第113話『不落要塞』

 ノリコ達の嘆きが漏れる中、ナツオが励ます様に、


「まあまあ、そんなに落ち込まないで、取り敢えずは『振動剣』が有るからね、納期はそれほど急いではいないよ、差し当たり、この予備の太刀と刀をウチの前衛向けに貰っていいかな?」


「ちょっと待てよナツオ先輩、其々のギルドに1本づつだろ! 独り占めはズルいぜ!」


『暁』のギルマス、ヒトシからナツオに物言いがつく、


「そうだな、ここは公平に分配すべきだ、『北極星』『暁』『戦慄の挨拶』そして俺達『昴』、丁度4つじゃないか? ウチは出来れば太刀が欲しいな、まあ刀でも良いけどその場合はノブヒコ専用だな、刀身の長さはある程度自由に変えられるとしても、やはり刀の柄の短さはな……」


「ウチは刀でも良いわよ? サオリにぴったりだし、まあ『北極星』も刀でも良いでしょう? アキは片手剣、片手盾スタイルだし、片手で振れる刀でも良いと思うわ」


「そうね私は刀でも良いわね、メグミちゃんに作って貰ったこの盾『不落要塞』を手放すのも惜しいし、少し刀身の水分量を調整すれば刀でも使えるわ」



 この異世界にはよくあるゲームの様な、壁役、盾役といった種類の役割はない、この階層の魔物もそうだが、巨大な魔物、その圧倒的な魔物との質量差故に、攻撃を受け止める事が出来ないのだ。


 ゴブリン・コボルト等、余り大きくない魔物相手の戦闘では確かに盾は有効だ、人間同士の争いでも良く使用されている、しかしこの街の冒険者には盾は不人気なのだ。

 何故ならオーガクラス以上の大きさの魔物の攻撃を真面に盾で受ければ、盾毎腕が粉砕される、例え盾が粉砕されない様な、強固な材質であろうとも、この階層の10メートルクラスの魔物の攻撃、その衝撃を支えられる腕の筋力は例え各種魔法、武技、加護で強化され、恩恵で底上げされようと人間にはない。良くて粉砕骨折、運が悪ければ盾毎腕を持っていかれ、生きたまま腕を引きちぎられる、地獄の苦しみが待っている。


 故にこの街の前衛は主に敵の攻撃を受け流す等正面から受け止めず、そもそも攻撃自体を避ける方向で戦っている。この異世界の、魔物との戦闘において、攻撃は受け止めるものでなく、避けるものなのだ。

 前衛は敵を『威嚇』して引き留めるだけでも『優秀』とされる。明確な後衛と言った役割も無い為、例え敵が後方に逸れようと各自で対処できる、自衛能力の無いものなど冒険者の中には居ない、それで十分なのだ。前衛は前に出て戦う人、その位の意味合いしかない。近接戦闘職と言った方が意味的には正しい。


 しかし盾自体は魔物の遠距離攻撃に対しては非常に有効な防御手段で、遠距離攻撃をして来る魔物の居る階層ではその防御手段として、その時だけ盾を装備するものも多数いる。だが、その重量故の動きの制限、又片手が盾で塞がることによる攻撃力の低下等、デメリットも多く存在し、それを嫌った冒険者は、遠距離攻撃も、武器で受け流す、又は避けることによって、盾を装備せずに済ませている者が大半であった。


 その点で、メグミ達が開発した『アクティブシールド』は画期的だ、フロー機構により動きの制限がなくなり、魔力制御コントロールで両手が自由に成るため攻撃力も下がらない。欠点を完全に克服した、『夢の盾』それが『アクティブシールド』だ。


 そしてアキの装備する盾は更にその上を行く、左手の籠手と連動して動くフローティングシールド『不落要塞』は、メグミ渾身の一作である。

 積層フローティング構造のこの盾は、片手盾としての物理的な硬さだけでも相当なものだがこの盾の神髄はそこではない。


 盾の先端に取り付けられた『パイルバンカー』を地面に撃ち出し、突き刺して固定、更に4つの『ワイヤーアンカー』を射出して固定された盾は、その積層構造の盾をが展開され、更にアキ専用の『アタックシールド』2枚とその専用『フローティングアーマー』とも連動、此方も積層構造が分離展開し、装備者の周り全周を覆い、それらの浮遊シールドが積層立体魔法陣を形成、新たにメグミとサアヤで開発した専用結界魔法『不落要塞』を発動することで圧倒的な防御力を得るのだ。

 又固定に使った『パイルバンカー』と『ワイヤーアンカー』は結界維持の補助の為、地脈から魔力を吸い上げる機能まで持たしている。

 物理的にも魔法的にも極めて強固なこの『不落要塞』発動時は、巨大なこの階層の魔物であろうと、その攻撃を防ぎ、突進を受け止められる、まさに『要塞』なのだ。地脈からの魔力の吸い上げの補助が有っても魔力消費量が多く、連発は出来ないが、壁役、盾役が出来る、稀有な盾なのだ。


 この『不落要塞』、本来は魔法名なのであるが、アキが、


「この盾の名前も『不落要塞』でいいじゃない、良い名前だと思うわ、この発動展開時の見た目にも良く合ってるし、これで良いわ」


そう言って名づけてしまった為、非常に紛らわしい。


「ええっ、綺麗な花を、牡丹やバラをイメージした防具なのになんかちっとも綺麗な名前じゃないわね、魔法が発動した時には、花弁が周囲を覆ったような、花が咲いたように見えない? 見えるわよね? そもそも白金に輝く、綺麗なデザインの防具に要塞はないわ」


「メグミちゃん、使用者は中からしか見えないのよ? まるで白い綺麗な壁に囲まれたような、そうね例えるなら薄っすら外の光の漉ける、雪のカマクラの中に居るような気分よ?」


「ならカマクラで良いじゃない?」


「それは流石に無いわ、簡単に突き崩れそうじゃない、まだ『不落要塞』の方がマシよ、それに響きがカッコいいじゃない」


 この盾には、ナツオの提供した超激レア素材の『雪女の情熱』と言う、冷たいのか熱いのかわよくわから無い宝玉を使用している、この宝玉、その名前に反して極めて優秀な素材で、非常に魔法容量、魔力伝達率が良く、制御魔法球と魔力チャージ魔法球を兼ねることが出来、この燃費の悪い『不落要塞』一回分の魔力チャージが可能であった。

 この為、緊急時で魔力切れ状態であっても『不落要塞』を発動でき、体制を立て直す時間を稼ぐことが出来る仕様となった。

 更に専用『アッタックシールド』にも此方も超レアな『胡蝶の幻夢』と呼ばれる宝玉を使用、又専用の『フローティングアーマー』にも激レアな『天使の雫』と呼ばれる宝珠を使用し、メグミ曰く、


「この防具、防御力だけは私史上過去最高だわ、超激レア素材のオンパレードに興奮して思わず作っちゃったけど……値段? 考えちゃだめよ、売値とか想像したくないわ、最新の戦車が買えるんじゃない? まあ素材は持ち込みだからね、手間賃だけで良いわ」


「メグミちゃん、今回のこれはこの依頼の報酬だからね、支払いは冒険者組合だよ、遠慮なく吹っ掛けると良い」


「そりゃ冒険者組合払いなのは分かってるけど……良いの? ナツオ先輩、この間、アツヒトさんが現金が無くて困ってるって言ってたわよ? 『マジカルブローチ』の報酬すら現物支給になったんだから」


「はぁ? んな訳ないでしょ、これでもこの地域の冒険者組合の年間予算は30兆円だよ?

 どうせアツヒトの自由に出来る予算が底を付き始めただけでしょ、申請すればまだまだ予算は下りるさ、アレだね、体よく曰く付きの事故物件の処分に使われたね」


「なっ、やっぱりそうなのね! ……まあ良いわ、他にもお金は入ってきてるし、この防具一式の手間賃もアドバイスに従って吹っ掛けるわよ!」


 そんなやり取りもあったが、その他素材も『白金竜の鱗』や『アダマンタイト』『ヒヒイロカネ』とこれでもかとレア素材を使用したため、『北極星』のアスカや『昴』のゴロウ等、普段から盾を愛用している者から購入希望、量産要求も多いのだが、


「量産は無理ね、廉価版も考えてるけど、取り合えず他の素材で代替できる代物じゃないわね、そうね素材を揃えたら作ってあげてもいいわよ? そもそも量産出来るなら自分達の分を真っ先に造るわ……なんで私、他のギルドの防具、全身全霊懸けて作ってんだろ?」


「ん!」


「え? ターニャも欲しいの? アンタの刀は両手でも使うでしょ? 盾なんて斥候に必要なの? 邪魔なだけでしょ? え? 白? 白色? ああ、『白金竜の鱗』ね、確かに白くて綺麗だけど、これ超激レア素材よ、ってかナツオさん、なんでこんなにレア素材ばっかり持ってるの? 量は少ないけど、質は圧倒的よ? 冒険者組合が持ってたレア素材よりランクが高いんだけど?」


「ん? そりゃ10何年冒険者やってるからね、その成果かな? まあ今まで加工が難しくて死蔵してたってのもあるけどね」


「それを惜しげもなくアキさんの為に使っちゃうんだ……リア充爆発しろ!!!」


 そんな『不落要塞』であるが未だ、実戦での使用例はない、盾としての『不落要塞』は装備し使っているが、魔法の『不落要塞』は使用していない、使うような窮地に陥っていないことも有るが、使わなくても十分なのだ。


 確かにアキは防御の為に敵の攻撃を盾で受け流したりもしている、しかし現在その主な用途は武器だ。盾に装備された『パイルバンカー』は非常に優秀な武器になった。『パイル』射出時の衝撃はフローティング機構と極めて優秀な制御魔法球による慣性制御と重力制御によるカウンターウェイトにより低減される、これらの効果により攻撃を受け流した際のカウンター攻撃として『パイルバンカー』を自身の体勢を気にすることなく気軽に使用出来、更に超激レア素材、『鉄鋼竜の牙』で造られた『パイル』は魔物の強固な外殻に容易に風穴を空ける。


 この素材『鉄鋼竜の牙』、殆どの工具が刃が立たない程硬く、傷すら付けるのが困難なほどの強度を持つ。竜の体の部位で最も硬い牙、更に竜の中で最高硬度を持つとされる『鉄鋼竜』の牙は通常では加工困難な素材であった。

 しかしメグミは鍛錬すら困難なこの素材を、地味に『斬鉄剣』を発動させた手作業でコツコツと切削加工し、この盾に『パイル』として装着したのだ。


 また、この超激レア素材特性もあって、その地脈からの魔力吸収機構は魔物相手でも機能し、攻撃をしながら相手の魔力を吸い取るという、嫌らしい機能を持った、非常に強力な武器として機能している。

 更に『ワイヤーアンカー』は中距離射撃武器として使用し、敵に射出したワイヤーに『電撃』を流して敵を気絶させたりと、盾としての活躍より武器、補助武器としての活躍の方が目立っている。


 この『パイルバンカー』は特に男子に人気が高く、籠手に『パイルバンカー』だけでも装備出来ないかとの要望も大きいのだが、


「バカ言ってんじゃないわ、『パイルバンカー』の衝撃嘗めんじゃないわよ、こんなモノ普通に片手で持って扱える訳ないでしょ、超激レア素材を使ったバカげた演算能力の制御魔法球の御蔭で、フローティング制御、慣性制御と重力制御までやってるから片手で支えれるのよ、普通に撃ち込んだら腕が折れるわよ? 今物理的な金属のカウンターウェイトでの量産型も試してるけど、重すぎて片手じゃ無理ね……分かったわよ、そんなモノ欲しそうな目で見るんじゃないわよ、何か方法を考えてみるわ」


「ん!!」


「だから無理よ、何かアイデア思いつくまで今ある素材じゃあ無理なのよ」


「ん……」


「……ああもうっ! 分かったわよ『パイルバンカー』は無理だけど、ちょっと思いついたことが有るからそっちで我慢しなさい、ナツオ先輩、この辺の素材の余った物、貰いますよ? ちょっと試作したいものがあるんで」


「まあ構わないけど、そんな小さな鱗の切れ端じゃあ大きさ的に小型の盾も難しいよ? 籠手でも作るのかい?」


「まあ似たような物です、ちょっと工夫しますけどね、ターニャがこの素材、気に入った見たいなんでね……まあ楽しみにしていてください」


「ん♪」



「そうよね、アキのその『不落要塞』を手放す選択肢はないわね、何そのチート盾、『パイルバンカー』だっけ? 凄まじい貫通力ね、どうなってんのこれ?」


エミが羨ましそうにアキの『不落要塞』を触りながら尋ねる、


「ああ、それは仕組み自体は『ハープーンガン』の応用ですよ、水を水蒸気爆発させてそれでパイルを撃ち出しているんです。火薬を使ってないので盾が炎で炙られても、衝撃を受けても安全ですね、良くロボットアニメで盾に爆発物仕込んでたけど、あれ危なくないのかな? 攻撃受けたら爆発して腕ごと吹き飛びそうですよね」


メグミはがその質問に答える、


「なるほど『ハープーンガン』か、『アタックシールド』と爆発の原理は一緒なのね、けどこれ氷の『パイル』を撃ち出すんじゃダメなの? そんな武器も作れそうだけど……」


『パイルバンカー』の量産が無理なのはエミにも伝わっているのか、何か良い方法は無いかと『氷のパイル』というアイデアを出すが、


「無理ですね、この口径の『パイル』を撃ち出す衝撃力は半端じゃないですから、氷を魔法で硬化させても、爆発の衝撃に耐えるだけの強度をこの大きさの『パイル』に持たせたら、その硬化させる魔力だけで燃費が極悪になります。

 『ハープーンガン』の口径も今の大きさに決まったのはその銛の強度の問題が大きいですからね、ライフル型の口径ぐらいが限度ですね。

 後はやっぱり『パイル』、杭ですか、これの材質が何であれ、この口径になると反動、その爆発の衝撃と、撃ち出された『パイル』の反動が半端じゃありません。45口径の銃を片手で撃つバカは居ませんが、それでも11ミリ程。これ、この『パイル』45ミリですからね? 戦車とかそう言ったのに付ける高射砲とかの口径でしょ?

 人間が片手でどうこうしようって口径じゃないんですよ」


「アキの『不落要塞』はその無理難題を素材の力でねじ伏せたのね? お金の力で無理難題を片付けるとか、アキ、アンタもお大臣になったものね」


「なっ!! 失礼な! 私は『パイルバンカー』を付けて欲しいとは頼んでないわよ、盾にも何か武器を付けて欲しいって頼んだだけよ! 想像を絶する、便利で高威力な武器が付いてて驚いてるわよ私も! 刃物を仕込む位はやってくると思ったけど、まさかね……」


「そう言えばターニャちゃんに作ってあげたのはその左手の籠手? なのかな? 変わった形だね? 超小型の盾みたいなのかな?」


「ん? ああ、これですよ、ターニャ、ちょっと展開してみなさい」


「んっ!!」


メグミに指示されたターニャが何やらドヤ顔でその左手の籠手を翳す、すると超小型の盾の様な板がフローティング機構で浮いて、更にターニャが魔力を操作、すると、


「なっ!! なんだとっ? ビームシールド? なのか?」


「何だそれ? カッコいいな、え? マジ光の盾?」


アキヒロとヒトシが驚きの声を上げる、ターニャが魔力を込めた超小型の盾はその淵から、白い光が展開していき、縦60センチ、横45センチ程の中型の盾となる、その盾は左手の籠手に連動して浮遊して動く、


「違います、水の盾、『水月』です。まあ白く光ってるのはターニャの趣味なので気にしないでください。こっちは『水刃刀』の技術をベースに、超高水圧の水の膜を魔法で強化して盾にしてます。2重構造で表面に硬い水の層、裏面に粘る水の層を形成して、貫通力の高い敵の弾が、例え表面の層で弾けなくても、裏面の層で受け止め衝撃を吸収することで、極めて高い防弾効果を発揮させてます。

 それに、元は『水刃刀』、このまま武器としても使えます。斥候の人は良く籠手の先に刃物を付けたり鈎爪使ったりしてるから、ターニャにも丁度良いかと思って、今出来てるのは左手だけですけど、右手も現在製作中です」


「この模様は魔方陣? そうか魔力障壁も同時に展開して魔法攻撃も防ぐんだね?」


「ええ、既に『アクティブシールド』が有るので盾は片手剣、片手盾スタイルの人以外は必要ないと思うんですけど、まあ斥候の人には、この方が剣を持つより便利かと、防御も出来る、二刀流の武器装備ってところですかね?」


「これは良いわね、ねえ……これなら量産できるんでしょ?」


「どうなんだい? ターニャちゃんの物は確かに良い素材を使っているけど、殆ど見た目の為だけだよね? 機構的にはそこまでレア素材が要るように見えない、これは良いね、ウチならアズサ、ケンタにもそれにアスカにも持たせたいね、それにケンタの妹のナナもアズサと同じ両手に短刀スタイルなんだ、この装備の方が良いだろう、是非量産してくれないか、メグミちゃん!」


「んっ? あれ? アスカさんは神官でしょ? 刃物は装備しない方が加護の効果が高いですよ?」


「何言ってるんだいメグミちゃん、これは『盾』、『盾』なんだよ、ちょっと誤って、盾の淵で物が切れたって、それは仕方がない事だろう?」


「ナツオ先輩、いやさっき言ったけど、元は『水刃刀』なんで……」


「メグミちゃん、良いかい? 世の中、いや違うな、宗教や神様ってのはね、建前で出来てるんだ、良いかな? 『盾』で押し通せば押し通るんだよ、そう言うものなんだ」


「???」


?顔のメグミをよそに、


「そうだな、これは『盾』だ」


アキヒロが頷きながら同意し、


「そうねこれは『盾』よ」


エミも追従する。


「どう見てもカッコいい『盾』だな」


ヒトシがキラキラとした目で羨ましそうにターニャを眺め、


「『盾』以外の何物でもないな!」


何時の間にか此方に歩み寄っていたハルミが力強く宣言する。


「メグミちゃん、諦めなさい、これは『盾』よ」


アキが慰めるようにメグミの肩に手を置いて言う、


「どうゆう事なの?」


これからの内職の日々に、それまで落ち込んでいたサアヤが、


「メグミちゃん、ゲームじゃないんです、この世界の神様の作った非推奨項目なんて建前なんですよ、多くの人がこうだっと決めてしまえば、神様にだってそれはそう言うモノだと認識されるんです。

 そもそも神官が刃物を持たない方が良いとされている理由は、神様が刃物の様な人を殺す武器を、人を救う神の神官が持つのは相応しくない、と仰ったことに由来します。しかし、現実は神官、ノリコお姉さまだって武器を持っています。当然その武器で人だって殺せます。

 神の真意に従うのであれば、それはダメなのでしょうけど、人々は神は『刃物の武器』を持つなと言ったと『理解した』んです。良いですか? 真意は関係ないんです。

 それによって『刃物の武器』以外は装備しても加護の力は弱まりません。重要なのはココです。本意は関係なく、人々がそう『理解した』ことによってそうなっているんです」


「そう、だからサアヤちゃんの説明してくれた方法は今回も使えるんだ、良いかい、これは『盾』なので神官が装備しても何も問題はない、加護も弱まったりしない、いいね?」


「黒いカラスも、皆で白いって言ったら白いカラスになるの? 良いのそれで? ねね、ノリネエはそれで良いの?」


「メグミちゃん、私はそもそも刃物がダメって言う神様に疑問を感じているわ、だって料理する時包丁は使うでしょ? 道具を悪く言うモノではないわ、道具が悪いんじゃない、使う人の方に問題が有るのよ。

 人を殺すのも傷つけるのも道具じゃないわ、人よ、道具が傷つけるんじゃないわ。

 それを安易に『刃物は神官に相応しくない』と言った神様の在り方が許せないわね」


「……なんでノリネエの加護の力が糞高いのかホント疑問よね? いやまあノリネエのそんな所が私は好きなんだけど、ノリネエって神様に結構批判的よね?」


「私は私が正しいと思ったことをするのよ? 神様が正しいと言っても私が間違っていると感じたことは絶対にしないわ、神様が私にそれをさせたいなら、神様は自分の正しさを私に理解させるべきね、それが出来ないなら黙って見守ってなさいと言いたいわ」


「ノリコはホント、ブレねえな、まあそんな所を神様達が気に入ってんだろ、けどノリコはそう言いながらも刃物の武器を持たねえな? 何でだ?」


タツオの疑問にノリコは恥ずかしそうに押し黙る、それを見たメグミは、


「ああ、それはね、単に不器用なのよ、刃筋を立てて物を切るのが苦手なの、だから力任せにぶっ叩けるハンマーがお気に入りなのよ。なんでだろ? 純神官系の人って大体このタイプが多いのよね、包丁とかは器用に扱うのに武器となると力任せ系が多いの、しかも大体普段は大人しそうな子が多いのよね、あれかしら? 普段自分を押さえているから、戦闘の時にそれを解放してるのかな? どうなのノリネエ?」


「ノーコメントよ」


「アカリさんやカグヤもそうよね、えーい面倒だ、ぶっ叩け、ぶっ刺せ、粉砕しろって戦闘スタイル、アスカさんはどうなの? アスカさん余り前線で戦ってないから知らないんだけど、もしそうなら『水月』装備しても無駄じゃない? 真面に刃筋が立てられないんじゃ?」


「ノリコちゃん達の事で色々聞きたいことは有るんだけど、そっちは置いといて、アスカは大丈夫だよ、あの子はあれで器用なんだ、昔は大きなバトルアックス担いで前線で戦ってたんだけど、若い後輩が増えて神官に専念するために今のメイス+盾スタイルに変更したから、刃筋はキッチリ立てられる」


ナツオは太鼓判を押す、それに追従するように、


「うちもゴロウが盾装備なんだ、アイツ魔力操作が苦手でな、『アクティブシールド』も良いが、やはり盾が手放せないらしい、それに盾で殴りつけたり弾き飛ばしたりと、盾系の武技も色々ある。この盾でも出来るだろ? ならやっぱりウチも欲しいな。

 それにウチの女の子たち、ユキコちゃんやシノブちゃん、それにトモコちゃんも片手盾スタイルだし、まあ刃筋は……どうだろうな? 練習すれば行けると思う、エルザちゃんやシンディ、キャシーには早めに『水刃刀』の方が欲しいかな、ゴロウ達が連れてきた子達なんだけど、ゴロウ達と一緒で訓練生に毛が生えたような腕なんでな、少し武器で底上げがしたい、今回あの子達の武器まで手が回らなかったから『振動剣』すら未だだからね」


「ああ、『昴』の女子メンバーね、あの子達は確かに少し底上げが要るわね、ゴロウ達もそうだけど、この階層の魔物の甲殻を裂けないとか弛んでるわね!

 大体ゴロウ達は何? 私の造った武器よ? この程度の魔物の甲殻位切れない筈はないのよ、なっちゃいないわね、一度鍛え直そうか? 武器も本人たちも」


「まあそう言ってやるな、あいつらも以前より遥かに成長はしているんだ、前のアンデットの軍団との戦闘でも割と戦果を挙げている、この階層でも比較的柔らかい、『アトラスモス』『大王ヤンマ』は何とか切っているしな、『アルキメデスビートル』や『帝王ロリポリ』は鎧の素材にもなる甲殻だ『青銅』や『鋼鉄』冒険者にはキツイさ」


「私達だって『青銅』だけど?」


「メグミちゃん達は今回のこの演習が終わったら『黄金』だろ? 一気に追いつかれちゃったな」


ノブヒコが肩を竦めなながらアキヒロとの会話に加わってくる、


「そうなのか? ノブヒコお前相変わらず、耳が早いな、どこで情報拾ってきてるんだ?」


「なっ、メグミ達もう『黄金』なのか? え? 3階級の特進か?」


ヒトシが驚いている、ナツオがバレちゃったかってな顔で、


「まあね、前回のアンデット軍団との戦闘が不味かった、あの戦闘は多数の中級冒険者が参加してたからね、流石にあの場に居た中級たちの、『あれで『青銅』とかふざけているのか? 俺達より強いじゃねえか!』って声にプリムラ様も折れたんだよ。『黄金』でも大分不満の声が大きかったみたいだけど、そこはプリムラ様が頑として譲らなかったね」


「ゆっくりシッカリ育てたいプリムラ様の気持ちも分かるけど、戦闘能力だけなら既にこの子達『上級』よね? 『オリハルコン』でもおかしくないわ、メグミちゃんに至っては『アダマンタイト』に上げる声も有った見たいね」


「私達は『青銅』でも全く問題ないんですけど? クラスが上がる度に一月の税金が上がるだけなんですよね……」


「既にそれを平気で納められるだけ稼いでいるよね? これはね、義務なんだよ。稼いでいる者達がシッカリ税金を納めてくれるから、初心者や初級の教育費用が捻出できるんだ。ここは寄る辺の無い異世界なんだから支え合って暮らしていかないとダメ、それに義務と同時に権利も増えるんだ、色々便宜も図ってくれるし、特典だって有るから、まあここは納得して欲しいな」


「あーあーきこえないーーききたくないーー」


「メグミちゃん、ギルドを起こしているから色々経費で落ちるわよ、控除も色々あるから、落ち込まないで!」


ナツオの言葉に耳を塞ぐメグミにエミが受付嬢らしく助言すると、


「経費? そうか経費よ、実験や試作費用、そうよ経費よ、必要経費だわ」


一転メグミの顔に明るさが戻る、


「税金対策が必要ね、経理か……私も計算は苦手じゃないけど、此方のルールや習慣が分からないわね、サアヤちゃんはどう? 数学得意よね?」


「お姉さま、やはり税理士を雇った方が良いですわ、税務、経理関係は私もあまり詳しくないので、それにやはりこの経費系は役所との交渉になるので、専門の方でないと……」


「良い税理士の先生を紹介するよ、冒険者専門でやってる子で良い子がいるから、ウチもお世話になってるし」


ナツオが税理士の紹介を請け負う、


「そう言えばギルドのクラスはどうなるのかしら? とりあえず『青銅』で申請したけど、係の人達が『え? ちょっと貴方、『青銅』クラスでギルド? ギルド設立には結構費用が掛かるのよ? 大丈夫なの? え? この子達は特別? あっ、あら貴方あの有名人!』とか言われたわ、有名人ってどういう事なのかしら?」


「有名なんだよ? 特にノリコちゃんは人気が高いねえ、アイドル並みだよ。

 既に親衛隊が組織されたって聞いてるよ。サアヤちゃんの親衛隊も近いうちに立ち上がる予定らしいし、えっ、メグミちゃん? ああ……」


ナツオが言い淀んでいると、エミが、


「メグミちゃんは既に地下組織が出来てるわよ、『メグミ様に罵られ隊』だっけ? Mの間で密かに人気らしいわ」


「っなんで私だけ色物なのよ!! 納得いか無いわ!」


「メグミちゃんはまだマシよ? タツオ君なんて……」


「ちょっと待て!! 俺迄か? なんで俺にそんなのが出来てんだ? それにメグミより酷いってなんだそりゃ?」


「聞きたいの? いや私も噂しか知らないんだけどね、たしか……『ウホッ!タツオの兄貴!!』って組織で……」


「もういい!! ストップだ! エミさんそれ以上言わなくていい!」


(腐腐腐ッっと下卑た笑みが一瞬サアヤの顔に浮かんだ様な気がしたんだけど、気の所為?)


少しメグミは気になったが、その表情は一瞬でその後は平然としている為、メグミは見間違いだと自分に言い聞かせた。


「大分話が逸れたけど、皆、この4本の『水刃刀』、先輩に譲る気はないのかな? ……分かった、そんなに睨まないでよ、まあ良いか、じゃあウチと『戦慄の挨拶』でジャンケンで太刀か刀かを決めて、そっちの二人の所には太刀ってことで良いかな?」


「あの諸先輩方、あの予備の『水刃刀』は追加で合流する、侍女メイドさん達4人の物なんですけど?」


「ん? まだ先の話じゃないか子供が生まれて直ぐに訓練なんて出来ないよ。人工子宮での出産でも、その後は授乳期間や赤ちゃんのお世話が有るからね、ほらだから何も問題ない」


ナツオはウンウンと頷いて一人で納得しているし、


「そうだな、追加で『水刃刀』が届くまでの間は、この一本を使いまわして、皆で『水刃刀』の扱いになれるようにするさ」


ヒトシも既に確定事項のように話す。


「楽しみに待っているよ、いやにしても今回は本当に助かってるよ、『フローティングアーマー』に『アクティブシールド』、そして『振動剣』、更に『水刃刀』に『水月』、今回件で真っ先に誘ってくれて本当に感謝だ、装備の充実ぶりが半端じゃないな」


アキヒロも嬉しそうにしているが、


「おい! ちょっと待て! 『シーサイド』は? 私も参加してるだろ? なんで私の所には何もないんだ!」


一人納得がいかないのかハルミが抗議する、


「今回『シーサイド』の『衝撃の御茶』は猫系獣人の参加が多かったから不参加で、代わりに『戦慄の挨拶』が参加してるからね、『戦慄の挨拶』の配布分が『シーサイド』の分だよ」


ナツオはハルミの抗議を軽く流す、


「まあ今回不参加だったのは運が悪かったと諦めてハルミ」


「そうよ大人は諦めが肝心よハルミ」


アキとエミがハルミを慰めに掛かるが、


「待てっ!! 私! 私が参加しただろ!」


「けどよハルミさん、アンタんところの子達は銛や槍が主体だろ? あんたの所の訓練生には『水刃刀』が配布されるんだし、それで良いじゃねえか?」


アキヒロが説得するが、


「私の主武器は太刀! 私は太刀なのよ! みんな知ってるでしょ!」


「うむ、まあしかしだな、ハルミさん、武器は4本しかないんだ、『戦慄の挨拶』と共同使用とか何とかならないかな?」


更にアキヒロが提案する、しかしエミは、


「けどアキヒロ、私達、そろそろ『ノーザンライト』に帰るわよ? 『ヘルイチ』『シーサイド』と立て続けに手伝いに駆り出されたからね、『シーサイド』には代わりに『イーストウッド』と『カンサイ』から『抹殺のお盆』『爆砕の案内』の子達が手伝に来ることになってるから、引継ぎしたら帰るわ、流石に何時までも出張してるわけにもいかないのよ。

 今回の演習は『北極星』に加わった子達の面倒は『ノーザンライト』で私達も協力してみることになってるから、顔合わせも兼ねて参加したけどね」


「あれ? そうなのか、しかし『ノーザンライト』は『北極星』の訓練生を街ぐるみで共同で面倒見るのか? まあ確かに一番人数が多いから、『北極星』だけでは手が足りんか、しかしコノミさんらしいな、どうせ一番乗り気なのはコノミさんだろ?」


「北のお局様は後進の教育に熱心だからな、シゴキ過ぎないように見張ってないと訓練生たちが潰されるぜ?」


ヒトシの茶々に、


「それは大丈夫でしょ? メグミちゃんに比べたらコノミさんのシゴキとか可愛いものだわ、回復魔法で回復させながら特訓させるとか、下手したら拷問よ? 気絶するまで魔力操作訓練とか、報告を聞いたコノミさんの目が点になってたわよ」


「北のお局様以上かよ! そりゃMに人気になるわけだ、流石だなメグミちゃん!」


「嬉しくないわ! ちっとも嬉しくないわ!!」

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