第95話『ハープーンガン』
メグミは自分達に貸し与えられた執務室から白い砂浜を眺める、そこでは現在100名を超える訓練生が朝のランニングを行っている。
(何故だろう? 何でこうなったんだろう?)
部屋のドアがノックされる、『カナ』が、
《どなたですか?》
メグミより先に問いかける、
「一班カトレアです、出発の報告に参りました!」
《お入りください》
「サーイエッサー!」
扉が開いて完全武装のカトレアが入ってくる、メグミの前まで来ると敬礼をして、
「サー、メグミ教官殿! 一班班長カトレアです、朝食、準備が済みましたので、『黎明』小隊1~4班は07:00より出立いたします、帰宅は18:00の予定です! サー」
「カトレアはもう訓練生じゃないでしょ? サーは要らないわよ?」
「申し訳ありません! つい癖で……ダメですか?」
「……まあ、いいわ、現地にはギルド『昴』のアキヒロさんが待ってるから、良く言うことを聞きなさい、後でタツオとアカリさん達にも様子の確認に行ってもらうわ、怪我しない様にね」
「ハッ! 了解しました! では行ってまいります!」
カトレアは再び敬礼すると踵を返し、ドアを出ていく、それを見届けて椅子に座り、再び机の上の『マジカルブローチ』の部品を作ろうとすると、スッと湯飲みに入ったお茶が差し出される。
「ありがとう『カナ』、何だか秘書が板についてきたわね?」
《そうですか? お茶の入れ方は『ママ』に教わったのでバッチリな筈です。如何ですか?》
「ん、美味しいわ、にしても何してんだろうね、私……」
《マスターは、ギルド『黎明』のサブマスターです。その仕事を果たしているのでは?》
「……ねえ『カナ』、今日の予定は?」
《これより1時間は『マジカルブローチ』の部品製作、8時から朝食です、その後再び午前中は『マジカルブローチ』の部品作成、昼食・休憩を挟みまして午後からは訓練生の指導を2時間。その後武器防具の作成、夕食前に搾乳作業を行い、19時に夕食、その後再び『マジカルブローチ』の部品作成をして、就寝となってます》
「どこの社畜よ! ねえ、ここにはバカンスに来てるんじゃなかったかしら?」
《予定をキャンセルなさいますか?》
再び砂浜に視線を戻す、その視線の先には『暁』のメンバーが教官役となり熱心に指導している姿が見える、訓練生は元性奴隷の綺麗な女の子ばかりなのだ、それは熱も入ろうと言うものだろう。女の子メンバーが欲しかった『暁』は応援をお願いしたら、二つ返事でOKしてくれた、元性奴隷とか特に気にした風もない、案外懐が深い男達なのかもしれない。
先週行った黒鉄鉱山で実地訓練、これは想像以上に上手く行った、訓練生達の働きは素晴らしく、コボルトナイト、コボルトマジシャンやプリースト、それにシャーマンを次々と屠って行った。
そう上手く行きすぎたのだ……これに気を良くした冒険者組合の幹部会議はメグミ達に、『シーサイド』で保護している性奴隷の人達を冒険者とすべく、訓練を施す様に要請してきた。
これは言葉は要請だがほぼ強制だ、拒否権が与えられていない要請を、要請と言う方がどうかしている。仕方なしにメグミ達は、冒険者組合に自分達の条件・要求を訴え、それを受け入れてもらった。その結果が現在の状況だ。
メグミ達の条件・要求は一つ、『人手が足らない人手を寄こせ』 そう応援を求めたのだ。現在『シーサイド』で訓練に耐えれる精神状態であると診断された者、年齢もそれに耐えれると判断された者は100名を超えた。それだけの人数をメグミ達だけで面倒を見るのは不可能だ。先に訓練を始めた4姉妹と侍女、それにシルフィだけでも手一杯なのに、更に追加で100名である。
何の冗談だろうとメグミ達は思ったが上は本気であった、仕方なしに応援を求めると、直ぐに了承され、希望を聞かれた。
そこでメグミ達は知り合い連中を総動員することにした、まだ異世界に来て日が浅いメグミ達には頼れる知り合いは限られているからだ。
以前知り合った、また、元々タツオの所属していたアキヒロ達のパーティは、これも以前パーティーを組んだゴロウ達を加え、更に女性メンバーが7人ほど加わってギルド『昴』を設立していた。先ずはそこに連絡して応援を頼むと即快諾された。現在『黒銀』クラスの5人は、大魔王迷宮地下5階にて『黎明』1~4班の『レッドブル』の討伐、材料集めの監督、指導を任せている。
先に訓練を始めていた1~4班は、そのままパーティ『黎明』傘下となることを望んだ為、ギルド所属パーティとするべく、ギルド『黎明』が結成された。その1~4班が現在他の訓練生の為の防具の素材集めを『昴』の5人の監督の元、進めているのだ。
その他の『昴』メンバーは買い出し等で、各地を飛び回っている、武器・防具の素材の買い出し、食材の買い出しが主な任務となっている。この人数の訓練生の物を賄うのだ、大変に忙しい。先行訓練組21人分でもタツオ達三人で大変だった、10名のメンバーは各地を本当に文字通り転移魔法で飛び回っている。
次にパーティ『暁』であるが、先に述べたように此方も応援要請は快諾された。現在『シーサイド』での訓練の教官役の中心は『暁』のメンバーが行っている。カリキュラムはメグミ達が施してきた内容を踏襲して行っている。回復魔法を使った超回復訓練を行い、『アクティブシールド』を使用した、魔法操作訓練を施している。訓練を始めて1週間程だが訓練生は順調に育ってきており。後1週間もすれば迷宮に訓練に行けそうだ。
またギルド『北極星』にも応援を要請した、此方は猫系の獣人が何人か居る為、お留守番も多かったが、アキやナツオを含め何人か応援に来てくれた、現在猫系獣人の『シーサイド』立ち入り許可申請を行っているので、更に数名応援が来てくれる予定だ。アキ達戦闘系は訓練に『暁』と共に加わり、ナツオ達生産系がメグミ達と共に『マジカルブローチ』の部品や、武具、防具の製作に加わっている。『暁』のコウイチとタイチも此方に加わってくれている。
「色々応援を頼んでいる手前、サボり難いのよね……」
「ほらメグミちゃん、手がお留守ですよ、サクサク手を動かしましょうね! ノルマ迄まだまだ足りてませんよ?」
サアヤが傍らから苦言を呈してくる、
「御茶位ゆっくり飲もうよ、サアヤは真面目過ぎるのよ」
「『昴』や『暁』、それに『北極星』と作らなきゃいけない数が増えたんですよ! 急がないとまたプリムラ様から催促が来ますよ」
「ハァ、師匠達に任せて手配して量産してもらってる量産型で良いじゃんね! なんでこっちをみんな欲しがるのよ!」
一口お茶を飲んで、ほっこりしていたノリコが、
「冒険者組合事務所に応援に来てた『ノーザンライト』のエミさん達や、ヘルイチ地上街からの応援のアカネさん達も既にもってたわ、聞いてみたけど評判凄く良いみたい」
「あの辺が情報の出どころね、ナツオさんやヒトシさんどころかアキヒロさん達にまで既に情報が伝わってるとはね……」
「応援の交換条件に『マジカルブローチ』を要求されるとは思いませんでしたね……しかも量産型でなく、オリジナルの方を要求してくるなんて」
「『アクティブシールド』と『フローティングアーマー』も要求されてるわよ、訓練生と同じ簡易型だけど、この数は厄介ね」
「ナツオさん達になら造れるでしょうに? 何でなのかしら?」
「何だい? 僕の悪口かい?」
そう言って扉を開けてナツオが部屋に入ってくる、
「悪口じゃないですよ、ただ、『アクティブシールド』や『フローティングアーマー』は一緒に開発したんだから、私達に要求しなくても良いんじゃないですか?」
「システムの核となってる部分、魔法球が独特過ぎるんだよね、この精度でこの性能の物を作れるのは今の所君達だけだよ、少し劣った量産型でも確かに良いのかもしれないけど、防具はいざって時の命が掛かってるからね、やはり少しでも良い物が欲しいんだよ」
「取り合えず魔法球部分は作りますけど、後はそっちでもなんとかなりますよね?」
「アキの物だけは全部お願いしたいんだけどね、あの子は突っ込むからね、少しでも防御力が高い方が良い、素材は渡すからお願いできないかな? 他の物はそれを見ながら此方で製作するよ、訓練生の分はこちらで作るからお願いしたいな」
「まあ、良いですけどね、『マジカルブローチ』よりは楽ですから」
「そっちもよろしく頼むよ、量産型も出来上がってたけど、やっぱり信頼性に欠けるね、防水も防塵も耐衝撃性能も軍用スペックのオリジナルとは比べ物にならない、やっぱり君達は凄いね」
「普通に使うのには過剰ですよ? このスペックは」
「じゃあメグミちゃんは自分の物と量産型を交換する気になるのかな? こちらもいざって時に使えるのと使えないのとではまるで違うよ」
「量産型もそこまで悪いモノじゃなかったですけどね……まあ良いですよ、取り合えず最新型で少し改造してみたんでそっちを渡しますね、もうちょっと待って下さい」
「ん? 改造? スペックダウンしてないだろうね?」
「なんなら今私が使ってるのをナツオさんに渡しましょうか? 私は最新型で良いですよ」
「へえ、何を改造したんだい?」
「色ですね、外観を替えました、黒色だけだったんですけど、色を増やしました」
「それ、改造かい? 中身は一緒じゃないか」
「色は重要ですよ! 女性からの要望が一番多かったのが色です、可愛い色が欲しいって要望が一番多かったんですよ」
「良く分からないな……色かい? ちなみに何色を増やしたんだい?」
「白をアクセントに銀色、金色、ピンクゴールドで3色、黒をアクセントに同じく、いぶし銀、金色、プラチナで3色ですね」
「あれ? もう黒色だけのは作らないのかな?」
「一応特殊部隊用で元の黒色も納めるのですけど、受付嬢の人達には先に配った黒色と交換で新型にしていく予定です、一応先に配った物の方が最適化が進んで性能が上がってるんですけど、その辺は、新型にも適用したりしてますからね、性能的に大差はない筈です」
「うーん、色ね、それに本当に少し改良してるんだね」
「自分達の使ってる物が手元にありますからね、使い込んで進化・最適化している部分を新しく作ってる物にも反映してますよ」
「メグミちゃんのこういった拘りの所為で、益々作業が大変になるんですけどね」
「なっ、漫然とモノを作ってるだけとかあり得ないわ、日々進化、改善、改良するのが手工業よ、工場で作る大量生産品に負けない価値を持たせないと意味がないわ」
「ねえメグミちゃん、私達は冒険者なのよ? 職人さんじゃないわよ?」
「ノリネエ、最近冒険者らしいことした? 1週間前に黒鉄鉱山で引率したのが最後よ? 後は延々内職! なにか考えて、手を加えないとストレスで暴れ出しそうよ!」
「そうだねえ、最近ここの迷宮も大人気らしいじゃないか、他の街から受付嬢の応援が来るくらい人が溢れてるって、けど地下10階以降は比較的空いてるみたいだよ? 暴れるならそこで暴れたらどうだい? 一日位なら訓練生の面倒は僕達だけでも平気だよ? 生産だって一日位なら止めたってかまわないよ」
「地下10階以降が不人気って何があるんですか?」
「地下10階以降はね、遠距離攻撃してくる魔物が急に増えるんだよ、『電撃網改』は相変わらず良い仕事はするんだけどね。座ってるだけで魔物が勝手に死んでいくようには行かない、まあ普通にそこまでが楽過ぎるんだけどね。
まあそんなわけで、人が少ない、マーメイド達も遠距離系の魔物は纏め狩りも出来ないし、最近は大半のマーメイドやスキュラは海に出てるから、地下10階以降は魔物が多いらしいよ」
「遠距離攻撃ね、近寄ってこないならこっちも遠距離で仕留めれば良いだけでしょ? 結構楽そうね」
「そうですね、私達には『アクティブシールド』も有りますし、遠距離攻撃がどの程度強力かにも寄りますけど、魔物が溜まってるならガンガン魔法撃てて楽しそうですね」
「皆でいって乱射大会でも開く? 良いの作ったんだ! 銃型の魔道具でね、この迷宮専用に魔法弾撃てるようにしてるの♪」
「あら? メグミちゃん、昨日コソコソ作ってたのそれね!」
「ノリコお姉さま、なんで止めなかったんですか! メグミちゃん! 何サボって余計な物作ってんですか! 他に作らなきゃダメな物一杯あるんですよ!」
「良いじゃない! 偶に変わった物造らないと私は死ぬのよ! そう言った呪いが掛かってるのよ!」
「ノリコお姉さま、解呪をお願いします、大丈夫よメグミちゃん! ちょっと痛いだけだから!」
「え? 解呪? 痛いのアレって? どうするメグミちゃん。解呪掛けても良い?」
「ねえ二人とも何処まで本気なの? 所で解呪って痛いの? ねえ?」
「あら? メグミちゃん、呪いなんでしょ? なら解呪でサクッと呪いを解けば
「えーと? 確か人に掛かった呪いの解呪って聖気を込めた手でバシバシ背中叩くんだっけ? ちょっと待って以前に一回習っただけなのよ、今まで使ったことが無いし……如何だったかしら?」
「そうですよお姉さま、バシバシと力一杯叩いてください、大丈夫、力が強いほど解呪の効果が上がります! 遠慮はいりませんわ!」
「サアヤ! その物理的な腕力と、呪いの解呪との因果関係は何なのよ? 原理が分からないっ!」
「メグミちゃん、病は気から! 呪いは気の緩みに付け入るんです! 背中を力いっぱい叩くことによって気合を入れてその気の緩みを正すんです! さあお姉さま解呪を!」
「ああ、あったわ、これね、うんサアヤちゃんの言う通りね、さあメグミちゃん背中を出して、解呪の為ですものね、私も心を鬼にして背中を叩くわ!」
「ねえ? 呪いってのは言葉のアヤよ? 分かってるわよね? 二人とも!」
「いいえ、自覚がないだけでメグミちゃんは呪われてるわ! 間違いないですわ! 今のこの状況がその証拠ですわ!」
「そうね、何故か何か作る度に、厄介ごとが増えていくのは絶対に呪いよ、間違いないわね」
「まあ君たち少し落ち着きたまえ、僕だけ放置とか酷いだろ? それにメグミちゃんが作った魔道具に興味があるな」
「絶対に見せてはダメですよメグミちゃん! これはギルドとしての機密です、幹部以外に公開することは絶対にダメです! そうですよねお姉さま!」
「そうね、これナツオ先輩の口から情報が広まって、また厄介ごとが増えて広がるパターンよね、流石に私も学習しました。ギルドマスターとして命じます。メグミちゃん、その魔道具は封印ね!」
「ええっ! まだ一回も正式に使ってないのよ? 何で封印なのよ!」
「お姉さま、やっぱりメグミちゃん呪われてますわ! ちっとも懲りてない!」
「まあまあ落ち着いて二人とも、では『宣誓』するよ、絶対にこの魔道具の情報は他に漏らさない! ほら『宣誓』したよ、これで『誓約』が加わるから絶対に他に情報は洩れないよ、僕はね個人的にメグミちゃんの造った魔道具に興味があるんだよ、是非見せて欲しいな」
「……どうしますか? お姉さま」
「ナツオ先輩がここまでおっしゃるなら……仕方ないのでしょうね、はぁ……」
「良いのね? ふふっ、これが私の造った水中用銛マシンガン! その名も『ハープーンガン』よ!」
アサルトライフル様な見た目で、銃身が3つ束ねてあるような独特の形状をしている魔道具をメグミは『収納魔法』で格納空間から取り出した。
「これかい? 何処に銛があるんだい? それに打ち出す装置もないけど?」
「ナツオさん魔道具ですよこれ、銛なんて持ち歩くわけないでしょ、『空水気』の中で使う事が前提ですからね、周囲にある水分を『アイスアロー』と同じ原理で集めて固め氷にします、『空水気』の中ならより効率的に集まるので、魔力の消費が少ないですね、そしてその『氷の銛』に『魔水膜』の魔法の応用で『空水気』の中をスムーズに進んで行くように魔法を付与します、これが弾になります、そしてこのチャンバー内で水蒸気爆発を魔法的に引き起こし弾である銛を打ち出します。
これらの工程を連続して行うために3つの銃身とチャンバーを束ねたガトリングの様な形状としてます。魔力をあらかじめ後方のグリップ内の魔法球にチャージも出来ますし、実使用では魔力の補充をしながら引き金を引くだけで、3つの銃口から連続して弾が発射されます、随時次弾の装填も行われますし、秒間6発位の発射感覚で魔力が尽きるまで撃つことが出来ますよ!」
「弾の『氷の銛』は銃口を見る限り口径が小さいね、威力が低いんじゃないのかい? それに爆発力で砕けてしまったり、熱で溶けたりはしないのかい?」
「熱の問題は多分大丈夫です、銃身やチャンバー内の熱エネルギーを集めて水蒸気爆発を起こしているので、銃身は速やかに冷却されます。それに『氷の銛』は『硬化』の魔法や『断熱』の魔法、それに『魔水膜』を改造した魔法にそれらの効果も追加されてますから、爆発時の衝撃で弾が砕けることも有りません、排莢の仕組みもいらないし、弾の供給も周囲の水分を集めるだけ、弾切れの心配もありません。
威力の方は『魔水膜』の改造魔法のお陰で初速からの速度減衰が無いどころか更に加速していきますからね、口径は小さくても貫通力は十分です、『硬化』の効力のお陰で下手な金属板なんか貫通しますよ! 鉄板5ミリ位までは確認済みです!」
「メグミちゃん! まだ試してないんじゃなかったの?!」
「一応試射位はしたわよ! 暴発したらどうするの? 危ないじゃない」
「5ミリ? それは凄いね、これ有効射程はどの位なんだい?」
「込める魔力次第ですよ、『マジカルブローチ』でこの部分にアクセスして変更も出来ますし、直接設定も出来ます、けどまあ実用的には100メートル以内でしょうね、『魔水膜』の魔力が切れた後は急激に減速しますし、当たっても氷の粒が当たった程度の衝撃になりますから、但し有効射程内での威力は凄いですよ!」
「これ普通の空気中でも使えるんじゃないのかな? ここチューブが繋がるようになってるけど?」
「オプションの水のタンクと繋げると空気中でも撃てますよ、少し設定を弄るようになりますけどね、あと有効射程は空気中でも同じようなものですね、浮力が少ない分、重力の影響が出やすいですけどね、少し落下が早いです。照準で割と目標の上よりを狙うと当たりますね、照準の補正を空気中と『空水気』の中とで変えないとダメですね」
「銃身が3つあるってことはやっぱりそれなりに集弾はバラけるのかな?」
「そこは仕方ないですね、マシンガンタイプで弾をばら撒くように造ってますから、魔法である程度軌道補正もしてるんですけどやはりバラけますね。だからライフルタイプも有りますよ、此方は銃身が一つで、連射速度は秒間2発になります。ただこっちは撃っててもあまり楽しくないです、地味なんですよね」
更に一丁ライフルタイプの魔道具を収納空間から取り出す。
「そうなのかい? 発射間隔は十分だと思うのだけど? ん? これは少し口径が大きいね」
「折角なので一発の威力に特化してます、だから少し口径が大きめですね、発射時の爆発も強めなので、反動はそれなりです、まあ爆発チャンバー部の配置が結構自由度が有りますからね、反動の少ない位置に最適化してるので、実際の銃よりは少ないんじゃないかな? 本物を撃ったことが無いので良く分かりませんが」
「何方も施条まで刻んでいるのか、ねえメグミちゃんコレ何処かで試射してみたいな、昨日は何処で試射したんだい?」
「夜中に迷宮内でしましたよ? 魔法組合の実験用の区画があるじゃないですか? あそこを借りて試射してきました、ちゃんと許可は取りましたよ」
「あそこか、朝食後にもう一度行ってみないか? コレ撃ってみたいよ、許可は僕が貰っておくから」
「ナツオ先輩! 秘密ですからね? イヤですよ、またバレてこの『ハープーンガン』を大量に作らなきゃならなくなるのは!」
「まあそう言わずにサアヤちゃんもおいでよ、サアヤちゃんの魔力なら可成り乱射出来るからきっと面白いよ、そうだよねメグミちゃん」
「そうね、サアヤなら延々撃てますね、魔力効率が凄く良いから、これ15発分位で『風の刃』一回分の魔力位しか使わないわ、私でも昨晩600発位撃ちまくれたからサアヤならきっと延々乱射出来るわよ! 耐久試験も兼ねていっちょ派手にぶっぱなしなさい! 結構爽快でスッキリするわよ」
「メグミちゃん、私は銃はちょっと……」
「そうねノリネエは銃はダメよね……けどこれは銃じゃないわ、魔道具! 弓の形状が変わっただけよ、杖の延長だと思って貰っていいわ」
「そうなの? 銃の形状に似てる気がするけど?」
「銃身が3つもあるアサルトライフルなんてないわよ? それに弾の入るマガジンもないし、銃ってより、こんな形の特定の魔法を発生させる杖ね」
「そうなの? なら良いのかしら? ん? どうなんだろ?」
「お姉さまも一緒に行きましょう、偶にはストレスを発散してないとダメですわ、内職ばかりしてるとストレスが……もう既に手作業レベルじゃないですわよ、なんですのこの超精密作業の連続は! 『錬成空間』で拡大遠隔作業の連続ですよ? あり得ませんわ!」
「サアヤちゃん落ち着いて! そうねストレスが溜まってるのね、分かったわ行きましょう!」
「話はまとまったみたいだね、ところでメグミちゃん、コレ2丁だけなのかな?」
「ん? まだ試作ですからね、ただみんなで遊ぼうと思ったから、部品だけはもう少し造ってますよ。昨日試して少し改良したいところも有ったので、そこを改良して……そうですね朝食後1時間ください、その間であと5丁マシンガンタイプを作ります」
「何かコレに問題があったのかい? 特に問題なさそうだけど? 強度にも問題なさそうだし」
「熱量がですね、ちょっと問題なんですよ、爆発させる際、周囲から熱を集める関係で、連射するとどんどん冷えて行くんです、熱エネルギーが運動エネルギーに代わって放出されますからね、この魔法具周辺の熱エネルギーを消費してしまって冷たくて持てなくなっていきます。一応そこら辺も考慮してグリップ部分に断熱効果のあるコルクの様な物を使用したりしてるんですけどね。それでも追いつきませんでした。少し改良して熱エネルギーを追加する魔法式を加えます、消費魔法力は若干増えますけど、凍傷になるよりはマシかと」
「普通の銃とは全く逆の現象だね、まあ『氷の銛』を打ち出すんだから、そんなことも有るのか……何人で行く予定だい?」
「取り合えず、私達3人とナツオさん、それにターニャに『カナ』ですかね、タツオとアカリさんにカグヤは『大魔王迷宮』に手伝いに行きますからね、一人はライフルタイプになりますけど、7丁で丁度人数分足りる筈です」
「コレ、作るとしたらどの位作れるものなんだい?」
「作りませんよ! 絶対に量産はさせません! これ以上の作業量は物理的に無理です!」
「まあサアヤ落ち着いて、設計図は有るので、改良したものを渡せますよ? 『マジカルブローチ』程精密部品じゃありませんからね、ある程度魔道具に詳しいなら私達じゃなくても量産できるはずです」
「じゃあ僕に設計図を貰えるかな? こちらでも作ってみるよ」
「了解です、どうしましょう? 『マジカルブローチ』に入れて渡しましょうか?」
「そうだね、一緒に貰えるならありがたいね、今僕が使ってるのは組合からの借り物だからね」
「何色にしますか?」
「そう言えば生産数はどうなってるんだい? 不人気色が余ったりしないかな?」
「そこは平気ですよ、受注生産じゃないですけど、受付嬢の皆さんには事前にアンケートを取ってあります、配色デザインなんかも意見を募ってますからね、一番人気は白アクセントのピンクゴールドですね、その後に白アクセントのゴールドとシルバーが続いてますね、黒系は少ないですね、若干黒アクセントのプラチナが出てますが、黒系は男性向きですかね? 一応タツオなんかもいぶし銀を希望してましたし、『暁』のメンバーも全員黒系でしたね、中には初期の真っ黒を望んでいる人も居ましたね」
「僕も初期で構わないけどね、この『MB』のエンブレムが銀色なのもオシャレで中々良いと思うけどな、新型も結構色々凝ってるね? このデザインはメグミちゃんが?」
「いいえ、新型のデザイナーは違いますよ、これのデザイナーはリズです、あの子デザインの才能が有るみたいで、こんなの作れませんか? って聞いてきたデザインが良くて、皆で少し生産性を考慮して変更しながら作ったんですよ、今作ってる訓練生用の防具デザインも彼女ですよ」
「あれもそうなのか! メグミちゃんにしては可愛いデザインだなと思ってたけどノリコちゃんやサアヤちゃんじゃなくて別の子だったとはね」
「牝牛人族の人達ってオシャレなんですよね……ジェシカはトレーニングウェアのデザインしてます、訓練生が今使ってるのも彼女のデザインですよ、それにサンディも服のデザインしてるんですよ? この間、打ち上げの飲み会に着ていった服あるじゃないですか? あれサンディのデザインだったんですよ。ビックリです! アリアさんもエプロンとか調理器具とかデザインしてて、『ママ』の愛用の調理器具ブランドのデザインが全部アリアさんでした」
「へえ、今度僕も頼んでみるかな、良いデザインだよね、ふむ意外なところに意外な才能が埋まってるものだね」
「ええ、彼女たちの使うものって特注品が多いんですよね、あの胸の所為で、それで自分達で使うものを自分達の好みのデザインで作って貰ってたら、そのデザインが気に入られて、デザインの仕事をするように成っていったみたいですよ」
「良いのよね、彼女たちのデザインってちょっとした違いなのにオシャレに見えるのよね」
「センスですね、真似できません。私やメグミちゃんの作る物は合理性だけで余りデザインしてませんし、ノリコお姉さまのは……少し少女趣味過ぎますしね」
「え? えええぇ、そう? 少女趣味かな? 可愛くて良いと思うけど」
「ノリネエの部屋、どこの女子小学生かと思うような魔境になってるわよ? ノリネエもう少しで二十歳でしょ? ぬいぐるみとフリルに溢れたアレはどうかと思うわ」
「なんで? 可愛いのはダメなの? ええぇ、良いじゃない可愛いの!」
「ノリコお姉さまはそのままで構いませんわ、ただ一般受けするデザインかと言えば違うと断言できます。可愛いデザインでもリズのデザインの方がフリフリしてなくて可愛い中にも大人のオシャレなセンスが有りますわ」
「なっ、サアヤちゃん迄! 可愛い方が良いじゃない! なんでダメなのよ!」
「ノリネエ『マジカルブローチ』にリボンとかバラとかレースの意匠をしようとしてたじゃん、アレは少し子供っぽ過ぎるわよ、小学生や中学生位までに向けた商品ならあれで良いわ、けど大人の女性や男性にも受けるかと言えば厳しすぎるのよ」
「お姉さまは対象年齢が低い子供向けのデザインとしては秀逸ですから、今回は対象年齢が違うだけです、今度子供向けの商品を作る際にはそのデザインの腕を存分に振るってください」
「ううううぅ、可愛いのが好きなのは私だけじゃない筈よ、可愛いは正義なんじゃないのメグミちゃん!」
「ノリネエ、それは可愛い子の話よ? 良い年した大人は偶に見せる、さり気無い可愛さが良いのよ? 常に可愛いのはダメでしょ、そう言うのは子供っぽいって言われるのよ」
「メグミちゃんが真面な事言ってる、なんで? メグミちゃんがちゃんとした大人みたい……」
「失礼な! 私は大人よ! 趣味は大人っぽいわよ!」
「そうですね、メグミちゃんは大人ですよね、初期訓練生の人全員手を出したんでしょ? 噂で聞きましたよメグミちゃん、『ママ』の耳に入るとお説教と体罰ですよ絶対」
「そうなのよね、後は『ママ』だけなのよ、ガードが固くてまだオッパイ吸えてないのよ、どうやったら吸えるかな?」
「なんでそんなに胸を吸いたいの? それに全員吸ったの?」
「ノリネエ! そこにオッパイが有るからよ! オッパイ大好き人間として、そこに綺麗なオッパイが有ったら吸い付いて味見をするのは義務よ!」
「ねえ君達、僕はソロソロ失礼させてもらっていいかな? そうだね、僕は元の黒か、黒に金色がいいかな、下品じゃないデザインだし、高級感が有って良いと思うんだよね」
「黒金ならここに完成品が有るのでじゃあこれを今付けてるのと交換で良いですか?」
「これは僕の方から組合に返すよ、そっちをくれるだけでいいよ」
「うっ! そうか、これは今週のノルマが一個増えるのか……」
「余裕は幾つあるんだっけ?」
「アリアさん達から交換した黒もあるけど、うーーん、あんまり予備はないですね、まあ良いか初期設定は自分で出来ますよねナツオさん」
「ああ、結構使い込んだからね、このまま繋げて設定をコピーするよ、っとやっぱり早いね、量産型とはこの辺で性能差が出るよね、お、もう終わった、ではこっちは初期化してしまうかな」
「取り合えず、新しい方の確認してからにしてくださいね、じゃあ新しい方に設計図のデータを送りますね」
「ん、了解、お、相変わらず綺麗な図面を書くねえ、へえ魔法球の中こんな感じなんだね、うんこれなら僕でも作れそうだ、助かったよ」
「じゃあそっちはナツオさんに任せますね」
「うんじゃあ早速戻って作業をするかな、じゃあまた後で!」
そう言ってナツオは部屋を出て行った、それを見送ったメグミ達は、
「じゃあ朝食までもうひと頑張りしますか?」
「そうね、ノルマ後何個くらいなのかしら?」
「取り合えず冒険者組合納入分は200個ですよね? 今まで90個は収めたので今週納めたら120個、半分は超えましたね」
「サアヤ甘いわよ、500個の方が濃厚よ、取り合えずが200個だけど、そのまま追加で後300個作るようになるわよ」
「ふぅ、半自動で作れるようにしましたけど、肝心の核となる演算魔法球はやはり手間がかかりますわね」
「まあ初期に比べてかなり効率化したし、錬成空間に量産工程を組み込んでいるから……材料の追加も必要ね、組合にリスト提出しないとダメか面倒ね」
「材料は良いけど、そこから素材にするのが大変なのよね、不純物が混ざるとダメだから精錬に時間が掛るのよ、ねえ、メグミちゃんこの精錬短縮できないの?」
「歩留まり考えると、そこで時間が掛ってもきちんと精錬したいわね」
「メグミちゃんこれ一個幾らで納入してるの?」
「一個百万円よ、量産型で一個10万円程らしいから妥当な値段なのかもしれないわね、まあ材料費は冒険者組合持ちだから丸っと私達の儲けね、200個で2億円? その後の納入分は期限を区切られないけど、多分お値段の方は下がると思うわ、半額もあり得そうね」
「そうなんですか? 手間は一緒なのに……けど2億円か、半額になっても更に追加で1億五千万円、これ暫く遊んで暮らせますよね? 量産型の売り上げも一部入ってくるんでしょ?」
「そうよ、『フローティングアーマー』と『アクティブシールド』を訓練生分として納入もしてるし、量産型の監修もしてる、こっちの売り上げも結構なものね、新魔法の売却益も入ってくるし……本来ならもう働かなくても良い筈なんだけどね」
「けど研究費やその為の素材の代金を考えると、数億円あっても全然足らないのよね、この世界ってなんでこんなに材料費が高いのかしら?」
「どの世界でも希少な材料は高いんじゃないかな? 出来れば自分達で素材集めに行きたいんだけどね」
「させて貰えませんからね、はぁ、まあ仕方ないですけど、材料が相手持ちの仕事はストレスが溜まりますし、それ以外の趣味で何か作ろうとすると材料費がネック、ままなりませんわね」
『カナ』が静かにお茶の御代わりを注いで行き、執務室という名の作業部屋に作業音だけが響く。
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