします、偉そうにしていたデカい牛野郎や馬野郎が情けない悲鳴を上げながら地面に這いつくばる様は、なんとも言えない背徳感が満ちていて、楽しかったですわ」


カグヤが思い出したのか若干息が荒く、頬を紅潮させながら呟く、その様子に少し引き気味にアカリが、


「私はちょっとトラウマね、毛むくじゃらの巨人が押し寄せてくるのよ、あれよね、馬並って言葉が有るけど……」


「ストーープッ!! そこまでだアカリさん、子供も居るからちょっと控えようぜ? な?」


 慌ててタツオがアカリの口を塞ぎ止める。最初は少し驚いたアカリだが、その状態が気に入ったのか、放そうとしたタツオの手を自ら押さえて何だか悶えている。


「うっわ、一人だけ良い子ちゃんぶって、タツオだって私に負けない位狩ってたわ、無関係見たいな顔してんじゃないわよ」


「タカノリ達が居るだろうが! 無関係とか言ってねえよ! 下方面に話題が逸れるのを止めただけだ!」


「ん!」


「ほれみろ、ターニャも俺の方が正しいって言ってるだろ!」


「そう言えばターニャも地味に狩りまくってた、特に強そうなのを独り占めする勢いで狩ってたわよね」


「ん!!」


「指揮官クラスの斬首作戦? そんなの指示してないわよ、あれよ指揮官クラスばかり狩るから、統制が効かなくなって途中から逃げる奴が出始めたのよ、あれで場が混乱したんだわ、アレが無ければ延々追加で御代わりが来て良い調子で狩れてたのよ?」


「ん……」


ターニャが自分の失敗を指摘されて、耳と尻尾がシュンっと元気なく下に垂れ下がる。


「落ち込み過ぎよ! ちょっと言い過ぎたわよ、まあ良かれと思ってやったんだから良いわよ、混乱してようが何だろうが私達が全部狩っちゃえばいいだけなのに、なのにサアヤが全部吹き飛ばすから……」


「メグミちゃんあそこで何時まで狩る心算だったんですか? 下見に行ったのよ? 他も回らないとダメなのに、あのままじゃあ延々あそこで足止めでしたからね! お姉さまにも相談して許可を得てから吹き飛ばしましたから、独断じゃありませんわ」


「メグミお前、魔物の死体が魔素に返る間もありゃしねえ位の、累々たる屍の山築いたんだ、あの位で満足しやがれ、どんだけ狩る心算だったんだ? サアヤやノリコの判断は正しかったと思うぜ?」


「サアヤちゃん、先ず吹き飛ばすのを止めようか? なんで砦毎吹き飛ばしちゃうかな、しかも両陣営の砦を……うん、タツオ君、確かに君達の判断はあの局面では正しかったのかもしれない、けどあの局面に至る前に引き上げて欲しかったな……どんだけ狩ったんだい?」


「片方だけ吹き飛ばしたら、陣営のバランスが崩れてダメかと思ったんです、この判断に誤りはなかったと思いますよ、あの時、あの場ではああするしか引き上げるタイミングを作り出せなかったんです」


「正確な数は覚えてねえな、結構な大群同士で戦争してる真っ只中にあの馬鹿が飛び込みやがったからな、両軍合わせて2千匹くれえだったか? 

 わるい、あの場に居た魔物の半分くらいは狩ったかも知れねえ……まああれだ、あの場では仕方なかったんだよ、こっちにはメグミが居るし、牛野郎も馬野郎も血気盛んでな、最後まで引きやがらねえし、ついな、最後の方は確かに逃げる奴も一部に居たが、それで一層大混戦になって、目の前の敵を倒すのに夢中になり過ぎたんだ、反省してる」


「……話が逸れたけど、次だ、その次は『恐竜公園』巨大な恐竜の楽園だね、巨大なシダ植物が生い茂るジャングルに、様々な恐竜が闊歩する階層だね。

 ここも今回の演習の候補だったんだけど……」


 想像以上の倒した魔物の数に、タツオの話を聞かなかったことにしたナツオがサラッと次の階層の説明を始める。


「あの階層は『ラプトル』がねウザいのよ! あそこは、『ティラノサウルス』や『アロサウルス』は素材的にも美味しいし、『トリケラトプス』の肉は絶品よ、『ブラキオサウルス』なんてボーナスモンスターよ! ほんと全体的に良い感じなんだけど、問題は『ラプトル』よ、素材的にも旨味が無いし、弱いくせに集団で一人を集中的に攻撃したりと変に知恵が回るし、足がソコソコ速いくてね、攻撃もヒットアンドウェイでイヤらしいのよ、そして只管数が多いの」


 此方も既に『牛頭鬼・馬頭鬼紛争地帯』の事は如何でも良いのか、メグミがしれっと新しい話題に乗ってくる。


「確かに訓練生に『ラプトル』は流石にちょっと辛いだろうからね、今回の候補から外したんだよね、一匹一匹は大したことはなくても、あれの相手を仕出すとこの人数でも休む暇が中々取れない、疲労で不慮の事故を起こす可能性が高いからね」


「まあアレはアレで良い訓練になるわよ、それよりもドロップが不味いのが一番ダメね、折角だもの訓練生達にも儲けさせてあげたいわ」


メグミにとって大事なのは訓練生の疲労でなく、ドロップアイテムの様だ。


「……まあそんなわけでここに演習場所が決まったんだけど、そうだメグミちゃん、今回の演習、午後からは他の階層に移りたいんだけど良いかな? ここは確かにドロップも良いし、小型の魔物が延々襲ってくることも無い良い狩場だ、こんな大規模演習に適していると言っても良い。

 しかし大型のドロップアイテムの美味しい敵ばかりなのは分かってるんだけど、この子達にも少しは対人戦、人型魔物との実戦を経験させたいんだ」


「人型魔物? 良いの居ましたっけ? 人型魔物は女子禁制の階層の魔物が多くないですか? 人型魔物で女子禁制じゃないのはそれこそ『牛頭鬼・馬頭鬼紛争地帯』じゃないですか?」


「あそこはダメだよ、訓練生にはきつ過ぎる、数は多し、矢鱈とマッチョ、背が高いし、アイツら弓矢や投石機で遠距離攻撃もして来るだろ? 危険だよ」


「じゃあどこですか?」


「少し浅い階層になるけど、余り人気のない地下17階『リザードマン湿地』なんてどうかな? あそこなら他の冒険者の迷惑にもならないと思うんだ」


「ナツオ先輩、『湿地』ですよ? 泥だらけになるじゃないですか、イヤですよ私は! あそこが人気が無いのは『湿地』だからです、分かるでしょ? 絶対イヤです!」


「そうなると弓矢での遠距離攻撃が可成りキツイんだけど地下16階『人馬の森』の『ケンタウロス』になるよ、あそこは本当に弓矢が痛いからね、訓練生達には『アクティブシールド』が有るけど、万が一が無いとも言い切れない、お勧めできないな」


「『大猿山』の地下19階で良いんじゃないですか? あれも一応人型でしょ? 棍棒位だけど武器も使ってきますよね? 偶に斧を使ってるのも居たけど」


「さっきも話したけど、あそこは5メートルクラスがウヨウヨ居過ぎだよ、大きさはこの階層の魔物の方が大きいけど、数が少ない、あっちは数が半端じゃない、不人気階層な所為もあって、本当に数が多い、訓練生には危険すぎるよ」


「何だか不人気階層ばっかりですよね、この辺りの階層って」


「まあね、魔物が大きかったり、攻撃が痛かったりとね、中級冒険者向けの魔物が多いからね、どうしてもね」


「中級者の人達は普段何処で狩ってるんですか? 不人気階層ばっかりだと狩場がないじゃないですか?」


「ん、だから『黒銀』の上の方、中堅辺りから他の街の迷宮に行くようになるんだよ、『大魔王迷宮』は丁度その辺のクラスが狩るには美味しくないからね、男の子なら地下13階『オーガの山』である程度オーガを狩り慣れたら、装備もそろってくるし、他の街の迷宮に遠征に行くね」


「女子だとどうなるんですか? 『オーガの山』は女子禁制ですよね?」


「地下12階の『迷宮鉱山』辺りが人気だね、『黒鉄鉱山』と一緒でコボルト系だしね、そうだ、ちょっと聞きたいことがあったんだ、最近この『迷宮鉱山』に『コボルトロード』が出るって噂になってね、ちょっと不人気階層にになりつつあるんだ」


「『コボルトロード』!! 美味しいじゃないですか! 何で不人気なのかしら?」


「『コボルトロード』が美味しいのはメグミちゃん位だからね? 『黒鉄鉱山』の地下10階ほど精強な取り巻きに守られていない点は美味しいのかもしれないけど、あの階層、あそこは沢山いる雑魚も結構強いからね。

 基本的に『コボルトソルジャー』クラス以上しかあの階層には居ない、『セイバー』『アーチャー』『ランサー』なんかは『迷宮鉱山』にしかいないコボルトだ、でもって中々に強い、コボルトは武器が強力だからね、攻撃力が高いんだ。

 更に『アサシン』『キャスター』が嫌らしい攻撃を仕掛けて来るだろ? 他のマジックキャスター系も割と居るし、あそこで修行すると、対人戦の良い練習に成るんだよね。 


 けどそんな階層で『コボルトロード』が場所を定めずにウロウロしてるんだ、万全の体勢で狩りに挑んでいても、不意に『コボルトロード』なんかが参戦して来たら、初級冒険者は逃げるのでやっとだろ、下手したら全滅も有りうる。


 元々この階層の領域主は『コボルトヒーロー』で、階層主は『コボルトキング』、『コボルトロード』は黒鉄鉱山の主で、この『大魔王迷宮』には居ない魔物なんだよ、なのに何故か最近『コボルトロード』の目撃例が増えてね、どうもこの『コボルトロード』、領域主や階層主に戦いを挑んだりしてるのが目撃されてる、ちょっと行動が不審でね」


「魔物同士で戦ってるの? 何かしら? 武者修行? 『牛頭鬼・馬頭鬼紛争地帯』でも思ったけど、魔物も成長するんですよね、あそこは魔物同士戦い合って、明らかに発生直後よりも強く成ってる個体も多かったし」


「そうなんだ、魔物は発生して時間が経つと、魔素を吸収して魔結晶が強化されるから、何もしなくても強く成る、けどね魔物同士で闘うと、相手の魔結晶を食べたり、戦い方を学んだりしてね、異常に強力な個体が出てきたりするんだ、『ネームド』って知ってるかな? 一部強力になり過ぎた魔物が固有の『名前』を得て、殆ど別種族のように強くなる、これらの魔物を『ネームド』と言ってね、有名どころは高額な賞金が掛けられていたりもするんだよ」


「名前が付いただけで強く成るの? ん? 何だか剣の精霊みたいね……そうか剣の精霊と同じで『名前』を得て、存在が確定することによって強く成るのね。魔物って魔結晶を核に作られた仮初の命って感じだものね、それが『名前』を得て仮初じゃなくなるのね」


「……本当にメグミちゃんて教えなくても正解に辿り着くね、話の続きなんだけどね、この『ネームド』の厄介なところはもう一つあってね。

 知ってると思うけど普通の魔物は倒すと魔結晶やドロップアイテムを落として、後は魔素に分解されて消えてしまう。その魔物はまた同じ魔物として生まれ変わってるのかもしれないけど、実際の所は分からない、区別がつかない。


 けど『ネームド』は違う、一度倒されようと、暫くしたら再び同じ『ネームド』として復活するんだ、僕達が『復活』『蘇生』で生き返るのと同じで、生命力を消費するのか、復活直後の『ネームド』は以前より弱くはなってるみたいだけど、知恵って言うのかな、経験したことは覚えているみたいなんだよ。

 一度『ネームド』になると段々と強くなって行って、本当に厄介なんだ、まあ復活の度に何回も倒すと、徐々に復活のインターバルが長く成るから、それで何とかなってるけど、『ネームド』は発生させない方が良い」


「その『コボルトロード』は『ネームド』に成りつつある?」


「そうなんだよ、いや既になっているのかもしれないけどね、ねえメグミちゃん、メグミちゃんは『黒鉄鉱山』の2階で『コボルトロード』を倒したんだよね?」


「そうよ、あの時は美味しかったわ、あれで一気にお金の回りが良くなったもの、『カナ』を作れたのも『コボルトロード』のレア素材の御蔭ね」


「あの時あの『黒鉄鉱山』には最下層の『コボルトロード』と地下2階の『コボルトロード』、二人『王』が居たことになる、けどね『王』ってのは常に一人、二人も『王』は要らないんだ、その後の調査でも最下層には『コボルトロード』は一匹しか居なかったそうだよ」


「『黒鉄鉱山』と『大魔王迷宮』は結構近いから、もしかしたらこっちに沸いた『コボルトロード』はあの時の『コボルトロード』って事かしら?

 イレギュラーで沸いたから『黒鉄鉱山』からはじき出されて『大魔王迷宮』に沸いている? うんあり得るわね、そもそも『大魔王迷宮』と『黒鉄鉱山』は地脈で繋がってる、だから『黒鉄鉱山』に魔素が流れ込んでるんだし、そうね、きっとそうよ! で武者修行してるの? ふむ、中々根性のある奴ね、弾き出されても不貞腐れる事無く努力して前に進むその姿勢には好感が持てるわ、その内様子を見に行ってみようかしら」


「その可能性が非常に高いと組合では考えているようだ、けどなんだろう、メグミちゃんがその『コボルトロード』に手を出すと、確実にその『コボルトロード』が『ネームド』に成る気がするんだよね」


「それはそれで良いわね、何時でも小金を稼ぎに行けるなんて夢の様だわ」


「地下12階で普通に狩りしてる子達には悪夢だよ、もしその『コボルトロード』が『ネームド』になった場合は、何としてでも下層に転移させないとダメだろうね、このまま地下12階に居座られたら被害者が出るよ」


「転移させても倒されたら又地下12階に沸くんじゃないんですか?」


「『ネームド』は違うんだ、発生した階層じゃなく、倒された階層で沸くんだよ」


「ふーーん、やっぱりアレなのね、そうか、魔結晶じゃなくてアレがそうなのよ」


「ん? なんだい? 何か心当たりがあるのかな? この現象、組合でもまだ誰も原理を解明してないんだけど、なにか知ってるのかな?」


「ん、まあまだ確信してるわけじゃないので、また今度ね、もう少し調べて何かわかったら話しますよ」


「けど下層に転移ってその『コボルトロード』が今度は他の魔物に狩られるように成っちゃうんじゃないですか? それに今は周りに同じコボルトが一杯居るのに一人に成っちゃう、一人は寂しいですよ、辛いです。今は人間をそこまで憎んでないのかもしれませんが、そんな境遇に落とされると人間を憎んでしまうんじゃないですか?」


サアヤが寂し気にナツオに尋ねる、


「サアヤちゃんは優しいね、確かにその点は留意しないとダメだろうね、けどねこの『大魔王迷宮』には現在確認されてるだけでも3階層、コボルト系の魔物の沸く階層がある、地下12階の『迷宮鉱山』地下37階の『ミスリル鉱山』地下78階の『オリハルコンの洞窟』

 それぞれコボルト系の魔物が沸くんだ、『コボルトロード』クラスの『ネームド』なら『ミスリル鉱山』辺りでもやっていけると思うんだよね、あそこの雑魚よりは幾分『コボルトロード』の方が強い、あそこなら一人で寂しいとかはないと思うよ、けどその場合、魔銀、魔法銀を取り込んでその『ネームド』が更に強化される恐れもあるし、まあもし本当に『ネームド』なら先ずは会話が出来るか確認してこちら側に引き入れられるか試してみるけどね」


「ん?! 魔銀? 魔法銀? 何方もミスリルじゃないの?」


「魔法銀はミスリルの事だけど、魔銀は違う、普通の銀が魔素を吸収し変質した合金なんだ、この地域ではその見た目から『黒銀』とも呼ばれているよ、普通の銀よりも遥かに硬く、魔法との相性も良い、ただどうしてもミスリルには及ばないからね、今一歩メジャーになれない金属なんだよ。

 魔鉄よりも魔法の伝導率なんかで優れていて、魔鉄とミスリルの武器の中間となる武器が作れるんだけど、どうもね魔銀を飛ばしてミスリルに行っちゃうんだよね」


「勿体ないわね、魔鉄と一緒で銀を迷宮に置いておくだけで魔銀に成るんでしょ? ならもっと使えば良いのに……素材屋にも売ってないわね、私見たこと無いわよ?」


「魔銀は武器よりも装飾品としての価値が非常に高くてね、しかも地域外で人気が高い、金や白金と組み合わせることによって、より金や白金が目立つだろ? それでいて銀のように変色もしない、硬い、魔力を通しやすいって特色が受けていてね。

 魔法を込めたアクセサリーに加工されて主に地域外に輸出されている、だから滅多に素材屋には並ばない、態々素材集めをするなら同じ個所で採れるミスリルを武器には使うだろ? 適材適所だよ」


「あとメグミちゃん銀は魔物にも人気が有るのよ、特にコボルトの大好物、食べられちゃったり、取られたりするから迷宮内には置いておけないのよ、魔物に不人気の鉄とは違うのよ」


「今度は鉄が不憫に思えてきたわ、魔鉄は良い素材よ、魔鉄で造った魔鋼は本当に良いわ、使い込めば使い込むほど手に馴染んでどんどん良くなっていくのよ!

 鋼の秘密を知っているか問い詰めたいところね!」


只の金属素材フェチ、あらゆる金属素材をこよなく愛するメグミに周囲は若干引いていた。

 その空気を変える様にノリコが、


「ねえナツオさん、『一番街』の魔物の住人の事をもっと詳しく教えて、この地域の魔物の住人は殆ど、この迷宮の地下街に住んでいるんでしょ?」


「そうだね、『シーサイド』は例外的に魔物の住人が地上に住んでいるけど、『シーサイド』は南の孤島、島だから地域外の人間の出入りが少ない、だからマーメイドやスキュラ、マーマンが普通に街中を歩いても平気だ、けど『ヘルイチ』はね海外の人の出入りも有るから、仕方なくこっちに住んでもらっているんだ、怯えちゃうからね、よその地域の人は魔物を見ると」


「ねえ、この『大魔王迷宮』は矢鱈広くて天井も高いし、天井やら色々光ってて外と殆ど変わらないけど、けどやっぱり地下じゃない? 偶になら良いけど常にこの迷宮内だけってのは不満は出ないの魔物の住人から? 彼らだって太陽の下、日の光を浴びたいとか、広い大空の下、羽を伸ばしたいとか思わないのかしら?」


「ああ、その点は平気だよ、場所は秘密なんだけど、地上にも魔物の住人の街があるんだよ、そこで地下街の魔物の住人も偶に羽を伸ばしてるし、それに『シーサイド』も有るからね、あそこは水棲の魔物住人だけじゃなくて、他の魔物が、そこら辺歩いていても地域外の人が居ないから平気なんだよね、良く魔物の住人が観光に行ってるよ」


「そうなの? 見かけなかったけど? ノリネエは見かけた?」


「私も見かけてないわね、サアヤちゃんは?」


「うーーん、マーメイドやスキュラは結構見かけましたけど、他となると見てませんわね」


「それはね、訓練生達、地域外のお客様を迎えて居たからね、冒険者と同様に魔物の住人達にも遠慮してもらってたのさ」


「なるほど、その所為か、因みにどんな種族の人達が居るの? それこそ訓練生達に事前に伝えないとダメよね? 驚いて斬りかかったりしたら大変だもの」


「その点はメグミちゃんが一番危険だわ」


すかさず入ったアキの突っ込みにメグミが食って掛かる前にナツオが、


「そうだね、すっかり忘れてたね、うーん、『シーサイド』に居る種族を除いたら、さっき話した精霊達、『ドライアド』『ウンディーネ』『サラマンダー』『シルフ』『ノーム』『ウィルオウィスプ』『シャドウ』。

 それと『ナーガ』『リザードマン』『アマゾネス』『アラクネ』『ハーピイ』『セイレーン』『バードマン』『牛頭鬼』『馬頭鬼』『ケンタウロス』位かな? ああ、『ジャイアント』や『サイクロプス』も居るね、他にも珍しい種族が一杯居るけど、多いのはこの辺かな?」


「ん??? 女性型魔物が若干多いような……」


「まあね、日本人だからね、仕方ないよね!」


「何が仕方ないのか詳しくは突っ込まないけど……まあ私も嬉しいから良いわ」


「メグミちゃんは魔物もいける口なのかな? 見境無しかい?」


「ふっ、可愛いは正義なのよ、そこに種族なんて関係ないわね! ってアマゾネスも魔物名なのね、只の女傑一族じゃないの? 魔物? そう言えばここ『大魔王迷宮』にもそんな階層が有ったわね」


「地下18階層『アマゾネスの村』だね、あそこは男子禁制だ。まあ止めても入る馬鹿が居るけどね……」


「……居るんだ、って入ったらどうなるんです?」


「大概枯れ果ててセーブポイントに戻ってくるね、で、その後は女性恐怖症になるね、美人に囲まれるハーレムを夢を見て入るんだろうけど、迷宮に沸くのは『魔物』だからね?

 まあ『一番街』に住んでる『アマゾネス』が美人揃いだからね、そう思っちゃうのも無理はないんだけど、あの子達は色々と品種改良じゃないけどされてるんでね、一緒にしちゃダメだよね」


「迷宮の魔物のアマゾネスに美人は居ないの?」


「聞いた話になるけどね、領域主の『ジェネラルアマゾネス』と階層主の『アマゾネスクィーン』は可成り美人だそうだよ、『一番街』のアマゾネス達も元はこの『ジェネラルアマゾネス』や『アマゾネスクィーン』ではないかと言われているね」


「品種改良だっけ? 色々やって元が分からなくなってるの?」


「いや魔物の住人の中にはね、元はっていうか今もかもしれないけど『ネームド』が結構いるんだよ、さっきも話したけど、『ネームド』は元の種族とは殆ど別種の種族だ。マーメイドなんかもそうだけど、『ネームド』やその子孫は美形が何故か多い、優れた因子を持つからこその『ネームド』なのか、『ネームド』に成る際に、そう進化するのか分からないけどね。

 でだ、『一番街』の住人のアマゾネス達は『ネームド』、若しくはその子孫が多いみたいなんだよ、『ネームド』に成る前は恐らくアマゾネスの上位クラスだったと思うんだけど、『ネームド』に成ると元が分からないんだよ、『アマゾネス』で有ることしか分からないんだ。

 強く、又知恵を持ち、知能の高い彼らは、人間との敵対よりも、友好選んだんだよ、お互いにWIN・WINな関係を築こうとしてるんだ。

 そもそも『ネームド』は迷宮の法則から外れた魔物なんだ、だからか只人を襲う他の魔物とは違う、友好を結ぶことも出来る。知能が高くて会話が出来るからね、そう考えるとコミュニケーションって大切だよね。まあ只管、人間を増悪して戦う『ネームド』も居るけどね」


「まあ元が何であれ『一番街』のアマゾネスは美人が多いのね!」


「……余り街中で問題は起こさないでよね? あそこには『アマゾネス』ばかりが住む区画が有るからね? 余り変な事をすると集団で襲ってくるよ」


「美人が集団で襲ってくるの!? なにそれ天国?」


「あああっ! そうだった、メグミちゃんにこれは逆効果だった!」


「メグミ! アマゾネスは戦闘特化の種族で強いのよ、女傑一族って認識も間違いじゃないわ、この地域のアマゾネスは百戦錬磨の上に冒険者をやっていて様々な恩恵で強化されてるんだから! 中級どころか上級冒険者も居るのよ! だから怒らせちゃダメ!」


「なにそれ凄い! え? そこら辺で野試合が好きなだけ出来るってこと? しかも勝ったら、グヘヘな事をし放題?! なによ天国はそこにあったのね!!」


「あああ……エミッ!! だからメグミちゃんにアマゾネスの説明は逆効果だって!」


「しまったぁ、そうかメグミちゃんは戦闘狂な上に色魔だったわ! ってすっかり性欲戻ってるじゃない! どういう事なのよ!」


頭を抱えるエミがメグミに詰め寄るが、


「ああ、それは『ママ』に協力してもらって、もうすっかり元通りですよ」


「最近『ママ』がメグミちゃんの顔を真面に見ようとしないのよ……何をしたの?」


「お姉さま聞いてはダメ! ここは『ママ』の名誉の為に聞かないで!」


「失礼な! 私だって何でもかんでも喋ったりしないわよ! ただ、そうねノリネエもきっと母乳が出るわ! これは確信に近いわね!」


「喋ってます、メグミちゃん駄々洩れです!」


「母乳ってメグミちゃん、私、まだ子供は産んでないわよ? それどころか……」


 ノリコは自分で言っていることに気が付いたのか、ポッと顔を真っ赤に染めて、手で顔を隠して小さくなっている。その胸で圧迫されている膝の上で眠るソラは、若干苦しそうな、気持ちよさそうな複雑な寝顔をしている。


「多分子供を産んだかどうかは母乳の出る出ないに関係ないのよ、乳腺がシッカリ発達していれば、ホルモンバランスか何かのきっかけで母乳は出るわ! アリアさん達だって未婚で出産経験もないもの! そう私は『ママ』で確信に至ったわ! ノリネエも出る! 間違いなく出る! そして出るならぜひ飲みたい! いいえ! 違うわね、絶対に飲んで見せるわ!」


「なあメグミ、気持ちよく宣言しているところ悪いがな、ここには確かに女が多い、訓練生も女ばかりだ、だけどよ、俺達男も居るんだ、なあ、どうしてくれるよこの空気!!」


タツオの言う通り男子メンバーは顔を逸らし、顔を赤くしている。


「ハンッ、知ったこっちゃないわね! 良い? 全世界の美女は全部私の物なのよ? それを如何しようが私と彼女たちの間の問題よ、野郎なんざお呼びじゃないわ!」


「確定なのか? いや全部って、其々事情があるだろ? お前の一存でなに宣言してんだ?」


「いいのよ、出会った美人を全部口説き落とすから! そうすれば全部私も物も同然でしょ? だったら全部私の物って言っても差し支えないわね!」


「いや差し支え有り過ぎるだろ! お前元に戻るどころか悪化してるじゃねえか!」


メグミとタツオが何時ものように口喧嘩をしている、そんな最中、


「タカノリ君、こっちに来きなさい、シュークリーム美味しいわよ」


「なあサアヤ姉ちゃん、何だか周りの音が聞こえないんだけど? メグミ姉ちゃん何か騒いでるけど、全く声が聞こえないよ? なのにサアヤ姉ちゃんの声だけは聞こえるんだけど……」


「あっちは子供が聞いてはダメな、そう害になることを口走ってますからね、遮断しました。放っておいてこっちで御茶にしましょう」


「ん?」


「今は監視は良いからターニャちゃんもこっちで御茶、貴方も聞くべきじゃないわ、はいシュークリーム」


「ん♪」


嬉しそうにシュークリームを二人が頬張っていると、


「あ!! ずっるーーいぃ! ヴィータがこんなにがんばってるのにサアヤたちだけシュークリームたべてる!!」


「あ、ヴィータちゃん、ご苦労様、アイテム運び大変だったわね」


「ねえサアヤ! よくかんがえて! ヴィータちっちゃいのよ? なんであんなおおきなのはこばなきゃだめなの!!」


「でも甲殻は軽いでしょ? 無理な大きさの物は運ばなくていいから小さなものだけでも運んでくれると助かるわ」


「かるくてもかさばるの!! とべないでしょ!! もういや! はたらきたくない、こんなおおきいのはこべない!!」


「頑張ったらもう一個シュークリームあげるわよ?」


「ふんっ! わたしはそんなやすいおんなじゃないわ!」


「さらにドン! 今頑張ると追加で三個付いてきます!」


「なっ! まじ! さんこもくれるの!! はうぅぅぅゆめのよう!」


「ヴィータお前ちょろいな」


「タカノリのぶんざいでなにいってるの? あんたはいっこでがまんするのね! わたしはからだがちいさいから、あんたいじょうにいっこがおおきいのよ、どう! おとくよ!」


「それって良いことなのか? お得なのかなぁ?」


「メグミがそういってたわ、たぶんそうなのよ!」


「ねえ、サアヤ姉ちゃん、メグミ姉ちゃんって結構滅茶苦茶なの?」


「メグミちゃんはね、剣の腕以外は見習ったらダメな大人よ」


「へぇそうなのか、今までの姉ちゃん見てたら、まあ何となく納得できちゃうけど、って、あっ! メグミ姉ちゃんが駆け出した? え? 何あの速さ」


 メグミが突然、矢が飛ぶような速さで駆けだす、余りの突然の出来事に皆唖然とそれを見送る事しかできなかった。

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