第80話日課

 色々あったが夕食は海の幸満載で美味しかった。メグミは甲殻類の入ってないメニューを事前に頼んでおいたので一人別メニューで有ったが、その分、魚や貝が多く使用されていて、特に貝類は非常に美味しく、また日本でも高級とされるアワビに似た貝類は絶品であった。皆が味見と称して一切れづつ持っていくので結局メグミは一切れしか食べれなかったが、まあ今度はこれを全員に頼めばいいだけであろう。


 日本人であるメグミ達には、魚介類ならご飯が食べたくなるところなのだが、今日のメニューは洋風な為か、焼いたフランスパンの上にそれらの魚介類の料理を乗せて食べるスタイルが取られていた。他の地域の貴族である4姉妹やエルフのシルフィを考慮したためかもしれない。


 エルフは菜食主義の様なイメージだったメグミであるが、サアヤは普段から若干野菜の方が好きだが肉だろうと魚介類だろうと食べている。サアヤだけ特別変わり者、そんな風にも思っていたがシルフィも若干野菜を好んで食べているが、特に肉も魚介類も食べられないという事は無いみたいだ。不思議に思ってサアヤ聞くと、


「今更ですか? へ? 私が変わり者だと思ってた? 別にエルフだって何でも食べれますよ。好みとして野菜や果実類が大好きなだけです、殆どのエルフがそうですね。

 少し動物や魚貝類の由来の食べ物は、私達エルフにはキツイ味に感じるんです、だから好んで肉や魚貝類を食べようとは思いませんが、少量で有れば食べられますし、それにこの地域の料理は美味しいですからね。

 素材の味を生かしたといえば聞こえはいいですが他の地域の料理は、素材の風味がキツイんです。この地域の料理は生臭さや血の味とかが薄いので他の地域の肉や魚貝類の料理よりも随分食べやすいですわ」


「そういうものなのね、じゃあ日本食の寿司や刺身はダメなの? あれモロに素材のまんまだけど」


「メグミちゃんは分かってませんね、ああいった、素材を生かした日本食の方が職人さんの腕が出るんですよ、素材のままに見えても、キチンと仕事を一品一品にしてあるのです。メグミちゃんはそれでも日本人ですか?」


(そうだった、サアヤはクロウさんに可愛がられてるんだった、あの爺さんが色々教えこんでるのね)


 ヘルイチ地上街には高級料亭も高級江戸前寿司店もあるそうだ、あの孫バカ爺さんなら連れて行ってると思って間違いないだろう、そう思ってアハハッと笑って誤魔化して質問を切り上げた。


 その後食後のデザートで冷たいアイスクリーム(搾りたてを渡して作って貰った)をみんなで食べながら寛いでいると、副組合長のハルミが再度訪れ、メグミ達に今後の方針や依頼内容を説明していた。


「ああ、アツヒトから聞いていると思うが、今回の要人警護は、まあ建前だ、あまり気にすることはない。この建物で夜間寝ていれば良い、万が一何者かが襲撃してきても君達なら撃退できるだろう。

 まあ、ほぼあり得んがな、現在『シーサイド』は少し前の冒険者組合の作戦で救出・保護した人達が多数滞在している、此処だけじゃない、町中の宿屋、ホテル、旅館などにそれぞれ分散して宿泊中だ、よって一般の冒険者が少ない、宿泊できないからな。

 またこの街に常駐している冒険者達には街の周囲の警戒・警備にあたって貰っている。この施設も昼間はそれらの人員で警戒しているので、特に警護は必要ない。

 この『シーサイド』は絶海の孤島だ、海上から侵入される恐れはない。『飛空艇』で空から侵入しようとしてもレーダーで索敵しているから、近づけば必ず発見できる。個別目標転移魔法は結界を張っているからな、街の外からこの街に転移は不可能だ。固定点間転移魔法は現在ヘルイチ地上街からの者しか受け入れていない。不審者が紛れ込む可能性は皆無だ問題ない」


「随分手慣れてますね? 何度か似たような事を経験済みなのですか?」


ノリコが質問すると、


「ここ『シーサイド』の立地だからな、何か保護する必要が出たときに非常に守りやすい。元々他国の者が来ることは非常に少ない街だ、迷宮の特殊性もあるし、住人の特殊性もある、昼間見たと思うが受付嬢にさえほとんど普通の人間が居ない、魔物と呼ばれる住人が闊歩している街だ、他国の一般人は寄り付かんし、他国の冒険者も滅多に来ない。

 5街地域の冒険者はそれなりに来るが、やはり迷宮の特殊性から観光目的、バカンス目的の者が多い、水路を見ただろ? あれのおかげで日差しはキツイのに建物内は快適な温度に冷房されている。一年を通して非常に快適に過ごせる街なのだ。

 まあ海水浴だったか? 日本人はそういったことがしたいらしいが、プールは至る所にあるのだ、何故危険な海で水棲機能を持たん人種が泳ぎたがるのか理解できんが、それが出来なくても風景は綺麗だし、風は気持ち良い、海の幸も豊富で、真水にも困らん。その他の物資も定期便で流通も確保されている、良い街だろう? 気に入ったのなら住んでも構わんぞ、フフフ。

 まあ、あれだ、他国で保護された人々を匿うのに最適の街だ、何があったのかは機密事項なので詳しくは話せんが、快適に療養するにはもってこいだろう」


「それで私達は好きに過ごしてたらいいんですか? なにか迷宮のクエストもあるみたいなことが書いてありましたが?」


メグミが質問すると、


「ああ、そのことでお願いがある、先ほども言ったように、昼間は他の者が警護しているので、この施設に居る必要はない。

 先程話した事情から、現在迷宮に入る冒険者が非常に少ないのだ、マーメイドやスキュラの子達は変わらずに迷宮内に入ってくれているが、やはり一般の冒険者がそれなりに入って魔物を狩ってくれんとな、魔物が増えすぎて困るのだ、マーマン達は漁とか警備と色々別の仕事もあって手が離せんし、そうなると女性型魔物だけになるだろ? やはり戦力不足でな。

 だから君達には迷宮に入って適当に魔物を狩って間引いてほしい、少し特殊な迷宮だが良い経験になるだろう、なに深く潜れとは言わん、低階層の魔物を狩るだけで良い、頼まれてくれないか」


「それは構いませんが、それだけでいいんですか? 適当に狩るだけで?」


「ああ、構わない、それだけでもずいぶん助かる、ああ、あとアカリ君とカグヤ君には別途頼みたい仕事があるんだ。すまないが二人を貸してくれないか? 戦力は落ちるかもしれないが、君達なら低階層で攻撃力不足にも、回復力不足にもなるまい、是非お願いする」


「ノリネエじゃなくて、二人ってことはサキュバスとしての力が必要なんですね」


「察しが良くて助かるな、その通りだ、二人の性格や嗜好は報告を受けている、それも含めて是非お願いしたい」


「二人はどうなの? 私達は多分二人が抜けても低階層位なら平気だと思うけど」


「私は構わないわよ、先ほどの療養となにか関係ありそうだし、人助けは大地母神様の教え、否は無いわ」


「カグヤも先輩と離れるのは寂しいですけど、人助けじゃあ仕方ありません、カグヤだって大地母神の神官ですからね、お受けいたしますわ」


「では二人とも、明日朝、冒険者組合事務所まで来てくれるかな? その時詳しい内容や案内を付けよう」


「分かりました」


「了解しましたわ」


「うん、じゃあアカリさん達はそっちを頑張ってもらうとして、私達は明日から迷宮に行きましょうか、毎日プールじゃ飽きるからね、それに久々に暴れたい!」


「メグミちゃんは最後のが本音でしょ? 最近籠って大人しくしてたものね、久々に大暴れしても構わないでしょ、多分」


「いい加減ガス抜きしてないと、メグミちゃんの場合どこか変なところで爆発しそうですわ」


「二人とも酷い言い様ね、まあ良いわ、タツオもターニャもそれでいいわね、『カナ』は本格的な迷宮探索は初ね、楽しみだわ」


「おれは構わねえ、俺も久々に思いっきり体動かせそうでワクワクするぜ、訓練だけじゃあ感が鈍る」


「ん!」


《イエス、マイマスター、頑張ります》


「ふむ、ならこっちはいいけど『ママ』とアリアさん達は如何っする? プールやら部屋で休んでても良いし、観光でもしてる?」


「そうね、私はこの施設の調理場でお手伝いをさせてもらいたいわ、偶に家の方にも様子と掃除に帰るけどやっぱり何かお料理とか家事をしていないと落ち着かないの」


「なら私達はそうね、洗濯物を干すくらいは出来るからそれでも手伝うわ、後はのんびり観光でもして過ごすかな、それに飽きたら読書でも良いし」


 『ママ』は余りのんびりするのが苦手らしい、偶にはゆっくり休んで欲しいとメグミ達は思ったのだが、それが望みなら構わない、アリア達は普段とあまり変わらない、牝牛人族は基本のんびり屋さんだ、普段から一般の家事以外の時間はそうやって読書やTVを見てのんびり過ごしている、ジェシカ辺りはプールで泳いだりもしそうだが、まあ任せて大丈夫だろう。

 方針も決まったところでハルミは帰宅し、メグミ達もお風呂に入って就寝となった、お風呂は大浴場でみんなと入ったが、やはりシルフィも貴族4姉妹たちも来なかった。


 翌朝、何時もどおり朝早くに目覚めたメグミは、昨日、日課をできなかったことも有り、どうにもストレスが溜まっていたことも有り、日課をしようと施設の庭に出たのだが、芝生の大変綺麗な庭で、メグミは日課のメニューを熟すこなすのに気後れしてしまった。

 メグミが普通に日課を熟せこなせば、この庭の芝生は瞬く間に剥がれて酷い有様になるだろう。ここではダメだ、悩んだメグミはプールから見えていた砂浜に行くことにした、近くにある城壁の門を抜けて砂浜に出ようとしたところで後ろからサアヤと『カナ』そしてターニャが追いかけてきた。


 どうやら3人とも付けてきていたらしい、『カナ』とターニャは何となくわかる、最近は日課を『カナ』と熟すことも多い、その為に作ったといっても良いので当たり前だが、今回は初めての場所なので『カナ』には声を掛けていなかったが、しっかり後ろに付いてきていたらしい、健気だ。

 ターニャも監視者としての役割もあるし、普段も早起きをした時にはメグミの日課に付き合うことも有ったので何となく追いかけてきたのは分かる。

 しかしサアヤが追いかけてきていた理由が分からない、


「なんでサアヤまでいるの? あんた何時も日課には付き合わないでしょ?」


「『水の魔王の迷宮』は普通の広さの迷宮ですからね、魔法をそんなにバンバン撃てませんもの、折角ですから私も砂浜に行って、あのカニさん達相手に思いっきり魔法を放ってスッキリしたいんですわ、あの数です、範囲魔法を放ったらさぞ爽快でしょうね」


「……そうよね、サアヤってトリガーハッピーな子だったわね、忘れてたわ、何時も人の事酷いひどいって言ってるけどあんたも相当酷いひどいよね?」


「良いじゃありませんか、何も気にすることなく思いっきり魔法が放てる環境で、魔物退治が出来て、ストレスも発散できる、最高ですわ」


「……まあ良いけどね」


メグミ達は揃って門の警備をしている守衛の冒険者に言って門を開けてもらい外に出ていく、


「危ないよお嬢さんたち、外は魔物で一杯だよ? 止めた方が良いよ? え? どうしても? なにをしに行くつもりか知らないけど直ぐに戻ってくるんだよ?」


「ああ、大丈夫ですよ、ほら武器も持ってるし」


「けど君、ジャージにTシャツじゃないか? せめて防具を付けていかないのかな? 他のお嬢さんたちも、なんで君達そんな軽装何だい? 武器が有れば良いってものじゃないよ?」


「あははっ、ご心配なく、危なくなったら逃げますから大丈夫ですよ、じゃあまた」


そう言ってメグミは手御軽く振りながら門を出て直ぐの砂浜に来る。


「じゃあ先にサアヤやっちゃって私達は砂浜の向こうの草地から攻めるわ、あの草地と砂浜の境ねあれからはみ出さないように撃ってよ、初撃入れたら私達は草地に向かうわ、その後も草地の方で狩るから砂浜は任せたわよ? ターニャはどうする? アイテムとか魔結晶拾ってる? それとも私と一緒に狩る?」


「狩る!」


「ん、分かったわ、『カナ』も私と一緒に狩るの? それともアイテム集めが良い?」


《マスターと一緒に狩りたいです》


「分かったわ、サアヤ、プリンちゃん呼び出して、こっちはソックス呼び出すわ、あの子たちにアイテム回収を任せましょう、プリンちゃんのアイテム転送先は何処に設定してる?」


「ヘルイチ地下街の冒険者組合の倉庫ですわね、少し遠いですが、私が魔力補助するので平気ですわ、迷宮に行く前に、ここの冒険者組合の倉庫に場所を変更しないとダメですわね」


 そう言って召喚魔方陣を展開する。プリンは今回も連れてきていたので、今いるのはメグミ達が寝ていた施設の部屋だろう、距離も近いし魔力は少なくて済む。メグミも召喚魔方陣を展開するが、ソックスはヘルイチ地上街の郊外の農地だ、少し魔力を多めに消費する、遠いことも有るが……


「ワンッ!」


 召喚されて直ぐに一声吠えるソックスはこの一か月半位で更に大きくなった、馬よりも既に大きい、もう北極熊位ありそうだがまだ大きくなるらしい、胸に抱いていた頃が懐かしくなる、今ではメグミが咥えられて運ばれる大きさだ。


「ソックス、何時もみたいにアイテム集めをお願いね、後襲ってくる魔物は容赦しなくていいわ」


「ワンッ!」


「犬!」


「ワンッ?」


「お手!」


「ワフッ」


 ターニャが何時もの様に頭の上に前足をのっけられている。懲りない、ソックスは頭が良いのだ、ある程度人語も理解しているらしい、毎回ターニャに犬と言われて少し不機嫌になっているのだ、そして毎回意地悪で、前足をターニャの頭にのせているのだが、ターニャは全く気にしていない、耳は元気に立っているし、尻尾が機嫌よく振られている。自分は猫と言われると絶対に虎と否定するが、狼のソックスを犬と呼ぶのは全く気にならないらしい、どう見ても犬の様な大きさではないのだが……


「そろそろ行きますよ?」


 『風香』と『雷歌』を呼び出したサアヤはやる気満々だ、殺る気の方かもしれないが、海だからだろうか? 珍しく『雷歌』を呼び出している。


「OK、やっちゃって、あの忌々しいカニ共を薙ぎ払うのよ」


「『烈風風刃結界』放ちます」


 真空刃を無数に生み出す、竜巻の様な柱が横に砂浜を蹂躙していく、そこに無数にいる、2メートル程の巨大なカニ『カモンシークラブ』を切り裂き、粉砕しながら蹂躙していく、暫くして魔法が収まると100メートル程の距離にわたって砂浜には動く生き物が居なくなる。


「ん、じゃあ私達は草地に行くわ、『カナ』あのヤシの木とかも魔物よ、遠慮なく切り裂きなさい、私がジャングル側、ターニャは中間の草地、『カナ』は砂浜との境目辺りの担当よ、行くわよ」


メグミは両手に片刃の反りの美しいショートソードを構えると走り出す、各種『恩恵』で強化された足は空気を切り裂くようなスピードでメグミを加速させる。

 そのメグミに続いてターニャもその体を加速させる、ほぼメグミと同じスピードが出ている、13歳でメグミに付いてこれるのは流石だ。

 『カナ』も加速しメグミの後を追い、太刀を抜き放つと、そのまま途中で進路変更して近くの『ココナッツキャノン』を一撃で切り裂く、周りの『ココナッツキャノン』からヤシの実が飛んでくるが『カナ』のスピードに対応できていない、既に通り過ぎた地面に命中し孔を穿っている。そのまま『カナ』は止まることなく次々に『ココナッツキャノン』を撃破していく。


 その頃メグミは草地からジャングル付近まで一気に駆け抜け、目の前に現れた胴回りが直径70センチ、体長20メートルになろうかという『ジャイアントグリーンバイパー』を、メグミを発見し鎌首をもたげようとしている最中に接敵し、両手の剣でぶつ切りにしていく、瞬く間に首を刎ねられた『ジャイアントグリーンバイパー』はその巨体を生かすこともなく命を刈り取られる。

 更に現れた3メートルほどの『トロピカルタランチュラ』も立ち止まりもせずその毛深い足を切り刻み頭を刎ねる、群れだったのか次々と『トロピカルタランチュラ』が10数匹現れるがメグミは躊躇うことなくその群れに突撃し、回転するように、舞うように斬撃を辺りに振りまき、切り刻まれた『トロピカルタランチュラ』の体の破片が周囲に舞い散る。


 ターニャも同じく草地の中央に駆け付けると、そのまま白い刀身の刀を抜き放つ、目の前に立ち塞がる『グラスホッパー』と言われる2メートル程の巨大なバッタを駆け抜け様に頭を飛ばして命を刈り取る。その後ろで『グラスホッパー』を狙っていたと思われる、4メートルはある『サーベルマンティス』にも立ち止まりもせずに突っ込み、その巨大なカマを体を捻って躱すと、細い首を易々と切り裂き命を絶つ、首を刎ねても『サーベルマンティス』はバタバタとその巨大なカマを振って動いているが、気にもせずに次の獲物に向かって駆け抜けていく。


 サアヤは『覇道吸魂陣』で補給しながら砂浜を歩いていくと、再び『烈風風刃結界』を放ち『カモンシークラブ』を殲滅する。そこでサアヤは自分がミスをしたことに気が付く、『雷歌』が居るのにまたしても『烈風風刃結界』を使ってしまったのだ、横を見ると『雷歌』が不貞腐れていじけて居る。

 焦ったサアヤは砂浜に押し寄せる波に遠浅の紺碧の海をみる、透明度の高いその海の中には、『ソードフィッシュ』が群れで泳いでいて、『ポイズンジェリー』が可成りの数漂っている、海底の『ニードルシェル』は這うように動き回っていて可成りの数の魔物が居る。

 『覇道吸魂陣』での補給もそこそこに、サアヤは周りにだれも泳いでいないのを確認して『覇王雷撃陣』を海に向かって全力で放つ、『雷歌』もご機嫌で力を貸してくれる。


 ホット薄い胸を撫でおろしていると、沖合から物凄い剣幕でマーマン達が6人ほどサアヤの元に泳いでくる。


「君は何をやっている!! こんな街に近いところでなんて魔法を使うんだ! 今回は少し痺れた位で済んだが、一歩間違えば大惨事だぞ? 分かっているのか!!」


 全力で放った電撃は可成りの範囲までその効果が及んでいたようだ、マーマン達はその電撃に掠ったらしく激怒、街に近かったことも災いして、小言が続く、更に、


「君はこの倒した魔物を如何するつもりだったんだ? 海に入って拾う気だったのか? 君たちは水中で呼吸出来ないだろ? どうするつもりだこの魔物を!」


 みれば無数の魔物が波間に漂っている、これをサアヤ一人で泳いで拾い集めるなど不可能だった、そして、


「大体この砂浜の惨状はなんだ? 君はこれを如何するつもりだ? 魔結晶の回収は冒険者の義務だよ? まさか殺してそのまま放置するつもりなのか?」


 見渡す限りの砂浜に『カモンシークラブ』の死骸が延々と転がっている、見るとソックスは城壁近くの死骸を口に咥えてはプリンの所に運んでいるが、ちょっとやそっとの数ではない、ソックスだけは何時片付くか知れたものではなかった。


 騒ぎを聞きつけてメグミ達もサアヤの所に集まってきていた、珍しく失敗して怒られてシュンとしているサアヤの姿を見て、メグミは腹を抱えて笑って居たが(サアヤには思いっきり睨まれた)、マーマン達はそのメグミ達を見て、更にメグミ達のやってきた方を見て、唖然としたかと思うと、メグミ達を呼び寄せた、そして、


「君たちはなんなんだ!! 君は何を笑って居る! 君たちは同罪だ! 君たちのやったことも良く観たまえ!! なんだあの無数の魔物の死体は、君達は一体何千匹の魔物を殺してるんだ? この回収どうするつもりだ? 草地からジャングルに掛けてだけでも信じられない数の魔物の死骸が転がってるぞ? どうするんだ!」


 そう言って激怒するマーマン達、そこで漸くようやくメグミ達は理解した、此処は地上で迷宮ではない事を、そう、ここの魔物達は自然繁殖型、自然発生型の魔物と違って魔素に分解しない。死体はそのままの姿でそこに残る。ドロップアイテムなど無いのだ、自分達で解体してそれを素材に変えなければならない、そのことに気が付いて周りを見渡す。


 驚くほどの魔物の死骸の山であった、そして一切魔素に分解していない、サアヤの殺した魔物の数も千に届く数であるがメグミ達3人が殺した魔物の数もその半数の500匹は越えていた。


 マーマン達は通信魔法球で冒険者組合事務所に連絡を取る、遅れて駆け付けたタツオと慌ててやってきたハルミがその惨状に頭を抱える。直ぐに彼方此方に手を回して、人手を集めてその死骸を処理していく。それを手伝うメグミ達にハルミは、


「規格外なのは聞いていたが、無茶苦茶だな君たちは、一か月もこの島に滞在したらこの島の魔物が完全に駆逐される勢いじゃないか? なあ、何がしたかったんだ?」


メグミ達は顔を見合わせて、


「日課です!」

「日課でしょうか?」

「日課!」

《日課だと伺ってます》


そう答えたらハルミが蹲ってうずくまって頭を抱えてしまった。タツオが死骸を運びつつその横を通り掛かり、


「おまえらズルいぞ! 明日からは俺も誘えよな、なんだ片付けだけさせやがって、俺だって日課熟しこなしたいだろうが!」


そう言い捨てて死骸を担いで歩いていく。ハルミは天を仰いで、


「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、日課ってなんだぁぁぁぁぁぁ!!」


そう絶叫した。

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