第92話白虎神族

 メグミ達が個室に入ると直ぐに施設のメイド風衣装を着たウェイトレスがショートケーキとモンブラン、それと紅茶を手に個室に入って来た、プリムラのソファーの対面に座ったメグミの前にそれらが配膳され、プリムラとレミリアの前には紅茶だけが配膳される。

 ウェイトレスがお辞儀をして部屋から出ていくと、メグミは早速ショートケーキの苺をフォークで刺して食べる。程よく冷えた苺は適度な酸味と甘みがあり大変美味しい。


「おや? メグミちゃんは好物を最初に食べるタイプだったのかい?」


「いいえ、好物は最後までとって置くタイプですよ」


「苺は嫌いかい?」


「大好きですけど?」


「何故最初に食べたんだい?」


「どうせ食べ終わるまでお話を待ってくれないだろうと思って、温かくなる前に最高の状態の苺を真っ先に食べました」


「なるほどね、うんまあ正解だ」


 それを聞いてメグミはやっぱりなと思いながらもそのままショートケーキをフォークで切り分ける、モンブランは少し位温くなっても大丈夫だが、生クリームのショートケーキは温くなったら台無しだ。そんなメグミを見てプリムラは徐に、懐から物を取り出す、


「ねえメグミちゃん、これはメグミちゃんが作ってハルミに渡したモノだね?」


 『マジカルブローチ』を手にしたプリムラがメグミに尋ねる、メグミはフォークに刺したケーキを口に運び、紅茶を一口飲んでから、


「そうですね、サンプルを4個程プリムラ様に渡そうと思ってたんですけど、ハルミさんから1個回収してたんですね」


「ねえメグミちゃん『サキュビ69』は5人グループなんだよ、ハルミから残り4個あるのは聞いてるけどそれじゃあ1個足らないな」


「サンプルですよ? 足りている必要性を感じませんが?」


「けどねメグミちゃん、例えばだ、コレ、4個しかなかったとしよう、誰が仲間外れになるのかな?」


「ヒカリさんでしょうね、年齢からいっても、重要度からいっても一番従来の通信魔法球で十分そうですからね」


「そうだね、レミリアは今は僕の秘書見たいな役割をしてもらっている、必須だろう。エリンもそうだね両手が塞がることも多い事務仕事、僕の代理で大忙しだ、必須だね、となるとあと一つ、フランはエリンの指示で動き回っているから此方に回すとしよう、貰えなかったヒカリはどうなると思う? 完全に不貞腐れるね、あの子は戦闘向きで内政の才能は全くない、けどこういったことには人一倍敏感なんだ、仲間外れにされたと分ると途端に不貞腐れて愚図るよ」


「面倒くさそうですね……まあ今プリムラ様が一個持ってるんだから、この4個と合わせて5個になります、考えが足りなかったのは分かりましたけど、あくまで試供品、サンプルですからそこら辺は勘弁してください」


「うんまあ、そこを責める気はないよ、これは悪まで此方の都合だ、サンプルを貰ってその個数に我儘を言ってるだけだからね、大人げ無いのも承知している」


残り4個を受け取りその内1個をレミリアに渡しながらプリムラが答える、


「では何が問題なんでしょうか?」


「これその物だね、ねえメグミちゃん、これ今日中に後何個作ることが可能だい? 必要な材料は直ぐに届ける、可能な制作個数だけ教えてくれるかな?」


「まだ試作段階ですよ? 本格製造はもう少しバグや不具合を潰してからにしたいんですけど」


「これね少し使ってみたよ、大丈夫自信を持って良い、ハード的には殆ど不具合は無いだろう、そして性能は圧倒的だね、いや圧倒的すぎる、ねえメグミちゃん、これ軍用スペックだよね? 戦闘の際にも使用できる性能を与えているね?」


「冒険者ですからね、迷宮探索中に使用できなければお話にならないかと、まあ今行く予定のあるのは『水の魔王の迷宮』ですから、そこで使用して問題ない性能を与えてますよ」


「ソフトの方のアップデートは後からでも出来るように作ってあるだろう? なら問題ない、至急量産をお願いするよ、取り合えず、受付嬢部隊員には全員支給する、料金も払うし、材料費も出すよ、大至急数を揃えて欲しい」


「なんでそこまで? 便利なのは確かですけど、流石に大げさすぎるでしょ?」


「アツヒトにも既に一つ送って感想を聞いている、ねえメグミちゃん、君達の世界のアニメだっけ? その中に似たような物があって、これと似たようなものが軍事利用されているね?

 これ探索系の魔法と組み合わせてこの拡張現実? の視界内にその情報を表示できるようになるんだろ? そしてこの通信機能、コレ双方向だけじゃないね? グループで同時に会話可能だ、しかも念話も可能、コレ、持っているのと持っていないのとでは、組織的な軍事行動のレベルがまるで違ってくる代物だよね」


「そこら辺は午後からターニャに手伝ってもらって組み込む予定だったんですけどね、アツヒトさん某機動隊知ってたのか……まあ出来ますし可能です、その辺も折角なので考慮に入れてますけど、出来れば平和利用で、便利アイテムとして普及させたかったんですけどね……」


「平和利用は大いに結構、そして普及させることにも反対はしないよ、しかし、先ずは冒険者組合から普及を図らせてもらいたいね、これをこの地域の統治機構が装備する前に、一般人はまだしも、地域外の人達、若しくは敵対勢力が手にするのは悪夢だよ」


「では先ずは冒険者組合が大量購入でお買い上げってことですかね? 師匠達に連絡を取って量産を手伝って貰って良いですか?」


「一般人に普及させる、廉価モデルはそれでいいよ、けど受付嬢部隊や実行部隊に支給するモデルは君達に製造して欲しいな」


「それほど性能は落ちないと思いますよ? それでもダメですか?」


「ダメだね、ねえメグミちゃんこれどの程度まで性能を秘めてるんだい? そしてこれ何処まで進化する様に作ってるんだい?」


「バレてましたか……進化はそうですね使う人次第でしょうね、折角なので剣なんかと一緒で精霊を組み込んでます、だから後は使い手次第です」


「これ処理能力なんかも使って行けば増大していくね? 廉価版にはどうせこの機能はオミットする気だろ? というかこの辺の機能の付与は『カナ』を完成させて、新しい防具を完成させた君達にしか出来ないだろ?」


「だから面倒なんですよ、あんまりやり過ぎると精霊王が怒りますよ?」


「だから廉価版は良いよ、フル機能版は冒険者組合の購入分だけで良い」


「幾つ必要なんですか?」


「取り合えず200個を目標に、出来れば500個は欲しいね」


「うぁぁぁあ、もう、やっぱりそんな個数になるんじゃないですか!」


「でも午前中だけで20個も作ったんだろ? ならそんなに時間は掛からないんじゃないかな?」


「他で使う予定のあった部品のストックを組み合わせたりして作ったからその短時間で作れただけです。既にストックが有りませんから追加で作るには時間が掛りますからね!」


「ラボの方に防具の方の廉価版の進捗も聞いているんだけど、此方も苦労してるみたいでね、既に完成品が有るにも関わらず、その模倣ですら苦労している。ねえ君達は本当にどうなってるんだい、防具だけでも頭が痛かったのに、更に今度はこれだよ? 僕の気持ちも察して欲しいな」


「防具は好きにしていいってプリムラ様がいったんですよ? 本当は飛べるところまで作りたかったんですけどね……そんなに睨まないでください。『マジカルブローチ』はそうですね、今日から少しずつ部品を作っていきますから、一週間後に追加で30個、その後も一週間ごとに30個が限界ですかね、材料の用意はお願いしますね後でリストをレミリアさんに送ります。あとノリネエとサアヤにはプリムラ様の厳命だって説明しますよ」


「まあ他に配らなければ良いとしようか……もう少し早くは?」


「なりません、すっごい繊細な部品が多いんですからこんな物一日中作ってたら、ストレスでおかしく成りますよ、一週間で30個でも無理した数字です。これ以上は他を当たってください」


「まあ仕方ないか、よろしく頼んだよ、とこの話はこの辺で良いか、では次だ、ターニャは如何だい? 上手くやっているようだけど」


「ターニャですか? 特に問題は無いですね、あの子凄く物覚えが良いですよね。今日だってあっとゆう間にモノフィンにも慣れてたし、新魔法にも直ぐ慣れる。索敵能力も高いし、全体的に高スペックですよね、第一可愛い、あの耳と尻尾は至宝ですね、モフってるだけで癒されます」


「高評価で何よりだ、君達が居てくれてこちらも助かってるよ、あの通り人見知りな子でね、馴染んでくれるか心配していたんだけど」


「ねえプリムラ様? あの子、ターニャは自分で白虎神族って言ってましたけど、白猫人族じゃないんですか? 真っ白ですよ?」


「ふむ、メグミちゃん白猫人族を知ってるかい?」


「極稀に街で見かけますね、あの子と一緒で白い毛が特徴ですね」


「白猫人族はその他の猫人族に比べて圧倒的に人口が少ないんだ、そのことを前提に聞いてほしい」


「ん?? どういうことですか?」


「白猫人族は人口が少ない、その進化種である白虎人族は更に人口が少ない、辺境の地域に少数が暮らしている集落が有る、そこしか存在が確認されていないといっても良い、あと偶に白猫人族から進化する者が居る位だね」


「はあ? そうなんですね」


「そして白虎神族はもうターニャしかいない、少なくても他では確認されていない、どこかに生き残りが居るかもしれないけどね、この星は広い、我々が知らない土地でひっそりと暮らしている可能性は零じゃないが……まあ低い」


「えっ? ターニャだけ? なんで?」


「ターニャの両親はターニャが生まれて5歳位までに病気と老衰で亡くなったらしい、先ず母親が病気で死亡して、その後父親が老衰で亡くなった、この時点でターニャが一人で残された、白虎人族から進化するものが今後居なければ、恐らくターニャが最後の白虎神族となる」


「白虎人族と白虎神族は違うんですね?」


「違うね、白虎人族は白毛に黒の縞模様だ、一目でわかるよ。そしてターニャは真っ白で虎、全く違う」


「そんなものですか、獣人族は奥が深いですね、けどそうなんだターニャ両親が幼い時に亡くなってるんですね」


「そうだよ、そして我々が両親の元を尋ねるまで7年ちょっと一人で生きてきた、山の中に一人きりだ、5歳の幼女が山の中で一人で生きて、12歳まで生き残っていたんだよ」


「は? え? 5歳児がどうやって? え? 山の中に一人きり?」


「白虎神族はその名の通り神が種族名につく、神の様な種族だ、他と一線を画した才能を持つ、故に白虎人族は彼らを祭って、その住む山は神域として誰も近寄らない。誰もターニャの両親が死んだことに気が付かなかったんだ。ターニャの両親は、そんな彼らを頼ることも出来ないし、信用も出来なかったんだろう。

 ターニャの母親は昔から体が弱くてね、ターニャを生んで直ぐに病気で亡くなったらしい、父親の日記に書いてあった。そして父親は以前会った時は高齢でも元気だったんだが寄る年波には勝てなかったらしい、ターニャを随分心配していたみたいだが、学ぶ術と生きる術を幼い我が子に教えると亡くなったらしい、最後の瞬間まで日記を書いていたようだ。

 唯一信頼できる我々に父親は手紙を書いて助けを求めていたんだが、その手紙は届いたのだけどね、地域外のド田舎からヘルイチ地上街まで届くのに色々巡って7年以上も経っていた……何通か出した内の一通が漸く届いたんだ、急いで訪ねて行って、ターニャを発見・保護したのが一年くらい前だ」


「たった一人で7年ですか? しかもあの年で? けどターニャ普通に……いや普通じゃないのか、そうか一人だから無表情なのね、一人だから喋る必要が無かった」


「そういう事だ、勉強や剣術なんかは父親が残した書物を読んで独学で身に着けている、あの子はね天才なんだよ、優秀な白虎神族、その中でも極めて優秀な子だろう、5歳の子供が山で一人で狩りをして木の実を取り、自分で糧を得て、書物を読んで自分で学んであそこまでになっている、普通にはあり得ない事だよ。

 今のランクは『黒銀』だけどね、あれはコミュニケーション能力が極端に低い為だよ、山の中に一人、幾ら天才でもね、どうやってもそこは学びようがないさ」


「けどそこまでコミュニケーション取れない訳でもないですけどね、まだ一月ちょっとですけど、私はもう慣れましたよ、耳と尻尾を見れば大体分かりますし、表情も無表情を保つ気が本人に無いから僅かに変化するんですよね……まあ話を聞く限り、もう何年か経てばもうちょっと表情も出てくるのかもしれないですね」


「あの子が馴染んでいるだけでも奇跡に近いのだけどね、君達に行きつくまでに結構苦労したんだよ。あの子は聡いからね、下心や疚しい所のある人間には決して馴染まないし懐かない、それに結構気難しい所もある」


「そういえばそうですね、色は絶対に白色、猫じゃなくて虎、ここは絶対に譲りませんね」


「幼い時、父親に言われたようだね、


【白虎神族は白く気高く、その気高き白さを誇れるような虎になりなさい】


そう教えていたらしい」


「なるほど、それを今も守って、そう成ろうと努力しているんですね」


「悪い事じゃあない、そしてあの子は決してその白さを曲げないよ、決して不正はしない、君の監視者にぴったりだろう?」


「どういう意味ですか? 私だって悪いことは性的なこと以外はしてませんよ?」


「その性的な事も問題なんだけどね、ハルミをあまり揶揄うんじゃないよ? あの子はこの街で育って他を余り知らないからね初心なんだ、余り惨い事をしないで欲しいな」


「そんな酷いことはしてませんよ、ちょっとオッパイを弄りまわして、全身を愛撫しただけです」


「……そこに愛はあるのかな?」


「全世界の美女・美少女は全部すべからく愛してます!! 全部私のです、例外は認めません!」


「ねえメグミちゃん、悪化してないかな? ねえ、悪化してるよね?」


「世界中のカワイ子ちゃんと仲良くなって悪戯したい、この夢の何が悪いんですか?」


「うん、もういい、分かったそこは諦めよう、諦めた」


「そうだ一つプリムラ様に尋ねたいことが有ったんですけど、今この街で保護している人達はなんなんですか? それに淫魔の人達を呼び寄せて何をしようとしてるんですか? 此処に居る貴族やエルフの子は?」


「一つかいそれ? メグミちゃんはどう予測しているのかな?」


「そう尋ねるってことは、私の考えで殆ど間違いないんですね、今この街に集められてる地域外の人達は元『奴隷』ですね、それも恐らく『性奴隷』の人達ですね」


「何故そう思う?」


「前のゴーレム事件、『聖光騎士団』の事件ですね、あの事件の際、奴らオークに元『性奴隷』の女性を引き渡してます。このことからその『性奴隷』を扱う組織と繋がりが有ると考えられます。

 またあのゴーレムです、その後聞いた報告でのあの組織の資金が莫大過ぎます。本来の本体である大神殿経由での資金の繋がりが薄いのにアレだけの資金を投入出来ている。何某かのパトロンの存在が有るのは確実、なら真っ先に思い浮かぶのが『性奴隷』を扱う組織でしょう。何らかの見返りを与えることによって、その組織から資金を得ているんだと思いました。

 ならばこの地域の上の方は前回の事件で激切れしてるし、その『性奴隷』を扱う組織を潰して資金を断つ事は普通に考えられますね。

 そして地域外の冒険者の流入が無いこの『シーサイド』で保護してる点からも、地域外の人間を大量に保護したとすれば、その国に残しては置けない対象、『性奴隷』で有る可能性は高まります」


「ふむ、それから?」


「次の淫魔の動員ですが、『性奴隷』であると仮定すれば、その目的は性欲の処理でしょうね。性的に傷ついてきた『性奴隷』の人達ですが、それ故に、性欲は様々な形で高められている可能性があります。ならばそのケアに淫魔の人達は最適でしょうね、これ以上心を傷つけることなくケアできます」


「ではこの施設の貴族やエルフは何だと考える?」


「没落した貴族が『性奴隷』もしくはそれに類する立場に落とされるのはよくある話でしょう? アレだけ綺麗なら文句なく最高級な『性奴隷』でしょうね、エルフの子も一緒でしょう……けど一つ腑に落ちない点が有ります、貴族の子もエルフの子もその気高さ、気位の高さが損なわれてません。

 実際に売られる、又は酷い事をされる前だった可能性も高いですけど、その割に人を恐れてます、特にこの施設、タツオ以外に男性が一人も居ません、男性を恐れている印象が、タツオを恐れている印象が強い、あれでタツオ眼つきは鋭いですけど、子供には懐かれるんですよ、なのにあの子達には恐れられている。何か男性にされたっぽいのに堕ちた感じがしない、不思議です」


「本当によく見ているね、僕に聞きたいのは今言ったことの確認かい? それとも腑に落ちない点の絡繰りかな?」


「両方お願いしても良いですか? 本人たちには絶対に聞けないですからね」


「君はこの辺はよく分かってるのに、なんで何時もはああなんだろうね?」


「心を傷つけることはしてませんよ? 泣かれたりしないように細心の注意を払って限界を攻めてる心算です」


「限界は攻めないで欲しいなあ、まあいい、隠しても無駄だろうね正解だ、驚くほどに正解だ、現在奴等の資金源だった国と組織を徹底的に潰している、その際に保護したのが今この街に居る人たちだ。

 そして今この施設に居る貴族……貴族でなく元王族だけどね、国の無くなった王族、そして君の予想通り売られる直前で、いや、一部は直後か保護したんだ。そしてもう一つの疑問の答え、魔道具だ」


「記憶を暈されているんですね? この街の心のケアと同じで心を暈す魔道具、そんな様な物を付けて何かされていた? だから記憶があいまい、夢の中で男性に惨い事をされた様に思う、けど実際にされたかどうかは不確か、だから心が堕ちてないのか……じゃあ偶に夜中に聞こえる声は、その悪夢の様な記憶に魘されて居るのか……許せないわね、私のカワイ子ちゃんに何してくれてやがるんだろう」


「『支配の首輪』というらしい、それを付けられると意識があいまいになって自殺も、何をされているかも曖昧になって、生きた人形のようになる」


「けど聡い子が多そうですから、夢じゃなくて実際に起こったことだと自覚もしてそうですね、だから男性をあそこ迄恐れるんでしょうね」


「そうかメグミちゃんにはそう見えているんだね、ならそうなんだろうね、だからか、ふむ、納得したよ」


「なにをですか?」


「いや此処に居る子達から要望が上がっていてね、これも君達に追加で頼みたいんだが良いかな?」


「内容を聞いても居ないのに返事は出来ませんね、どうせ厄介ごとなんでしょ?」


「そう言われると頼みにくいじゃないか、けど君達にも悪い事じゃないと思うけどな?」


「何なんですか? ハッキリ言ってください」


「うんじゃあ言うよ、此処に居る子達を戦えるように鍛えてやって欲しい、基礎から、一から教えてやってくれ、自分達の身を自分達で守れるようになりたいんだと言っている、これは元王族やエルフの子達だけじゃない、あのメイドの子達も一緒にお願いしたい」


 メグミは黙って、少し温くなったショートケーキを食べる、そしてこっちは冷めてしまった紅茶を飲み、そのままモンブランにフォークを突き刺す、このモンブラン、中心に栗が一個丸ごと入っているタイプでその周りを生クリームで囲い、更に上から栗のクリームが紐を束ねたようにたっぷりと掛かっている、少し温くなっているが、やはりモンブランは少し温くても美味い。


(ふむ、どうしよう? ケーキを食べ終わった、さてこの無理難題ばかり押し付ける見た目幼女を如何してくれようか? 拒否権は無さそうなんだよね)


「拒否権は?」


「ないね! 大丈夫お金の心配はいらないよ!」


満面の笑みで幼女が呟く、


「ブラック企業って知ってますか?」


「うちはホワイトな組織だと思うよ?」


「アイテム造らせて、更に教育ですか? あの人達運動したことあるんですか?」


「俗に言う、【ペンより重い物を持ったことが無い】人達だと認識してくれたまえ」


「死ぬほど走らせて、死ぬほど筋トレさせますけど良いですか? あの子達には一切の口答えは許しません」


「どこの鬼軍曹だい? 少しお手柔らかに頼みたいんだが無理かな?」


「無理ですね、大丈夫、死ぬ前段階位で回復しますし、ノリネエが付いてるので死にやしません」


「ちなみにメニューは?」


「砂浜の掃除はしたので、明日から早朝は砂浜でランニングですね、なに魔法で回復させたりしながら走らせますから、直ぐに効果が有ります筋肉の超回復を無理やり起こさせればいいんです、そしてシッカリ泣くほど柔軟させて、朝食、その後は座学と実地でミッチリ魔力が空になるまで魔力操作させて、その後昼食、その後一時間休憩を挟んで庭で延々素振りさせて、それを2時間ほどやったら、折角です、プールで延々泳いで貰って、その後夕食、その後寝るまで2時間ほど再び魔力操作させて、気を失った辺りで就寝させれば良いんじゃないですかね?」


「先ずは基礎体力かい? なんだろう死んじゃわないかな?」


「死なないように気を付けますよ、これをやって貰ってる間に、ショートソード位は作ってあげますかね? いやココの迷宮を思えば槍の方が良いのかな? まあ個人の適正に合わせます。防具も軽めの物を作って、2週間後位に迷宮の地下1階で狩りが出来る位になって貰いましょうかね?」


「2週間かい? それはまたハードなスケジュールだね……本当に死なないかな?」


「大丈夫ですよ! ちゃんと回復させますから、ポーションも結構作ってあるし、いけますよ」


「本当に鬼軍曹モードで行く気だね?」


「ちゃんと休憩も入れてますよ、寧ろ生ぬるい位でしょ? こっちは魔法やらポーションやら有りますからね、根性さえあればこの程度平気です、まあ暑いのでシッカリ水分と糖分・塩分の補給は行いますよ、あの可愛い子たちがどんな悲鳴をあげるのか今から楽しみですね」


「メグミちゃん君、Sも行ける口だね? ノリコちゃんがいるから酷いことにはならないと思うけど、本当に大丈夫だろうね?」


「ノリネエって結構スポコン寄りですよ? 訓練では自分に厳しい分、人にも厳しいですよ、私も頑張るから貴方も頑張ってって延々励ましながら無茶させるタイプ。サアヤは効率重視で合理的に苛め抜きます。やるとなったら泣き事とか無駄と切り捨てるので慈悲は無いです」


「なんだかあの子達が可哀そうになって来たよ」


「まあやるからには手は抜きませんよ、任せてください、どこに出しても恥ずかしくない兵士に鍛えあげますから!」


「初級の冒険者位で良いんだけど? 兵士ってあの子達を如何する気だい?」


「どっちも似たようなものですよ、それに自分の身を守るんでしょ? なら基礎をミッチリ仕込めば後は応用と自己鍛錬で勝手に育ちますよ、【あの地獄の訓練よりマシだ】って言うようになれば大丈夫です」


「本人たちが要望したこととはいえ、可愛そうになってくるね、多分こんな鬼軍曹は想像してないだろうね……本当に」


プリムラは溜息を付きながら、肩を竦めるが、メグミを止める気はない様だ。その様子にメグミは満面の笑みで、


(さて了承も得たし、厳しい訓練に見せかけて体触り放題だわ! さてどうやってセクハラしようかな? ランニング途中でへばった子にのお尻を叩こうかしら? あと魔力操作は手取り足取り、胸とか揉めないかな? 素振りはチャンスね、型の修正とか言って触り放題よ! プールで誰か溺れたら人工呼吸ね! これは絶対! なんかやる気出てきたわ!)


そんな楽しい想像で頭が一杯だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る